AIでrewriteした英文で読解方略指導を②
前回の投稿では、英文の難易度と読解方略(reading strategies)の関係性について書きました。
英文のテキストレベルによって学習者が用いる読解方略が影響を受ける可能性がある。
多様な難易度の英文を教材に用いることで、学習者に異なる読解方略の使用を促すことができる可能性がある。
難しい教科書を使っている場合、そのままではトップダウンの読解方略を指導することが極めて難しい。
上記の3つめがまさに私自身の授業での課題となっています。そこで、難しい教科書本文をChatGPTで易しくrewriteしたものを扱うことによって、トップダウンの読解方略の指導を授業に盛り込むことを思いつきました。
今回は、上記の取り組みを実際にやってみたのでご紹介します。
リーダビリティについて
今回のrewriteの目的は、英文の難易度を下げて読みやすくすることで、生徒がトップダウンの読み方を実践できるようにすることです。そこでまず、文章の読みやすさの指標であるリーダビリティーというものについて調べてみました。私自身、リーダビリティに関してはこれまで馴染みがなかったので、ネット上のサイトや論文を参考に多少知見を深めました。
概略を掴むのには、このサイトが参考になりました。
リーダビリティの指標にはいくつかあるようですが、どうやらFlesch-Kincaid Grade Levelというのが扱いやすそうです。
Flesch-Kincaid Grade Levelでは、英文のレベルをアメリカの学年で示してくれます。Wordの校正機能でも示してくれるので、手軽に扱えると考えました。Wordでリーダビリティを表示する方法については、以下のサイトが参考になりました。
ChatGPTでのrewrite
それではChatGPTで教科書の英文をrewriteしてもらいます。
まずはrewriteしてもらいたい英文を貼り付けて、Flesch-Kincaid Grade Levelを測定してもらいます。
ChatGPTによるとこの文章のFlesch-Kincaid Grade Levelは8.2だそうです。アメリカの学年で8年生、つまり日本の教育システムで言えば中学2年生に相当します。
ちなみにWordの機能で同じ文章のFlesch-Kincaid Grade Levelを測定すると、なんと11.6でした。高校2年生相当ということになってしまいます。(高校1年生の英語の授業でアメリカの高校2年生が読む英文を扱っているとしたらたいへんなことです!)
ChatGPTによる測定とWordによる測定がどうしてこんなにも違うのか、詳しいことは私には分かりません。算出方法が異なるのでしょうか。
いずれにせよ、今回はChatGPTの算出を頼りに進めます。
次に、Flesch-Kincaid Grade Levelを6.0未満に下げてrewriteするように指示します。ただし、リーダビリティを下げる指示だけだと本文内容を省略して短くしてしまいます。そこで、本文全体の長さと情報量をできるだけ変えないように指示します。(なお、リーダビリティの値をより低く設定してしまうと、元の文章の情報量を保つのが難しいようだったので、いろいろ試した結果、今回は6.0の設定が限界と判断しました。)
これでFlesch-Kincaid Grade Level 6.0未満の文章が生成されましたが、情報量を保つように指示したにもかかわらず、読んでみるとやはり情報量が減っていました。そこで、省略されてしまった情報を付け加えるようにChatGPTに指示します。
これで、教科書本文の情報量をできるだけ保ったまま、難易度(リーダビリティ値)を下げた文章ができました。
元の文章との比較
今回は4つのセクションの文章を一気にrewriteしました。長いので、比較のために書き換えたオリジナルの文章の一部と、それに対応する書き換え部分を見てみます。
上記の英文に対応する書き換え文は以下の通りです。
語彙や構文が易しい言葉で言い換えられているのがわかります。ただ、やはり伝えられている情報はだいぶ変わってしまった印象です。今回はお試しでやってみましたが、いろいろと検証してより良いrewriteの方法を考えた方がいいと感じます。
ちなみに、rewriteされたの文章のFlesch-Kincaid Grade LevelをWordで算出してみると、6.9と出ました。オリジナルがWord上では11.6とされていたことを考えると、計算上の読みやすさはかなり改善したと言えます。
まとめと考察
今回は、ChatGPTを使って教科書の文章を易しく書き換えるということを試してみました。ChatGPTが出てきた当初は、単に書き換えをしてくれるというだけでもの凄い衝撃でしたが、使っているうちに「これはできないのか」「この点は甘いな」といった粗が見えてきてしまうのは、無い物ねだりというものでしょう。
今回も、書き換えはしてもらえましたが、指示に反して一部情報が省かれたり、英文が短くなりすぎたりしてしまいました。省かれた情報を追加するように指示することで多少は改善することができましたが、改めてAIの使い方の難しさを感じます。
ところで、今回はFlesch-Kincaid Grade Levelというリーダビリティ指標を用いて難易度を測定して書き換え指示をしましたが、他の方の情報からヒントを得て、CEFRレベルを用いて書き換え指示をすることもできることに気付きました。
試しに今回の教科書本文でCEFRレベルを測定するようにChatGPTに求めるとB2レベルとのことでした。これをA2レベルやA1レベルに書き換えるように指示するのも一つのやり方でしょう。
試しにChatGPTでCEFR A2レベルに書き換えたところ、学習者目線としてかなり読みやすい文章になりました。また、Flesch-Kincaid Grade Level基準での書き換え時に比べて、オリジナル文の情報量を比較的保ってくれた印象です。ただ、一部ではsyntax的に怪しい部分があったり、A2レベルでは表現できないであろう部分は意味がねじ曲がってしまったりと、こちらにも課題はありそうです。どのようなrewrite指示が適切かはきちんと検証する必要がありそうです。
次回の投稿では、今回書き換えた英文を用いてトップダウンの読解方略を指導してみた様子をお伝えします。