Carl Zeiss Distagon 35mm等の比較(6本)
レンズ沼にハマりすぎてしまいCarl Zeissの35mmレンズが6本※になってしまったところ、折角なので同じCarl Zeissレンズの間でもどんな違いがあるのか知るために比較実験をしてみたいと思います。具体的にはレンズの持つ色や解像度に加えて、周辺画質・周辺減光・フリンジ等といったマイナス面も見ていけたらと思います。
ただ、かなり適当な比較である一方で、内容自体はマニアックなのでご注意ください。
※ Distagon 35mm/1.4 zf.2、Milvus 35mm/1.4 zf.2、Distagon 35mm/1.4 zm、Loxia 35mm/2、Rollei HFT Distagon 35mm/2.8、Distagon 35mm/2.8 MMJ
結論から言うと、これ一本で最高!というレンズは見つかりませんでした。というか、どのレンズも一長一短で、完璧なものなどないんだ、という至極真っ当な結論に至りました。。。
それでもあえて言うならば、個人的には透明感のある色味が好きなので、Distagon 35mm/1.4 zmを持ち出す機会が多くなりそうです。
実際、描写(解像度・フリンジ等)については、
Milvus35mm/1.4が一番で(ただしめちゃくちゃ重たい)、重さを考慮するならばDistagon 35mm/1.4zm、35mmに多くのものを求めないならばオールドレンズのDistagon 35mm/2.8 MMJ、という選択になるかと思いました。
また、色味については、
Nikonの最新レンズと比べて、Carl Zeissの35mmレンズは基本的に若干緑色の傾向があり、中でもDistagon 35mm/1.4zmとLoxia35mm/2は寒色系でもあるので、透明感好きならばこの2本かな、と。
もちろん全部買うという選択肢が一番おすすめですが!
なお、比較的手頃な価格で持ち出しもしやすく、でも現代的な最高の描写のレンズをお求めでしたら、Nikkor Z 35mm/1.8かVoigtlander Apo-Lanthar 35mm/2がいいんじゃないでしょうか。自分は持っていませんが、無理にCarl Zeissにこだわる必要もないと思います!
以上、それでは素敵なカメラライフをenjoyしてください!!!それではまた〜
(以下、長大な蛇足)
1 対象レンズの説明
今回の比較対象は以下の6本のレンズ※で、レトロフォーカスタイプと言われるDistagon型レンズが5本、ミラーレス用のLoxia(対称型のBiogonタイプ)が1本となります。
※ Distagon 35mm/1.4 zf.2、Milvus 35mm/1.4 zf.2、Distagon 35mm/1.4 zm、Loxia 35mm/2、Rollei HFT Distagon 35mm/2.8、Distagon 35mm/2.8 MMJ
また、以下の図表はCarl Zeiss製の35mmのレンズとなりますが、本記事の対象は赤・太字のレンズとなります(Contaxのレンジファインダー用のレンズは記載していません)。なお、この項目だけでもとても長いので、適当に読み飛ばしてください。
(1)Distagon 35mm f1.4 zf.2
(2011年発売)(以下「Zf」と言う。)
2011年に日本のコシナ社から発売。レンズ枚数は9群11枚で重さは830gと中々に重量級のレンズ。Photo yodobashiの作例(1・2)も素晴らしい。
一方で、こちらのレビューや一般の方々のレビュー(zf・ze)にある通り、開放ではフリンジがかなり出ます。また、一眼レフ用のフランジバックが長いレンズなので、樽型の歪曲が最大で約2%も発生します。
1972年・1975年に発売されていたDistagon 35mm/1.4は8群9枚構成であり、40年後に出たこのモデルとの違いは大いに気になるところではありますが、そのために数十万円は払えません。。。
