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木原事件 迷宮を読み解く

木原事件関連のユーチューブを見ていたら百田さん始めいろんな方が沖田臥竜氏の「迷宮」と言う本を紹介していました。今話題の木原事件について既に3年前に発行されたこの本の第一章に「文京区変死事件」として掲載されているのです。慌ててネットで注文すると在庫はなく「お取り寄せ」となっていました。アマゾンでは既に中古が3万円で売られていると言うのでどうかなと思いましたが、先日なんとか我が家に到着しました。勿論正価なので1300円プラス税です。

実はこの「文京区変死事件」は2019年にとある雑誌に投稿されたものを収録したもので書いた時期は2019年でまだ捜査が縮小されながらも継続されている時期のことでした。著者の沖田臥竜氏は元反社の人で警察だけでなく裏社会にも情報ネットを持っているようでこの「迷宮」では怪奇事件や迷宮事件を紹介しています。記事の中で木原氏の名前はありませんが、ある業界の大物と書かれています。記事そのものはそれほど長い物ではなく、大塚署のロッカーに保管されていた2006年の自殺事件の捜査書類に疑問を抱いた刑事が本庁に持ち込み再捜査が始まったとあります。そして再捜査しているうちにY氏の供述が出てきてX子を調べ始めたが、その過程でX子が現在ある大物と結婚していることが分かり捜査は慎重にならざるを得なかったとほぼ文春記事通りの展開になっています。ある大物のいる世界で「影のドン」と呼ばれる超大物の耳にも入り、ドンから離婚を勧められるも現時点では離婚していないと二階氏と思われる話もちゃんと取材していました。結論として著者は2019年の時点で既にX子が自供しない限り間違いなくこの事件は「迷宮入り」だと断言しています。

この記事で新しい情報も出て来ました、捜査一課の家宅捜査直前のただならぬ動きを察知したあるテレビ局が名古屋の実家の前にテレビカメラを置いたと言うのです。今も木原事件については沈黙を守っているテレビ局ですが、実はそのうち少なくとも1社は家宅捜査の事実を知っていたのです。このことについて元毎日放送のアナウンサー子守康範氏は激怒していましたが、まあ逮捕も起訴もされていない木原夫人の過去をただ文春のように報道すれば木原氏から人権侵害だと訴えられると危惧して表に出さないのも仕方ないかも知れません。いずれにしても4年前に木原事件を書いていた人がいたことは驚きです。細かな点では文春報道と食い違うことが色々ありますが、作家が一人で取材して書いた記事なのである程度の間違いは仕方ないかなと思っていました。

ところが昨日あるユーチューバーが「目から鱗」の説明をしていました。彼の解説では「文春報道との違い」こそ警察が自殺と偽装した証拠だと言うのです。なるほど!改めて本を読み直すと全ての相違点の説明がつくのです。例えば事件当日の朝、X子が起きて1階のリビングに降りると種雄さんが死んでいたとあります。実際のリビングは2階にあり、寝室のすぐ隣です。そうです!すぐ隣で寝ているとすると断末魔の音に気が付かなかったことが不自然になりますね!そして朝起きて1階にある遺体を発見し警察に通報したとありますがこれは全くの出鱈目です。第一発見者を種雄さんの父親ではなくX子にするなんて警察関係者以外には出来ません。これは一体どういうことなのでしょうか?これらの相違点は決して著者の聞き間違いなのではなく情報ソースである警察関係者が著者に対して意図的に「自殺シナリオ」を教えていたことになります。それ以外にも種雄さんが暴力団から300万円を借りていたとか、覚醒剤の常用者だったとか、彼がトラブルの渦中にいたと思わせることも書いてあります。この部分の真偽は今のところ確認出来ていませんが、少なくともこれが自殺シナリオのサポートとなっていることは確かです。(ちなみに種雄さんはベンツを所有していたのでそれを売れば借金は返せますね。)逆にX子のY氏との逃避行や離婚話などの夫婦間トラブルは記事には一切出て来ません。細かい記載について言えば刺し傷は肺まで届く深いもののはずなのに「頸動脈を包丁で切った」とあたかも自殺らしい切り方にされています。では麻薬常用者の借金トラブルに絡む錯乱自殺というシナリオはどのようにして著者に伝わったのでしょうか?当時事件を担当した大塚署の警官の言葉でしょうか?それとも捜査書類にそんな嘘が記載されていたと言うことでしょうか?いずれにせよ2006年当時の大塚署の捜査は佐藤警部補が会見で言いにくそうに言った「ミスったのかな?」程度のものではなく、この事件の隠蔽に積極的に加担していたような気がします。

