第3章: あのときB団で何が起こったのか(後編)


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1.おろおろするばかりの新団長

Yさんの突然の退団と引退は、B団に大きな衝撃を与えました。
B団を去る人がますます増えました。
しかし40人ぐらいになってもまだB団は上位団と言える戦力のある良い団でした。
ここで団長が「なんとか立て直しますから去らずにお待ちください」という内容を、騎士団メール等で全員に伝えれば、団員の流出はいったん止まると考えました。

私は団長の北氏に聞きました。
「団長は今後どのようにされるつもりですか」
北氏は「今、急激な変化を起こしたらさらに去る団員がいるので、しばらく現状を維持しながら続ける」と答えました。
「ではその方針を騎士団メールで団全体に伝えられませんか?」私が言うと
「それはできない、質問があればこうやって個チャで答える」という返事でした。
「海島は応募されるのですか」と聞くと「幹部と検討中」という返事でした。

12/11~12/13まで、北氏とこのような押し問答していました。
私が求めていたのは「団を続けるかどうか」「次の海島遠征には応募するのかどうか」を全体にアナウンスすることだけだったのですが、北氏はその程度のリーダーシップをとることすら嫌がりました。

今回からのルールとして、海島遠征が始まってから騎士団を移動するのが難しくなりました。団の移動自体はできるものの、海島遠征に参加する際に少し高額の罰金を払わなければならないというルールとなりました。

12/15には団長がどこかの戦区に参加のボタンを押さなければ、残った40人ほどのメンバーは遠征に参加できなくなるか、海島開始後に団移動をせざるをえなくなり、払う必要のない罰金を払わなければならなくなるのです。
あるいはもう続ける意思がないのなら、早めに「団を解散します」とアナウンスするべきなのです。

突然のことで北氏も幹部も混乱していたのは理解するし、彼らも同じプレイヤーなこともわかるけれど、数十人に対する責任があったことは忘れてほしくなかったです。
その責任は「続けるから待ってください、海島は応募します」程度のアナウンスで十分果たせるものだったのですから。

2.L氏との会話

そんな折、とあるチームでL氏(1章の最後に言及した、A団からC団に移籍した方)と一緒になりました。
「C団はどうですか」と私が聞くと、
「楽しいよー、この前の遠征なんか50人が参加した。入団希望者が空き待ちをしているよ」という返事でした。
人が、B団からC団に流れ込んでいることがわかってるはずなのに、この無神経な返事は私をいらだたせました。

「C団はB団から人がいっぱいきてそれは楽しいでしょうね」
「C団は引き抜きはしてない、みんな自由意志でこちらに来ている」
「B団だって悪質な引き抜きなんてしてないのに非難してたじゃない。同じようなものよ。無理強いして移転なんてできないんだから、当人の意思がないと団を移らないから」
「声をかけたらそれは引き抜きなんだ。Yは声をかけたって自分から言ってた」
「じゃあA団は?」
「A団は引き抜きしてると思う、円楽が声をかけてるって言ってたし」
「じゃあそんなA団と同盟するのってどうなの?」
「B団と同盟してほしかったの?」
「違うよ。B団のことを引き抜きする悪の団みたいに言っておいて、引き抜きをするA団と同盟するのは道義的にどうなのよって話」
「仕方ないじゃないか、エイトやユリンの力がないと大島は取れないし」
「A団が第1シーズンで大中小島制覇できたのは決して力だけじゃないよ」
「力だよ。大島の門をぶちやぶったエイトの力を見ればわかる」
「引き抜きをあんなに批判しておいて、大島が取れるならあくどい引き抜きをする団でも同盟するの?」
「A団との同盟は多数決で決めたんだ、もうこの話はやめよう」
「A団やB団からいっぱい人が来て紛糾しなければいいんだけど」
「そんなことないね、みんな仲良しだよ」

L氏が悪い人だということではないのです。
ただあまりにも身勝手な理屈に思えました。
C団がもし「悪質な引き抜きをするA団とは同盟できない」と、A団との同盟をしないのであれば、私は怒らなかったです。

L氏の言ったことを要約すると
「C団は自分から声をかけて引き抜きをしない正しい団です、でもB団は声をかけて人を引き抜く悪い団です。A団もB団から悪質に人を引き抜いている悪い団と思います。でもA団の力がないと大島とれないから同盟します。それは大島とるためには仕方ないことだし、多数決で決めたことだから俺には責任はないです」
ということです。

私の憎悪リストに、C団が追加されました。

3.Yさんは悪質な引き抜きをする人だったのか?