(2)Milvus 35mm f1.4 zf.2
(2017年発売)(以下「Milvus」と言う。)
このような批判を受けたからなのかは分かりませんが、新しい製品ラインであるMilvusシリーズへの変更に伴い上記Zfが製造終了となり、2017年に設計も新たにMilvus 35mm/1.4が発売されました。しかも謳い文句は、「Milvus1.4/35は、軸上及び倍率色収差を徹底的に見直し、カールツァイスの最高級レンズOtusに匹敵する色収差改善を実現」(コシナ公式サイト)・「輪郭と輪郭の間の色収差を、ほぼ完全に除去」(Carl Zeiss公式サイト)とされており、顧客からの批判がかなりあったのか、あるいはコシナ・Zeiss自身がプライドがかなり傷つけられていたり、トラウマになっていたりしたのでしょうか(実際、Distagon 35mm/2 zfは外側の鏡筒のデザインこそ変わりましたが、Milvusラインでも従前のレンズ構成のまま販売されてます)。
Milvusのレンズ構成は11群14枚で、その内1枚が非球面レンズ、5枚が異常部分分散ガラスとなっており、かなり贅沢な仕様となっています(前モデルは各1枚だったのですが)。その分重さも前作から250g増の1080gと、持ち出しにかなり気合いが必要となるスペックとなっています。
量販店の作例でも、凄まじい立体感と透明感を見せつけていますね(1・2・3)。海外からの評価も高い。ただ、樽型の歪曲は相変わらず最大2%で、開放での周辺光量低下率は最大20%となっており、この部分は改善されていません。
そしていずれにしても重い、とても重たいレンズです。
(3)Distagon 35mm f1.4 zm
(2015年発売)(以下「Zm」と言う。)
フィルム(orセンサー)とレンズまでの距離(フランジバック)が短いレンジファインダーカメラは一般的にはレンズ設計の自由度が高いため、特に広角側で高性能なレンズやコンパクトなレンズが設計可能とされています(1・2)。実際、以下の(4)のLoxia等の対称(Biogon)型のような歪曲が少ないレンズはレンジファインダーやミラーレスカメラにしか付けられず、フランジバックが長い一眼レフカメラでは使えませんでした。そのため、レンズを逆望遠型(レトロフォーカス/Distagon型)に配置して、バックフォーカスを長くすることで、フランジバックが大きい一眼レフでも高性能な広角レンズが開発されました。ただ、歪曲が出やすい等の欠点もあります。
以上前置きが長くなりましたが、このDistagon 35mm/1.4 zmはミラーのないレンジファインダー用でありながら、レトロフォーカスタイプになっています。その理由は「本来はミラーボックスが原因となり(後方レンズ要素とフィルムの表面は焦点距離を大きく上回らならなくてはならないため)焦点距離が短く、長い後方焦点距離を必要とするSLRカメラのために開発されたDistagonレンズ(レトロフォーカスデザイン)ですが、その最適化されたレイパスがミラーレスカメラにとっても理想的なもの」だからとされています。
実際、近年のカメラの高画素化に伴いより精緻な描写がレンズ側に求められることとなったため、ミラーレス用の広角レンズにおいては、伝統的なBiogonやダブルガウスタイプではなく、レンズ設計に自由度が高いDistagonタイプが採用されています(Batis 40mm/25mm/18mm, Loxia 25mm/21mm)。このDistagon 35mm/1.4も、レンジファインダー用ではありますが2015年発売ということで、ミラーレス時代の到来を受けて実現したものだったのかもしれませんね。実際、Sonyのフルサイズ・ミラーレスα7は2013年10月発売です。
なお、描写については、歪曲が周辺であっても0.5%未満に抑えられており、開放のMTFもMilvusより優秀です。実際に作例も素敵です(1・2・3)。また、重量もたった381g。
