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お茶馴染み

 物心ついた頃から、僕の実家では毎年お茶を買いに行っていた。祖母のつながりのお茶農家さんがいて、そこへ買いに行く。なぜわざわざ訪問するのか、どんな関係なのか今も知らないのだけど、昔からそうだった。
 僕自身も小さい頃に何度かついていったことはあるが、お茶畑以外になにかあるわけでもなく、おぼろげに退屈だった記憶しかない。

 実家では、お茶が無くなるまで1年の半分くらいはそこのお茶を飲んでいた。中でも僕はほうじ茶が好きだった。今でも、お茶といえば高確率でほうじ茶を買う。

 最近、実家からその農家さんのほうじ茶をもらった。久々に淹れて、飲んだ瞬間にしっくりきた。市販の茶葉も不味いわけじゃない。でも、やっぱり違うのだ。小さい頃から飲んできたほうじ茶は、すっと身体に入ってくる。

「馴染む」のだ。
「ハマる」とは違う。

 ハマるとは、運命の出会いのように引き合い、合致する。馴染むとは、長年連れ添った仲良しの夫婦のように境目が溶けていくのだ。

 ハマるのは強烈な体験だが、馴染むのは安心感がある。

 馴染むには、どうやっても時間がいる。だから、時間に追われている僕達はそれを後回しにしがちだけれど、馴染むということが日々の生活を落ち着けてくれるのだと思うのだ。

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ほんだ
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