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かぐや姫は地球に行きたい 3-9
格納された宇宙船の上部が開くや否や、「ただいま〜」と、飛び出す姫。宇宙船の外側をくまなくチェックし始めるが、おじいさんとおばあさんが宇宙船の中から辺りをキョロキョロと伺う様子に、優しく微笑みかける。
「月へようこそ。しばらくは体の感覚が狂うかもしれませんが、じきに慣れますので」
そう言いながら、姫は2人に向かって手を伸ばす。その手を取ったおじいさんとおばあさんは、宇宙船に足をかけ1歩踏み出した。
「おっ?」
「あら?」
勢い余って宙返りしたおじいさんとおばあさんだったが、抜群の身体能力でそつなく綺麗に着地する。出迎えに来ていた月の者たちは一斉に拍手した。
「体が軽いっ!」
感激したように叫んだおじいさんだけでなく、おばあさんまでもが、その場でぴょんぴょん高々ジャンプを始める。
「地球にそういう少数民族いますよね」
姫が半笑いでツッコミを入れる横、命からがら月に戻ってきたかのような若君と月男はお互いを支えながら、宇宙船から脱出し、床に身を投げ出す。
「死ぬかと思った……死なないけど」
「帰りも意識飛ばせばよかった……」
倒れ込んでそう呟く2人のことは見なかったことにして、姫は辺りを不思議そうに見回した。
「私たちを出迎えるだけにしては、人多くない?」
その疑問の呟きに、いつの間にかそばに控えていたロダが呼応する。
「実はちょうど女王陛下がご帰着されたばかりでして」
ロダの目線を追えば、恋い慕う気持ちが込み上げるその姿が見え、姫はたまらず駆け寄った。
「母上!」
迎えに来た王と話していた女王は、突進とも言える勢いで抱きついてきた姫の体をしっかりと受け止め、優しく頭を撫でる。
「久しいね、リル。元気にしてたかな?」
「はい! 母上もたくさん鍛錬できましたか?」
「まずまずだね」
「そうだ、母上。父上も。こっちこっち」
満面の笑みで女王と話していた姫は、ふと思い出し、小さな子どものように両親の手をグイグイと引いていく。連れてきたのは、トランポリン競技の如く、その場で回転しながら跳び上がっているおじいさんとおばあさんの元。その動きに釘付けになっていた月の者たちは、王と女王が近づいて来たことに気づき、慌てて頭を下げる。その横で、ロダも急いで床にへばりついている若君と月男の身を起こし、どうにか敬意のこもった体勢にさせていた。
「父上、母上」
姫のその声に、おじいさんとおばあさんが動きを止めて姫の方を見るし、王と女王も姫を見る。
「こちら、父上と母上です」
おじいさんとおばあさんを手で示し、王と女王に紹介する姫。
「こちら、父上と母上です」
続いて、王と女王を手で示し、おじいさんとおばあさんに紹介する。2組の両親はお互いに「どうも」と頭を下げる。それから姫は、地球の母上であるおばあさんに向かって、女王について誇らしげに補足する。
「母上は腕相撲にかけては誰よりも強いんです。それで鍛錬のためにより強い相手を求めて銀河を巡っていて、本当に久しぶりに帰ってきてくださったんですよ!」
補足された内容は、何度反芻しても「なんじゃそりゃ」という感想しか出てこないおばあさんだったが、これからお世話になる星のトップに気をつかえない人ではない。姫によく似た美しい顔立ちと華奢な体を見つめ、ようやく当たり障りと嘘のない言葉を絞り出す。
「……リルはお母さん似なのね」
おばあさんの言葉に嬉しそうに頷いた姫は、今度は月の母上である女王に向かって自慢げに言う。
「こちらの父上と母上も大変強いんですよ。力が、というよりは、負けん気と攻撃力と我が強いんです。きっちりかっちり腕相撲のみで勝負しないと、母上は太刀打ちできないでしょうね」
姫の紹介にどこか引っかかるおばあさんの横、おじいさんは不敵な笑みを浮かべ、早速の負けん気を出している。おじいさんのその顔は確かに、腕相撲で勝負と言われても、指や足を使ったり、もう一方の手を出したりする気満々であり、そんなおじいさんになぜか女王もすっかり乗せられてニヤリと笑う。
「ほう、では早速1戦お願いしようか」
「待って、今はダメですよ女王陛下。伝えたでしょう」
漂う好戦的な空気に間髪入れずに止めに入った王は、女王の袖を引いて、おじいさんたちから離れさせる。それからひそひそと女王に話しかける様子に、姫は首を傾げた。
「父上、どうされましたか? 何かありましたか?」
女王とのひそひそ話をやめた王は、姫に向き直り、1つ息をつく。
「女王陛下に帰ってきてもらった理由でもあるんだけどね。あなたが不在の間に手はずは整えたから、直ちに結婚しなさい」
王の言葉に、若君と月男の後ろに立っていたロダは、若君の肩を高速タップ。なんとか気づかせようとするものの、宇宙船酔いで意識を飛ばしかけている若君は未だ無反応である。
「全く、あなたは放っておくと、いつまでも気ままだからね。婚姻を公にすれば次期継承者として、当然ふさわしく振る舞ってくれるだろう?」
続く王の言葉に姫は、獲物を捉えたかのような満面の笑みで頷く。
「もちろん、そのつもりで私も準備してきましたよ。ね、母上」
アイコンタクトされたおばあさんが、宇宙船のトランクから引っ張り出してきたのは、白い生地が溢れる大きなダンボール箱だった。