ただ、周辺光量低下率が最大で20%を下回っているといったデメリットもあり、実利用においてもやはり影響があるという指摘もあります(1・2)。
Distagonタイプのメリットとして、周辺光量を確保できることが挙げられますが、本レンズではサイズ・重量等とのトレードオフになってしまったのかもしれませんね。
(4)Loxia 35mm f2
(2014年発売)(以下「Loxia」と言う。)
LoxiaはDistagonタイプではなく、本稿唯一の対称型構成のBiogonタイプとなります。Biogonの特徴としては、「広角でも変な誇張感(デフォルメーション)や歪曲収差が少ない」ことであり、実際メーカー公表のスペック表でも全域に渡って歪曲が0.1%以下になっています。35mmという準広角特有のパースはあれど、光学性能だけで直線が直線として写るレンズです。ただ、周辺減光は開放で25%まで発生しています。なお、コシナが2005年に発売したレンジファインダー用のBiogon 35mm/2 zmをデジタル・ミラーレスカメラ用に改善したものであるとされています。
(以下、蛇足〜LoxiaとBiogon35mm/2との違いについて)
上記の通り、Loxiaはコシナが2005年に発売したレンジファインダー用のBiogon 35mm/2 zmのレンズ構成とほぼ同じです。その関係についてヨドバシカメラがZeissに行ったインタビューでは、LoxiaはBiogon 35mm/f2ベースにSonyのα7用にセンサーそのものやセンサーガラスを前提とした最適化等を行ったものと回答しています。
「LOXIAとBiogon ZMとの比較を行ってみると、Biogonはフィルム使用を前提に設計されていますので、デジタルで使うと少し乱れが出てしまいます。α7はフルサイズで、ガラスプレートがセンサーの前についています。光学デザインをする時には、このガラスプレートのことを考慮する必要がありますので、Loxiaの設計にあたっては、このガラスプレートを始め、センサー構造や振る舞い方を考慮しました。よくレンズの中身は同じなのではないかと言われるのですが、ご覧の通り、全く新規のレンズです。」、「フィルム用に最適化していたので、センサーの前にガラスが入っているとかいうのを考慮してないのですね。」、「同じレンズ(Biogon)をライカMで撮るとまあOKレベルなのですが、SONYα7RだとNGです。そういうことで、レンズ設計を見直したわけです。また、ソニーさんと密にコミュニケーションを取っていますので、このLoxiaレンズをボディに付けると、カメラにレンズを認識させることが出来るようになり、周辺の補正も行ってくれます。」
実際、レンジファインダー用であるBiogonをミラーレスに付けることについて、「MマウントのBiogon 2/35 ZMをアダプタ介してマウントし、撮影してみましたが、周辺は色転びが起き、像の流れが結構出ます」と報告されており、また、今回Loxiaのようにデジタル用に修正することで、「Biogon ZM で、周辺部の描写の流れの酷さに悩んでいましたので、どう改善されるのかと思っていましたが、開放でもそこそこ、絞ればきりっと締まるようになりました。これで、ZM での問題は解決されたと思います」と評価されています。
以下はレンズ構成図の比較ですが、基本的な部分は同じであるものの、細かな部分が異なっていることが分かります(とはいえ、実際のものをどこまで正確に反映しているかは不明ですが)。最短撮影距離もBiogonの70cmからLoxiaでは30cmまで短縮されています。ただ、MTFも異なっており、むしろBiogonの方が性能が高そうに見えます。
フィルムとデジタルで異なり、どちらが優位かは一概には言えないかもしれませんが、メーカー小売り希望価格(税別)も、Biogonの95,000円からLoxiaは159,000円と約1.5倍以上となっており、少なくとも値段の面ではLoxiaが圧勝です。この差はなんなんでしょうね、フード代(Biogonは別売り7,500円!)、デクリック機構料金、exif記録・フォーカス自動連携等の電子部品・設計料金でしょうか。。。
