Capture Oneのトーンカーブについて
(トーンカーブの基礎の基礎については、こちらをご覧ください)
Lightroomには4つ(RGB、R、G、B)のトーンカーブがありましたが、C1は5つあり、輝度Lumaのカーブが追加されています。RGBが統合されたカーブ(ここでは「RGB統合カーブ」と呼びます)と輝度カーブとの違いは何なのでしょうか。
本稿ではトーンカーブ、特にRGB統合カーブと輝度カーブの効果について色々と実験しつつ検証してみましたが結論から言うと、
・RGBカーブは、RGBの各数値を一斉に操作する機能を持つもの、
・輝度カーブは、元の色相を維持しながら、輝度を操作するもの
となります。
RGB統合カーブは、名前の通り、RのカーブとGのカーブとBのカーブを一斉に同じ程度動かした時と同じ変化を与えるものです。RGBが変化した結果として、輝度も変化します。
※デジタル画像は加法混色といって赤緑青の混合で色・明るさが決められます。赤青緑を同じ割合で混ぜたら灰色等の中間色となり、最も明るいものは白、暗いものは黒になります。
一方で、輝度カーブとは、元の色相を維持しつつ輝度の変更を目的とするものです。輝度を変更し、また、元の色相を維持するように、新しくRGBを割り振るものです。
以下、カラーチャートを使って、具体的な操作しながら説明いたします。
なお、トーンカーブについておさらいをされたい方は、こちらの記事でトーンカーブについて初歩の初歩から分かりやすく説明しましたので、ご関心あればお読みください!
まず、RGBカーブを水平にしてみましょう。ここでは、赤・青・緑のそれぞれの値が145/256となるようにしています。
ヒストグラム上の明るい箇所も暗い箇所も、RGBが145の中間域になるように設定されたので、完全に灰色に塗りつぶされましたね。もちろん輝度も145になっています。
では、輝度カーブを水平にして、画面全体の輝度を145としてみます。
RGB統合カーブの場合と違って、カラーチャートの各パネルの色が残っていますね。なお、白・グレー・黒の部分は輝度145のグレーにほぼ統一されています(撮影時の光の状況やレンズ・センサー特性によって、白・黒・グレーのパネルごとに若干RGBが不揃いなので、うっすらと違いが見えますが)。
その中で、紫を調べてみると、
・輝度68、R75G56B109(色相Hue261、彩度Saturation49、明るさBrightness42)から
・輝度145、R155 G127 B206(色相Hue261、彩度Saturation39、明るさBrightness81)に上昇しています。
一方で、色相は変わっていないようです。
ここから、輝度カーブは、元の色相を維持したまま、輝度のみを上げ下げする効果があると分かります。言い換えると、新たに出力設定された輝度に基づいて、元の色相と同じになるようにRGBそれぞれの値が出力設定し直されます。
まとめると、
・輝度カーブは、元の色相を維持しながら、輝度を操作するものとなります。
・RGB統合カーブは、R・G・Bそれぞれのカーブを一斉に操作する機能を持ちます。これはR・G・Bそれぞれのカーブを個別にRGB統合カーブと全く同じように動かしたら、全く同じ効果が出ることを意味しています。例えば、RGB統合カーブの入力120を出力150に変化させたら、R・G・Bのそれぞれのカーブを入力120から出力150に変化させることと同じ結果が得られます。
これらのカーブはあくまでRGBを操作する機能のみを持ち、操作の結果として輝度が上下し、また、RGBの比率も変わる(※)ことで色相が変化することとなります。
かなり単純化すると、例えば以下の通りR87G118B50をR137G168B100にそれぞれ50ずつ変化させれば、もちろんRGBそれぞれの比率も変わります。結果としてHueは88から85に変化します。
なお、C1の公式の説明では、「輝度カーブは彩度saturationには影響がない」とされていますが、上記実験の結果、色相Hueは変化ないですが彩度saturationは変わっています。C1の言う"Saturation"はなんなんでしょうね。他の記事では"Hue"も使っているし、さすがにC1なので意図を持って明確にSaturation/Hueを使い分けているはずですし。。。分かりませんね。
原文
"The combined RGB curve and optional Luma curve are both used to adjust contrast and brightness. The latter one [Luma curve] has the additional benefit of not increasing saturation."