一方、再捜査に関わる沖田氏の記載は概ね正確なものです。そして「捜査一課はX子の立件に向けて捜査を続けている」ただ「X子が一貫して否認しているのだ。捜査は難航していると聞く」と結んでいます。そう捜査は記事を書いた時点でも続いていたのです。今回の警察庁長官の発言(失言?)の後、この発言について文春が当時の捜査一課長だった小林氏に質問すると「事件性はないじゃない!・・・灰色の段階で終われないんだよ。確実にシロにならない限りさ。おれが辞める時(2019年2月)には全然(捜査を)やめたわけじゃない」と述べているのです。現に2019年になっても木原家の定点観測捜査を行っていました。では佐藤警部補は何故、突然捜査中止と言われたとしているのでしょうか?X子の取調べをしていたのは2018年10月のことで捜査一課は木原氏から「国会が始まる10月24日までに取調べを終えろ」と言われていたのです。そしてまさに国会が始まる直前に佐和田立雄管理官から「明日で全て終わりだ」と告げられたと文春に述べています。ただこの当時は国会が終わればまた捜査は再開されると思っていたとも言っています。現に12月にもサツイチ(殺人犯捜査1係)の係長が両面テープの件を聞く為に宮崎刑務所でY氏と面談しています。ただその後、合同捜査チームは分解し大塚署とサツイチはこの件から外され捜査一課特命捜査対策室特命捜査1係(つまり未解決事件担当係)の単独案件にされてしまいました。そして小林捜査一課長は2019年2月に異動を命じられることになりました。始めにこの件を不審に思った女性捜査官はそれ以前に異動を告げられていたと思われます。つまり宣言もなく静かに未解決事件とされていったのです。

私は佐藤警部補に捜査中止を告げたと言う佐和田管理官がキャリアなのかも含めた経歴に興味を持ち自分でネット検索をして見ました。すると彼は再捜査を開始した時点では特命捜査対策室長だったことが分かったのです。何故そんなことが分かったかと言うと沖田氏の「迷宮」第6章でも紹介されていた柴又・女子大生放火殺人事件で佐和田特命捜査対策室長(当時)が事件現場の3D動画を作って情報提供を呼びかけたという記事が出ていたからです。時期は2018年2月なので再捜査開始の4月も多分同じ職だと思います。いやこの月に定期異動で管理官に出世していたかも知れません。この方は文春の取材に対し「もういいんじゃないのと言った覚えはあるけど時期は覚えていないな。上司からの指示というより僕がそう思って言った気がする」と割りと自然な回答をしています。佐和田氏は昨年2月に捜査一課課長代理(警視)で退職しており、ノンキャリアとしてはまずまずの警察人生だった感じです。議員の妻案件なので特命1係では無理だと思ったくらいですから、平凡な方で捜査中止や隠蔽に関わったような強烈な印象はありません。つまり捜査中止の経緯は人事を絡めた実に巧妙に仕組まれたもので、未解決事件に日頃から慣れていた管理官の記憶には残らないくらいのフェードアウトだったのかも知れません。ただサツイチの熱血捜査官たちからして見ればこれからが本番と言う時に案件から外されたと言うことだけで「捜査中止」と映ったことは間違いないでしょう。ただ巧妙な捜査中止とは言え被害者への報告など現場にとって大事なことへの配慮が出来ていなかったようです。

今回遺族が出した捜査再開の上述書に対し大塚署は遺族を呼びつけて「事件性は認められませんと繰り返し、捜査は終わっています。当時の捜査員がいないので終わった時期はわかりません。」と告げています。当時の捜査員の居場所なら文春の記者がよく知ってますよと皮肉を言いたくなります。そもそも終わった時期を聞きたいのではなく、捜査を再開してくれとお願いしているのです。こんな対応を聞くとやはりこの事件は「被疑者不明で刑事告発」するしかないですね。

「迷宮」の作者・沖田臥竜氏は未解決事件をテーマにして自らの推理を書く人たちには苦言を呈しています。現場の捜査はそんな簡単なものではなく簡単に推理出来るようなことはとっくに警察で捜査していると断言しています。歌舞伎町雑居ビル火災事件でも実は放火と無関係と思われる板橋の工務店社長殺害事件の捜査から関連人物をたぐり、放火事件へと辿りついています。それでも確実な証拠がなければ逮捕出来ないと言う現実を紹介しています。そんな現場捜査の厳しさを知る沖田氏がこの文京区変死事件を第一章で取り上げた意味はとても重たいと思います。権力によって迷宮入りにされる「こんな事件」があるのだと言う不条理を世の中に訴えたかったのかも知れません。

尚、「迷宮」は近々アマゾンから電子書籍として発売されるそうです。


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