また「声をかけて入団を誘う」ことが引き抜きというのもなんだか変な話です。
少なくとも今まで私がやってきたGvGのあるオンラインゲームでは、あまりなかった概念です。
相手ギルドから有力なプレイヤーを誘致することは戦略のひとつだし、有力プレイヤーが来たくなるようなギルドにするのもギルドマスターの手腕の見せ所なはずです。
声をかけられても魅力のない団には移転しないし、無理強いすれば逆効果になります

声をかけずに自分から移転するのはOKなのだとL氏は言ったけれど、声をかけられて移転するのと自分から移転するのとの境目はどこなのでしょう。
世間話をしていて「今の団、俺しか強い奴いなくてさどっかいいとこ移ろうかな」「じゃあうちくる?」みたいなことってあると思うのです。

Yさんは、強いプレイヤーを引き抜いて、多くの団を崩壊に導いたと悪くいわれていましたが、人を引き抜かれて崩壊する団なら、その人が自発的にどこか移転したり、ゲームを辞めたりしても団が崩壊したのではないでしょうか。

仮に、Yさんがそのような悪い人なら、なぜ、引き抜いてもいない私についてその誤解を解かなかったのでしょうか。
上のようにどちらが言い出したともつかない状態で言ったことや、私のように潜り込んできた人間を「俺が声をかけた」と言って庇っていたんじゃないか、と想像しています。

そういわなければ移転してきたプレイヤーが元の団から「お前なんで移転したんだよ」って文句をつけられる、そう考えて自分に引き付けたのではないか、と考えています。
それは単なる想像にしかすぎません。
でもそう考えないと、私だけ特別に「引き抜いてないけどかばってくれた」なんて考えると、私はまた自分に都合のいい妄想をしてしまいます。

4.ちらっとよぎった不安

C団が大丈夫なのかも不安になりました。
大島を取るためにどんな相手でも同盟する、という態度には怒りを感じましたが、C団にはフレンドもいたからです。
特に仲が良かったフロリダさんは、前にも書いたとおり、A団を毛嫌いしていました。おそらくB団も嫌っていました。
そこにA団やB団から人が大量になだれ込んできたのです。
スコアの高い強いプレイヤーは、えてして我が強いものです。
また参加の理由が、C団をよさそうと思ってではなく、「大島が取れそう」という理由なので、中で対立や紛糾が起こるのではないか、と不安がありました。(その不安は後で的中しました。)

5.いつまでも残ると宣言したけれど

11月下旬に受けた生検の結果は、がんではなかったのです。
医師は「がんでなくてよかったですね」と明るい声で言ってくれましたが、原因不明の痛みの解決にはなりませんでした。
そしてYさんの突然の引退で、痛みはさらに強くなりました。

何の方針も示さない新団長に愛想をつかし、ひとり、またひとりとB団を去っていきました。
それはキリキリとした私の痛みに似ていました。

ロイヤルスパの時間に、私は、前の章で書いた、Yさんの「参加してくれてありがとう」に感動したことを話し、団がじり貧になっても私は残り続けてYさんを待ちます、と語りました。