ちなみに、Loxiaはmade in Japanと刻印されていますが、Carl Zeiss/コシナの両社からもLoxiaの製造メーカーは明らかにされておりません。
最後に作例はこちら。
Loxia(1・2)
Biogon(1・2)
ちなみに、テレセントリック製やデジタルカメラ(のセンサー)の根本的な問題の解説はこちら。また、Biogon型に対するニコンの技術者の熱すぎる想いはこちら。
(5)HFT Rollei Distagon 35mm f2.8
(1970年発売。シンガポール製なので、1972年以降発売と思われます)(以下「HFT」と言う。)
変遷の激しい、謎のレンズ。
Rollei社のSL35という一眼レフカメラ用の交換レンズとして1970年にCarl Zeiss名で販売されたもので、販売後にシングルコーティングからマルチコーティングに変わったりするだけでなく、レンズ構成も前期型が5群5枚で後期型では以下の(6)のヤシコンモデルと同じ6群6枚に変化しています。また、製造国も西ドイツからシンガポールに変わり、かつ、名義もCarl ZeissからRolleiに変更されるなどあったようです。
なお、前期・後期の入れ替わりのタイミングが識者によってまちまちで、ピントリングが金属環モデルまでが5群5枚という説があったり、マルチコーティング(HFTコーティング)を施したものから6群6枚という説があったり。
自分の所有している個体は、シンガポール生産・Rollei名義・HFTコーティングのDistagonですが、ピント・絞りリングは金属製です。5群5枚or6群6枚、どっちなんでしょうね。ひとまず自分としては5群5枚ということにしています汗
(6)Distagon 35mm f2.8 MMJ
(1985年発売、初期AE型は1975年発売)(以下「ヤシコン」と言う。)
上記(5)のモデルの後期型(6群6枚)をそのまま採用して、日本で製造されたモデルとなります。これより大型の35mm/1.4はドイツ製であることから、その廉価版という位置付けでしょうか。
描写については、「やや広めの標準レンズで風景写真はもちろん、スナップ撮影にも適しています。フレアやゴーストが出にくく、使いやすい1本」、「感動はないが幻滅もない」、「「鋭く緻密っぽく表現するのが上手い」と感じました (あくまでもオールドレンズの範疇に留まる話)」という評価があります。Zeiss名義でf2.8と欲張らない開放値から、悪く言うと凡庸、良く言うと手頃な価格でそれなりの描写を実現しているモデルと言えるでしょう。なお、後期のMM型は発色や周辺の描写が一層改善されているようです。
実際にポートレート撮影で使っていても、安定した描写で安心して撮影できることから、サイズも大きくないですし抑えとして持っていくのでも良いレンズだなと思っています。また、個人的には広角にボケは期待していないですし、f2.8でも十分かなと。
2 比較検証について
(1)小括
結論としては以下の通りです。
・色温度についてZfとMilvusは暖色寄りで、HFT、ヤシコンは寒色寄りの傾向が見られるが、これらのレンズは誤差レベル。一方で、Zmは明らかに寒色寄りと判断可能。Loxiaも若干寒色寄りかも。
・色被りについては、Zf、Milvus、Zm、Loxiaは(基準レンズとの比較で)明らかに緑寄り。特に開放付近で顕著。HFT、ヤシコンは顕著な傾向は見られない。とは言え、むしろNikkor Zの方が赤色(マゼンダ)寄りとも考えることができるかもしれない。個人的な感覚としても、Nikkor Zは赤過ぎるなと思う時もあるので。