以上が、RGB統合カーブと輝度カーブとの違いになります。
ここからは同じ内容を長々と検証することとなりますので、ご関心があればお目通しください!
(以下、長大な検証)
ここからは事例を用いてRGB統合カーブと輝度カーブの効果を検証していきます。
事例1では、RGB統合カーブの効果を検証します。個々のR・G・Bのカーブを一斉に動かすのとRGB統合カーブを単体で動かすのとで何か違いはあるのかを調べたいと思います。
事例2では、RGB統合カーブと輝度カーブの効果の違いを調べます。具体的には、輝度カーブの操作によるRGBの各値への影響を検証してみたいと思います。
事例3では、輝度カーブ操作による輝度の変化とRGBの各数値の関係を調べたいと思います。輝度の変化とRGBの変化に何か法則性があるのかを検証します。
事例1 輝度には影響を与えないが、RGBのいずれかに影響を与える場合
ここでカラーチャート上のシアン(RGB=139, 195, 174、輝度=176)と黄色(RGB=222, 197, 72、輝度=190)を例に取って説明します。
シアンのRGB・輝度のうち一番低い値はRの139で次に低いのはBの174になります。一方で、黄色のRGB・輝度のうち一番低い値はBの72で次に低いのは輝度190になります。黄色のB72と輝度190はグラフの横軸の値としてはかなり離れていることが分かります。
この黄色のB72とシアンのR139の間に、RGB統合カーブと輝度カーブとにそれぞれポイントを置いてそこから値を変えていけば、これらのカーブの効果の違いを見出しうると考えました(なお、カーブが微妙な変化を起こしてシアンのRGB・輝度及び黄色のRG・輝度に影響を与えないように、シアンのRの左右にポイントを置きまくってガチガチに固定しています)。
すなわち、シアンの輝度と黄色の輝度に影響が及ばないように輝度カーブの操作を行うところ、輝度カーブが輝度のみに作用するならば、シアン・黄色のRGBのカーブ・値は変化はしないはずです。
一方で、RGB統合カーブが個別のRGBにそれぞれ作用するならば、シアンのRGB・輝度及び黄色のRGに影響はありませんが、黄色のBと(黄色のBの数値が減った分だけ)全体の輝度に効果が及ぶと仮定を置きます。
それでは結果を見てみましょう。なお、操作は横軸の54にポイントをおいて、そこから縦軸の値を10まで下げていきます。効果がわかりやすいようにガッツリと下げています。
事例1-1 シアン部分のRGB統合カーブと輝度カーブを操作した場合
まずは、シアンのRGB統合カーブと輝度カーブを操作した結果です。
どちらも操作後のシアンは操作前のシアン(RGB=139, 195, 174、輝度=176)と変わりませんね。当然のことながら、今回のポイント操作はシアン(RGB=139, 195, 174、輝度=176)に影響が及ばない箇所で操作が行われたためです。
事例1-2 黄色部分のRGB統合カーブと輝度カーブを操作した場合
次に黄色の結果を見てみましょう。
まず輝度カーブについては、操作前の黄色(RGB222, 197, 72・輝度190)と操作後の黄色(RGB222, 197, 72・輝度191)とほぼ変わりはありません。
なぜならば、今回の輝度カーブの操作は輝度190に影響がなかったためです(輝度191となっているのは、操作後の黄色のサンプルに取ったポイントがずれていたからですね汗)。
RGB統合カーブについて、操作前は黄色(RGB222, 197, 72・輝度190)で操作後はRGB222, 197, 45・輝度187と、黄色のBが72から45に低下し、また、輝度も190から187に若干下がっていますね。一方で、RGは変化していません。RGBでいうとBの値しか影響を与えてません。