誰かが「残る」といえば流出が止まるのではないか、また団長が何らかの指針を示してくれるのではないか、と思ったのです。

しかし、北氏からも幹部からも何のアクションもありませんでした。

6.二日前になっても動かない団長にキレた

海島遠征締め切り二日前になっても、団長の北氏は何の動きも見せませんでした。

「B団は、今なお強プレイヤーがいる有力団です。このままつぶしたくないですし、粘っていればC団やA団にいったメンバーも戻ってくることもあると思います」
「必要なら団員募集のシャウトなどやりますし、あるいは団合併などの予定があるのであればしませんが、いかがしましょう」
「騎士団メール一通でいいので、団長の方針を全員に周知してください」
このようなことを言い続けましたが、北氏にはひびかなかったようです。

海島遠征についても「今回から遠征開始後の団移転が厳しくなりました、早めに方針を示してください」と言っても、「今、幹部と検討中」というばかりでした。
「検討検討検討っておまえは岸田か!」
と怒鳴りたくなるのを抑えるのに苦労しました。

「海島は応募されるんですよね?」と聞くと
「二日後やります」との返事でした。

二日後ではぎりぎりです。
こうやって私と個チャのやり取りができるぐらいなら、ボタンを押すだけでいいのではないでしょうか。
同盟団とのやりとりだってできるはずです。

なぜ二日後なんだ。
私の中で黒い疑念が浮かびました。
二日後は、海島締め切りぎりぎりです。
そこでC団にでもすべりこむ気ではないか、そう疑いました。

「ふーん二日後。二日後、あなたがC団にいても私は何も驚きませんね」

これは私の失言だと思っています。いくらなんでも言い過ぎでした。
北氏がこれを読むかどうかはわかりませんが、ここでお詫びします。
本当にごめんなさい。

7.団チャで幹部を問い詰める

北氏が「幹部会で検討中」を繰り返すので、本当にその「幹部会」とやらがあるのか、あるとしても何をどう話しているのか聞きたいと、団チャで問い詰めました。

団長の北氏でなくても、元団長のウルフ氏でもいい。
幹部の誰かでもいい。
権限のある誰かが「B団を存続させます」という意思表示をしてほしい。
そう私は思いました。

あるいはどうしても存続できないならそう言ってもいい。
「もう海島はやりたくない、ついてきてくれる人だけついてきてのんびり遊ぶ団にしたい」
そうアナウンスすればいいだけのことです。
それでも私はついていきました。

でもそのどちらもせず、黙っているのだけは我慢できません。

「『和を乱すので』そんな話を団チャでするな!」
という、こういう場合にお決まりのセリフが飛び出しました。

和ってなんでしょう。
団長や幹部たちの沈黙は、如実に「私たちには対策がない」「責任を負いたくない」「めんどうくさい」「やりたくないといったら人が逃げるしそうなったら困るから黙ってやりすごそう」「逃げる奴は逃げていい古参の仲良しだけいればいい」といったメッセージを伝えていました。
それを黙って受け入れて自分が不利になってもついていけばよいのでしょうか? それが和でしょうか?

みんなの聞こえる場で疑念を言われたら、みんなも疑念を持つので困るからですよね?

A団でもそうでしたが、相手を自分のエゴで動かそうとするとき、人は「公開の場で話すな」と言います。

幹部のひとり、悪竜に攫われた王女の私を助けてくれた勇者様が、口を開きました。
「私たちはA団の事件で誰が出るか把握していました」云々。

・・・そんなことはいいの。
これからどうするかを聞きたいの。

「私たちも正直いって混乱しています」

ああ、少しだけ本音が出てきたね。

勇者様の多少の情報開示で、場がほっと緩みました。
「情報を教えてくれてありがとう」の声が、団員たちから口々に上がりました。みんな不安だったのです。

しかしやはり具体的なことは一切でてこなかったのです。

8.変質したウルフ氏

団チャで話したことで、ウルフ氏から個チャがきました。
押し問答は、省略します。
私が差し出がましかった、それもあると思います。
北氏が、本当に二日間、旅行だったということもそこで知りました。

でもそれなら、旅行が終わった後に団長交代するか、旅行の間は密に連携を取ってあげればいい話です。
それをせずに「わいは北を信じとる」と丸投げするのは、責任逃れにしか見えなかったです。