・露光量について、ZfとMilvusは同じ開放1.4のZmと比べて間違いなく明るい。特にZfの明るさは顕著で、開放で約1/3段、f2で2/3段、f4で約1段もZmより明るい。ZfとMilvusとの比較でも、Zfの方がF2で1/3段、F2.8で2/3段の明るさの違いがあることが分かる。ZmはLoxia・HFT・ヤシコンと比べても遜色がないことから、むしろZfがカタログスペック以上に明るい可能性もある。
・シャドー部の描写についても、Zf/Milvusがしっかりとしたコントラストを有しているのに対して、Zm/Loxiaはそれらに比べて若干明るく、オールドレンズであるHFT/ヤシコンは更にシャドー部が浮き気味である。
・精細度についても、開放において、Zfは中央部・周辺部いずれもシャープである一方で、Milvus/Zmは曖昧な描写となっている。周辺について、f2.8ではLoxiaが最もシャープで、その次にZf、ヤシコン、Milvus/Zm/HFTとなっている。
・ただし、Zfが万能という訳ではなく、フリンジは一番出るし、絞ってもあまり改善されない。開放f1.4においては、Milvus、Zmの順番で良く補正されている(もちろん中央部・周辺部いずれにも若干のフリンジは残るが)。
F2.8においてもZfは中央・周辺ともにかなりのフリンジが残存。一方で、Milvus/Zmはほぼ消滅、Loxiaは中央部のみ少々残存という結果であるが、より驚きがあったのはHFTとヤシコンである。ヤシコンは中央部にほんの少しフリンジが見えるものの、HFTはフリンジがほぼ皆無であった。Milvus/Zm/HFT>ヤシコン>Loxia>Zfという順番。
・その他全体的な傾向として、WBや明るさを統一してもなお、画面から受ける色の印象は異なる。開放f1.4で三つのレンズを見比べても、中央部のカラーチャートの色は同じなのに、全体としてZmがクールで、Zfが暖色系の印象を受ける(Milvusはニュートラル)。特に左右両端のモノクロの写真の色が顕著。これは周辺減光の差から来るものか、あるいは周辺部の描写の違いから来るものか。ちなみに、F2だとLoxiaが更に寒色・緑傾向が強く見える。F2.8では、Milvus/Zfが暖色系、Zm/HFT/ヤシコンがそれより寒色系、Loxiaは明らかに異彩を放つ青緑。
(2)検証条件の説明
<調査事項>
・ホワイトバランス(色温度・色被り)をベースに、全体的な発色の傾向の比較・検証。
・露光量・黒レベルをベースに、明るさ・シャドー部の描写の比較・検証
・その他フリンジや精細度等の官能評価(見た目でなんとなく判断!)
<撮影条件>
以下の設定で、カラーチャート等を撮影する。
・カメラ Nikon Z7
・ISO感度 64
・ピクチャースタイル(プロファイル) 「フラット」モード
・絞りに合わせてストロボの強さを以下の通り変化させ撮影する。
絞り・ストロボの強さ=f1.4, 1/256; f2, 1/128; f2.8, 1/64; f4, 1/32。
なお、ストロボはGodox V860II-Nというクリップオンストロボで、カメラのストロボ接点に直接付け、かつ、付属のディフューザーを付けて写真の中央部に向けて直接照射しています。
・Nikkor Z50mm/f1.8を比較のための基準レンズとしています。
・ちなみに暗幕なく、また、普通の部屋で撮影しているので、余計な光・色被り等があり、厳密な調査になっていないことはご理解ください。
<比較条件>
Lightroomにおいて以下の(1)〜(3)の設定とすることで、平等な条件で、色温度・色被り、理論上のf値ではない本来の明るさ、シャドウの浮き方(コントラストの良好さ)を検証する。
なお、その際、Nikkor z50mm/1.8を基準レンズとしつつ、それとの対比を行う。
(1)右のパネルの一番左の列の上から2番目のパネルに対してLightroomのオートホワイトバランス機能を適用する。中央、四角の計5箇所で計測して、その平均値となるようにしました。
(2)右のパネルの一番左の列の一番上のパネルで、RGBの値がそれぞれ約90%となるように、Lightroomの「露光量」のパラメーターをアバウトに設定する。