このことからRGB統合カーブの操作は、個別のR・G・Bのカーブそれぞれに影響を及ぼし、またRGBの数値の変化の結果として輝度も変化することとなることが分かります。
事例1-2の補足 黄色部分のRGB統合カーブとBカーブを操作した場合
ちなみに、別の日に実験したのでカーブ上で設置したポイントの場所は少し異なりますが、上記黄色の事例について、統合RGBカーブを操作した場合とBカーブのみを操作した場合を比べてみました。統合RGBカーブによるBの値の変化とBカーブのみの操作による変化が本当に同じか疑問を抱いたためです。
操作前の黄色はRGB221, 197, 70・輝度190になります。
ここから前の実験と同様に、RGB統合カーブ上でBのみが変化するようにRG・輝度が動かないようにカーブを固めた上で、横軸54の地点で縦軸を10までRGB統合カーブを下方に移動させてみたところ、RGB221, 198, 45・輝度187を得ました。
RGB統合カーブと同様に、Bのカーブ上で対象の箇所(黄色)のみが変化するようにポイントを打って固めた上で、横軸54の地点で縦軸を10までBのカーブを下方に移動させてみたところ、RGB221, 198, 46・輝度188を得ました。
RGB統合カーブ操作後がRGB221, 198, 45・輝度187で、Bカーブ操作後がRGB221, 198, 46・輝度188と、それぞれのカーブの操作によるBの値がほぼ同様であるとわかったところ、(RGが動かないように固定した)RGB統合カーブの操作におけるBカーブの変化とBカーブのみの操作による変化がほぼ同じと分かりました。
すなわち、RGB統合カーブはR・G・Bのカーブを一斉に操作するのと同じ役割を果たすといえます。
ただ、完全に一致はしなかったので、RGB統合カーブ内でもう少し複雑なアルゴリズムがあったり、あるいはBのみの変化であってもソフトウェア上他のGBの値に影響を及ぼしている可能性も否定できません。が、私にこれ以上深掘る知見も根性もないので、ここまでとしたいと思います。
事例2 輝度・RGに影響を与える場合(Bにのみ影響を与えない場合)
では、輝度を変化させるように輝度カーブを操作するとどのようなことが起きるのでしょうか。
次も黄色で見てみましょう。RGB220, 197, 68、輝度189となります。なお、サンプルを取ったスポットが変わっているので上記実験時と黄色のRGB・輝度の数値が少々変化してしまっていますが、気にしないでください汗
今回はBを固定して、RGと輝度が変化するようにカーブをがっちりと固定します。具体的には、ヒストグラム上の黄色のBの横軸の値が66だったので、66より右側が変化するようなところに変化ポイントを置きます。
今回は輝度カーブから変化させていきましょう。まずは輝度が下がるように輝度カーブを下方に移動させます。
操作前の黄色がRGB220, 197, 68・輝度189ですが、操作後は輝度が164に低下しています。
また、RGBも191, 172, 55と、Bの部分は動かないようにカーブを固定していたのにもかかわらず、RGだけでなくBも下がっているのが分かります。
このことから、輝度を変化させると、RGB統合カーブを無視して、輝度を構成する光の三原色であるRGBそれぞれが変化することが分かりました。
次に、RGB統合カーブを下方に下げる操作をします。
RGB統合カーブを見てみると、操作前の黄色がRGB220, 197, 68・輝度189で、操作後はRGB206, 171, 66・輝度170となっており、RG・輝度が想定通り下がっているのが分かります。事例1-2と同様に今回のカーブ操作に影響を受けないようにしていたBはほぼ変化していないことが分かります。
そのため、RGB統合カーブはR・G・Bの各カーブを一斉に動かすのと同様の役割を果たすことが再確認できました。