そこにいたのは、以前の、度量が広くおおらかなウルフ氏ではありませんでした。責任から解放されたいということだけが前面に出た、いいかげんな人でした。

「そんなに俺や北が信用できないなら出ていけ!」とウルフ氏は言いました。
一連の会話でウルフ氏が言った言葉の中で、唯一筋が通っていました。
「はい、信用できません」
私はB団を出ました。

前日にあんなかっこいいことを言ったのに、口だけの嘘つきになってしまいました。

9.翌日のB団

B団のフレンドさんによると、私が団を出たことは幹部たちに衝撃を与えたようです。
私がB団を出た翌日(海島遠征締め切り前日)、団員が一斉に北氏に「どうするつもりか」詰め寄ったそうです。
それでも北氏は何も回答できず、団員からの発案で、団を存続するか、解散するか団員の多数決を取り、存続を決めたそうです。
リーダーシップが皆無であることを、北氏は団員全体に示した形となりました。
(フレンドさんは「ねこねこさくらさんほどツリネバを愛している人はいない」と言ってくださったそうです。
こんな底の浅いゲームを愛している、と言われて、恥ずかしかったです。
私が熱くなっていた理由は、Yさんだったのです。
もし万一Yさんが戻ってきたとき、B団がなくなっていたら悲しむでしょうから。そんなことは誰も知らなかったでしょうけれども。)

また別の方からは「ねこねこさくらさんが言ってくれなかったら黙って団を去ってた」「言ってくれたからみんな立ち上がれた」とおっしゃっていただきました。
A団のときの後悔が、少しだけ役に立ったなら、良かったです。

でも、私は、B団でYさんの帰りを待ちたかった。
帰ってこないことはわかってる。でも待ちたかった。

10.謝ってはくださったけれど

数日後、私がとあるチームに居たとき(そのとき同じタイミングでB団を抜けた他の人もいました)、B団幹部のふたりが入ってきました。ひとりは悪竜イベのときの勇者様でした。
そして私たちに「本当にごめんなさい」と言ってくれました。
団を存続したいという強い気持ちがあったのに、それをくみ取れず、団を去ることにしてしまったことを、理解してくださったのでしょう。
私も「短気で、配慮がなくてすみませんでした」と謝りました。

でも、私は、B団でYさんの帰りを待ちたかった。
帰ってこないことはわかってる。でも待ちたかった。
それをさせてくれなかったN氏、ウルフ氏、そして幹部たちを憎みました。

私は団長の北氏か、元団長のウルフ氏に、団を存続させると宣言させようとしたのですが、それが間違いだったのです。
もっと賢くて、みんなの多数決などに持っていく知恵があったらよかったのでしょう。
あの時の私にはその知恵はなかったのです。今もないかもしれません。
でも北氏が、ひとこと「急なことで確定の方針ではありませんが、とりあえず海島は応募します」ぐらいでも皆に周知するリーダーシップを取ってくれたら、と思わずにはいられないのです。

11.タコアートさんから叱られた

3度目の団出奔となった私を、リーグ戦で一緒しているタコアートさんが叱ってきました。
「団員が抜けるというのが団長にとってどれだけしんどいかわかってください」
タコアートさんは私がいいかげんで団をちょろちょろ変えていると思っていました。
その誤解を解きたかったけど、解けなくてもタコアートさんは優しかったです。
もしこの長い文章をタコアートさんが読んでくれることがあって、私が、団長や幹部が、周知できないようなエゴで団員を動かそうとしていることに抗議して団をしばしば抜けていたことをわかってくれたらな、と思ってます。

第4章:ふたつの復讐計画 に続く

注:
この話はTree of Savior Neverland (通称ツリネバ)というゲームの、ノンビリツリーハウスというサーバの内部の話です。
出てくる団名、人名はすべて仮名です。
団名はアルファベットですがイニシャルではありません。
人名も仮名です。