(3)右のパネルの一番左の列の一番下のパネルで、RGBの値がそれぞれ約4%となるように、Lightroomの「黒レベル」のパラメーターをアバウトに設定する。
(3)検証結果
(i)数値上の比較
以下がまとめの数値となりますが、解釈方法は以下の通りです。色温度・色被り・露出・黒レベルをLRで特定の数値に合わせるために必要なパラメーターの変更度合いでレンズの特性を計測しています。
・色温度について、基準レンズ(Nikkor z50mm/1.8)より数値が低ければ元が暖色寄り・高ければ寒色寄りの画質と判断できます。
・色被り補正は、基準レンズより低ければ赤寄り・高ければ緑寄りの画質と判断できます。
・露光量は、基準がなく、相対的にはなりますが、補正値が高ければ実際の写りは暗く、補正値が低ければ(orマイナスならば)実際の写りは明るく写っています。
・黒レベルは、高ければ(数値がゼロに近いほど)高コントラスで、低ければ低コントラストでシャドー部が浮いている(締まりがない画像である)ことを指しています。
また、実際の画像の比較は以下の通りです。中央部の色味・明るさを合わせているのでかなり分かりづらいですが、周辺減光や左右端の白黒写真を見るとレンズそのものの特性が見えてくるような気がします。実際、中央部のパラメーターを合わせていますが、周辺部の画質・色は異なったままなのが分かります(むしろ中央部を合わせることで、差異が一層際立ちます)。
ここまでの中間まとめとして、上記のものと同じですが、数値等からは以下の結果が読み取れます。
・色温度についてZfとMilvusは暖色寄りで、Loxia、HFT、ヤシコンは寒色寄りの傾向が見られるが、これらのレンズは誤差レベル。一方で、Zmは明らかに寒色寄りと判断可能。
・色被りについては、Zf、Milvus、Zm、Loxiaは(基準レンズとの比較で)明らかに緑寄り。特に開放付近で顕著。HFT、ヤシコンは顕著な傾向は見られない。とは言え、むしろNikkor Zの方が赤色寄りとも考えることができるかもしれない。個人的な感覚としても、Nikkor Zは赤過ぎるなと思う時もあるので。
・露光量について、ZfとMilvusは同じ開放1.4のZmと比べて間違いなく明るい。特にZfの明るさは顕著で、開放で約1/3段、f2で2/3段、f4で約1段もZmより明るい。ZfとMilvusとの比較でも、Zfの方がF2で1/3段、F2.8で2/3段の明るさの違いがあることが分かる。ZmはLoxia・HFT・ヤシコンと比べても遜色がないことから、むしろZfがカタログスペック以上に明るい可能性もある。
・シャドー部の描写についても、Zf/Milvusがしっかりとしたコントラストを有しているのに対して、Zm/Loxiaはそれらに比べて若干明るく、オールドレンズであるHFT/ヤシコンは更にシャドー部が浮き気味である。
(ii)実際の描写での比較
開放1.4での中央・左隅部分の描写の比較である。
「鳥の歌」という文字を見れば分かる通り、Zfが明らかにシャープで、続いてMilvus、Zmという順番であり、むしろZmは明らかに画質が劣化している。一方で、「鳥の歌」・「michelangelo」等の文字を見れば分かるように、Zfには明確なパープルフリンジが発生している。他二つのレンズには明らかなフリンジの発生は見られない。
開放1.4の左上隅でも同様の傾向が見られる。ただし、輝度差の高い部分において、ZMにも青いフリンジが発生しているのが見える。
中央においては、それぞれ緑・青色のフリンジが発生しているのが見て取れるだろう。
F2.8の中央左隅でも、Zf・Milvus・ZMの傾向は開放と変わらないが、絞った分だけシャープになっている。ただし、Zfは2段絞ってもフリンジ自体は解消していない。残りの3本についても気になる目立つフリンジは発生しておらず、特にLoxia・ヤシコンは開放値1.4のレンズと比較してもシャープであると言える。
