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第2話 科学部、ワープする!

「教授、教授ー。おーい、姐御、起きて」

 二号に揺すられて、教授と姐御が目を覚ます。姐御は先程のまま、つまり教授の腕にしっかりと絡みついたままであり、教授の方はと言えば条件反射の成せる業なのであろうか、姐御をこれまたしっかりと抱きしめた状態で目覚めた。金太に見られたら教授の命は保証できないような光景である。
 それをよく理解したうえで金太を放置し、この二人を先に起こした二号の判断は流石と言うべきであろう。殺戮への本能的な恐怖がそうさせたのかもしれないが。

 三人揃ったところでやっと金太を揺り起こし、四人が無事であることを確認して、さてと辺りを見渡して二号が一言。

「ここ、どこー?」
「海岸のようですね」

 見りゃわかる。海と浜があるのだ、脳筋金太だってわかる。それを敢えて言語化するのが教授なのである。

「近所じゃないわね~。こんな海岸見たことないもん」
「そだねー。オイラも見たことないなー」

 後ろを振り返ると防砂林なのか、林のようなものがある。どこだろうか。

「日本海側でしょうか、あちらは海岸沿いに防砂林の連なるところがありますからね」
「それってワープしたっつーことじゃないすか?」
「今さら何言ってんのよ、見りゃわかるでしょ」
「うん。そう。それ前提ねー」

 ストレートな姐御と違って二号は笑顔で刺さることを言うのだが、何しろ相手が金太である、刺さらないのである。しかもこの二号、部長という重職にありながら常に語尾を伸ばした話し方をするため、何かと緊張感のある場面においてもまるで緊張感を周りに与えないのである。そのうえこの身長(明らかに姐御より15cmは小さい)、この変声期の訪れを全く感じさせない声、究極の癒し系と言っても過言ではない。

「良かったね、教授! いつの日かきっとワープしてみたいって言ってたもんね」
「はい。ですが、不可抗力によるワープではなく、自らの自由意思によってワープしたかったですね、これでは詳細データが取れません」
「それは追々でいいんじゃない? 今回のデータだって十分次回に役立つわよ」

 何度でもワープする気満々である。お前ら少しは驚け。すんなり受け入れるな。
 しかしそんなことは彼らには無関係なのである。謎リュックから取り出したノートに、早速教授がメモを取っている。

「ワープ元地点、科学部部室奥、雑木林前実験場、太陽光反射熱を利用した調理に関する実験中、時刻……7月12日16時12分。二号先輩、何が起こったか覚えてますか?」
「なんか凄い光ったよねー」
「うん、それと大きい音がした。バーンって。あたしは教授にくっついてたからあんまりよく見てないけど、眩しかった」
「落雷でしょうか。天気は良かったようですが」
「雑木林の奥の方が曇ってたのかもねー。積乱雲の20km圏内ならいくらでも落ちるから」
「では、ワープ原因は推定『落雷』ということで」

 ブツブツ言いながらノートに書き込んでいく。

「まずは現在地の特定だよねー。どこにワープしちゃったかわかんないしねー」
「そうよねぇ」
「GPSは圏外になっているようですね」
「オイラのもー」
「あたしも」
「俺もっす」
「浜、海、防砂林、GPS圏外。まさに科学部の頭脳の出番ってとこだよねー」

 二号の目が異常に嬉しそうである。そこ、喜ぶところか?

「ん? 姐御先輩、あの林、なんか変じゃないですか?」

 教授が眼鏡をかけ直す。

「え?」

 姐御が首を傾げる。

「は?」

 二号がぽかんと口を開ける。

「どうしたんすか? ねえねえ、ちょっと、三人ともどうしたんすか?」

 金太だけがわかっていないようである。

「いや、先輩あれ……」
「シダ類よねぇ、二号?」
「あー、なんかオイラの専門分野のような気がするんだけどー」
「いえ、それはあまりにも突拍子も無さすぎますよ、あれを可能とするには僕の専門分野を総動員しても説明がつきません」
「あたしの専門分野でもあるから言わせてもらうけど、あれは絶対シダ類!」
「ちょっとちょっとちょっと、頼むから俺を一人ぼっちにしないでくださいよー! 俺だけ理系じゃないんだからさっぱりわかんないっすよー! なんで三人の専門分野がバラバラなのに三人とも専門分野なんすかー!」
「だからね、金太。あれは巨大なシダ類・・・なの。わかる?」



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