なお、Bの若干の下落(2ポイント)については、サンプルポイントの誤差やRGB統合カーブ上の変化というよりも、ソフトウェアやRGB・輝度算出のアルゴリズム等の影響を受けている可能性があります。ただ、当方の知能ではこれ以上の深掘りは困難です汗
事例3 輝度カーブの効果
輝度カーブは輝度の操作に使われ、その結果RGBの各々の値も変化すると分かりました。一方で、RGBの変化の傾向は元のRGBの比率を一定程度参照するものの、その法則が分かりませんでしたね。
そこで輝度カーブの操作による明るさや色彩の変化を、RGB・輝度に加えてC1で取得可能なHSBやL*a*bの指標を用いて検証したいと思います。
まずはRGB・輝度がいい感じに低いR79G90B44輝度82の抹茶色?で見てみたいと思います。輝度カーブを使って輝度を約40ずつ上下させてみて各数値を比較したいと思います。
これは一目瞭然ですね。。。
輝度を上昇させていく中で、RGBは上昇しています。HSBの観点からも、輝度が上がると白に近づいていくので、Sが下がりBが上がる動きをしています。
そして、色相Hueはほぼ誤差の範囲内でしか動いていないですね。一番暗い部分は数値上の変動が大きく出る箇所なので捨象するとしても、輝度82以上はほぼ変化なしです。実際、L*a*bのa/bも似たような範囲内での動きとなっています。
ということで、輝度カーブの効果は、元の画像の色相を維持しつつ輝度を上下させることにありそうです。
本当にそうなのか、次は暗いオレンジ色R171G127B42輝度130で見てみることにしましょう。
抹茶色とほぼ同じ傾向ですね。
上記推測が正しそうです。
しかし現在のデジカメは数千万画素ありますが、それらのピクセル一つ一つに対して演算を行なっているとしたら、めちゃくちゃすごいですね。
終わりに
これまでの検討の通り、
・RGBカーブは、RGBの各数値を一斉に操作する機能を持つもの、
・輝度カーブは、元の色相を維持しながら、輝度を操作するもの
となります。
すなわち、RGB統合カーブは、名前の通り、RのカーブとGのカーブとBのカーブを一斉に同じ程度動かした時と同じ変化を与えるものです。RGBが変化した結果として、輝度も変化します。
なお、RGB統合カーブはカーブ上で操作したところと同じ地点のR・G・Bのそれぞれのカーブに影響を及ぼします。
なので、画像上の対象とする箇所のR・G・Bがそれぞれ著しく異なると、RGB統合カーブでの操作により当該箇所のRGBのバランスが著しく損なわれてしまう恐れがある(※)と理解できます。実際、公式マニュアルでは「[輝度カーブはRGB統合カーブと異なり、]カーブを極端にいじった際に極端な濃淡の縞模様(バンディングbanding)が発生しづらい」としており、逆に言うとRGB統合カーブの操作により極端な濃淡の縞模様(バンディングbanding)が発生しうることから、当方の理解は公式マニュアルと整合的ではないかと理解できます。
※かなり単純化すると、例えばR87G118B50をR137G168B100にそれぞれ50ずつ変化させれば、もちろんそれぞれの比率も変わりますし、Hueは88から85に変化します。
蛇足 RGB統合カーブと輝度カーブとを組み合わせたらどうなるか
最後に蛇足ですが、最後の例においてRGB統合カーブと輝度カーブを一緒に操作したらどうなるでしょうか。
操作前の黄色のRGB220, 197, 68・輝度189と比べて、黄色のRGB165, 145, 53・輝度140となります。
RG・輝度が操作前と比べて著しく下がっていますね。一方でB53は輝度カーブを操作した時のB55からそれほど変化はありません。
それはRGB統合カーブがBにほぼ影響を及ぼしていないからです。その裏返しで、RG・輝度はRGB統合カーブ・輝度カーブ操作による変化対象に含まれているため、これらの効果が二重にかかっていると考えられます。