絞り2.8の左上隅について、Zf・ZMについては若干フリンジが残っているが、その他4つについては顕著には見られず、むしろLoxiaは非常にシャープな解像度を実現している。
中央部を比較する。Milvus、ZM、HFTについては顕著なフリンジは発生していない。一方で、Zf、ヤシコンは緑・青系のフリンジが、Loxiaはパープルフリンジが発生している。
最後に中央部以外の全体の色彩についてはどうか。
この画像では小さくて見づらいが左右の白黒の画像を見ると、Zf・Milvusが暖色系であり、その他が寒色系に見えるがどうだろうか。
「(ii)実際の描写での比較」項での結論として、
・精細度(解像度)についても、開放において、Zfは中央部・周辺部いずれもシャープである一方で、Milvus/Zmは曖昧な描写となっている。周辺について、f2.8ではLoxiaが最もシャープで、その次にZf、ヤシコン、Milvus/Zm/HFTとなっている。
・ただし、Zfが万能という訳ではなく、フリンジは一番出るし、絞ってもあまり改善されない。開放f1.4においては、Milvus、Zmの順番で良く補正されている(もちろん中央部・周辺部いずれにも若干のフリンジは残るが)。
F2.8においてもZfは中央・周辺ともにかなりのフリンジが残存。一方で、Milvus/Zmはほぼ消滅、Loxiaは中央部のみ少々残存という結果であるが、より驚きがあったのはHFTとヤシコンである。ヤシコンは中央部にほんの少しフリンジが見えるものの、HFTはフリンジがほぼ皆無であった。Milvus/Zm/HFT>ヤシコン>Loxia>Zfという順番。
・その他全体的な傾向として、WBや明るさを統一してもなお、画面から受ける色の印象は異なる。開放f1.4で三つのレンズを見比べても、中央部のカラーチャートの色は同じなのに、全体としてZmがクールで、Zfが暖色系の印象を受ける(Milvusはニュートラル)。特に左右両端のモノクロの写真の色が顕著。これは周辺減光の差から来るものか、あるいは周辺部の描写の違いから来るものか。ちなみに、F2だとLoxiaが更に寒色・緑傾向が強く見える。F2.8では、Milvus/Zfが暖色系、Zm/HFT/ヤシコンがそれより寒色系、Loxiaは明らかに異彩を放つ青緑。
3 MTF等
公式データ(既に終売しているレンズの公式データはこちら)によるMTF、歪曲、周辺減光は以下の通りです。なお、比較のため縮尺が同じになるように調整しています。
1970年代に発売された当初のDistagon 35mm/1.4と比べるとMTF自体はかなり改良が進んだと評価できますが、周辺減光・歪曲は特に進化していないですね。もちろん、時代によって測定機器が異なると思いますし、また、フィルム・デジタルのどちらを前提とするかでもMTFの解釈は異なるかもしれません(例えば、フィルム撮影前提のレンズはいくらMTFが良くても、センサーのカバーガラスの厚みやテレセントリック性の問題からデジタル撮影では結果が伴わないものがあるかもしれません)。
なお、今回比較した3本のDistagon 35mm/1.4の中では、MTF上はZfが一番劣後していますが、実際の撮影結果では少なくとも解像度では一番でした。これは個体差なのでしょうか。あるいは、微細なブレや自分のピント合わせにミスがあったのかもしれません。ただし、MTF上でも、f4まで絞ると、Zfの描写が残りの2本を上回り、特にMilvusがf4でもそれほど改善しない(中央部に著しい改善はなく、周辺部が大きく改善)のが興味深いですね。
Zfの発売時期が2011年で、その時代はまだまだフィルムも使われており、フィルム時代のレンズの考え(開放から高描写というよりも、絞りごとに描写の変化を好む?)も残っていたと思われるところ、Zfはフィルム時代の名残を残した絞りが効くレンズと言えるかもしれませんね。あるいは、だからデジタルカメラでのフリンジにも無頓着だった?
4 作例
今よりも更に下手な時代の写真もあるのでご容赦ください。また、かなりレタッチをしていますので、描写はご参考ということで。
(1)Zf
(2)Milvus
(3)ZM
(4)Loxia
(5)HFT
作例無し。
(6)ヤシコン
5 終わりに
色々と比較しましたが、カラーチャートを一部活用したWBや露出の検証を通じて、オールドレンズの想像以上のレベルの高さを感じるとともに、完璧なレンズはなく、どのレンズも大きさ・重さ・値段(材質等)とのトレードオフということを改めて実感しました。
また、ボケ味、絞りごとの特性、最適な撮影距離、フレア・ゴースト耐性など、今回の検証やMTF等の公式データに出てこなかった部分も多々あります。WB等の測定も基本的には中央部分のみとなり、周辺はあまり仔細に比較できていません。更に、オールドレンズは時代差だけでなく現代レンズ以上に劣化も含めた個体差もあることには留意しておく必要があります。
そのため、本件調査が実利用においてどの程度使えるかどうかは読者の方にお任せしたいと思いますが、あらあらの傾向は分かったのではないかと思います。
以上、つまらない結論ではありますが、どのレンズも素敵だと思いました。勢いに任せて書いてしまいましたが、願わくば本稿が皆様のレンズライフの足しになることを祈っています。
なお、個人的にはZMとヤシコンがベストバランスで、加えてガチ撮影にはMilvusを持ち出すといった使い分けを考えています。
6 補論
もっと書こうと思いましたが、力尽きました。。。
(1)他のZeissの35mmレンズ
以下のレンズ一覧のように、35mm/1.4でもHFT・ヤシコンには触れられていませんし、f2に至ってはまだまだ沼は深そうです。もちろん、Contaxレンジファインダーの後ろの出っ張りが激しいBiogon(初期型のSonnarタイプとOpton以降の対称Biogon型)も忘れてはいけません。そうなってくると、その完全コピー品である旧ソ連レンズのJupiterの沼も待っています。どこで区切りを付けるか悩ましいですね。
なお、旧東ドイツのZeissやシネレンズもありますが、そこまで追いかけるといくら時間・お金があっても足りませんね。
(2)ミラーレスレンズへの期待
とはいえ、オールドレンズだけでなく、現代のミラーレス、特に一番設計の自由度が高いNikon Zマウント(フランジバックが最短で、マウント径も最も大きいため)で、Zeissがガチンコで写真用レンズを作ったらどうなるかは非常に関心があります。
ただ、スマホの普及でカメラ人口が減り、また、デジタル化・高画素化によりそもそもレンズに求められるレベルが高くなり、資材・製作費が高騰化している中で、Zeissがこのようなマーケットサイズが小さく競争も激しい民生用カメラレンズに投資する可能性は低いんでしょうね。また、提携先のコシナもソニーも、近年は利益率の高い自社ブランドに力を入れ始めました。日本でZeiss基準でレンズを作る能力があり、実際に対応してくれるメーカーは皆無かもしれません。ブランドイメージを考えると、スマホならいざ知らず、名も無いメーカーにフルサイズでライセンス供与すること等も考えづらいです。
ZeissがNikon Zマウント(少なくともRFマウント兼用)に性能に振り切ったマニュアルフォーカスレンズを出してくれる日は来るのでしょうか(写真用レンズからの撤退報道も最近ありましたが)。。。少なくとも、フランジバック・マウント径の恩恵を最大限受けられる広角〜標準域のレンズを見てみたいですね〜
(7 参考ウェブサイト)
(1)データ
Zeiss Historical database
Zeiss公式
コシナ公式
Lensdatabase
(2)作例
Photoyodobashi
Kasyapa(map camera)
(3)個人ブログ等
Zeissレンズとかなんとか
M42 Mount Spiral
出品者のひとりごと・・