大好きな柴田聡子さんについて語りたい(6)『結婚しました』 歌詞の考察
※※(2024年11月24日記載)この記事は有料設定をしていますが、一定期間は全部を無料部分に開放しています。
ZINEの在庫が消沈したこと、柴田聡子さんの「ホールひとりぼっち'24」が素晴らしすぎたためそのお祝いの表現のひとつです。
※この記事の内容はZINE『100mをありえないような速さで走る50の方法』に収録されています。ご購入の際はご留意ください。
こんばんは、桐山もげるです。今回は『結婚しました』の歌詞の考察を書きました。書く前に想像していた以上に多くの説明が必要になり、これまでの記事の中でも一番の長文記事になりました。
本題は『結婚しました』 歌詞考察という項から始まります。本題を確認するだけなら下記見出しのリンクからその項までジャンプしてください。
昨日の「ゴツドリ Autumn Night」面白かったですね!柴田さんの親友の貝和さんがいらっしゃったことで、おふたりの過去の思い出話も聴けた貴重な回でした。『どうして』の歌詞の意味が明かされる場面も(!)。柴田さんの作品をお好きな人は絶対毎回新しい発見のある素晴らしい番組です。リアルタイムで聴けなかったという方もアーカイブでご視聴できます→ https://youtu.be/z1Dit2CC1B8
『結婚しました』について
さて、今回の「大好きな柴田聡子さんについて語りたい」は『結婚しました』の歌詞の考察に挑戦します。
その前に、曲の概要について紹介します。
2019年3月にリリースされた5thアルバム「がんばれ!メロディー」の冒頭曲でアルバム全体のイメージを決定づけるポップ調で明るい印象のある曲です。リリース当時のインタビューやラジオ番組で柴田さんご本人も、この曲については「アルバムの中で一番好き。このアルバムのキーとなる曲」という趣旨の話をされています。
考察に入る前に、参照用としてYouTubeで公開されている公式のMVのリンクと歌詞の全容(LP盤の歌詞カードより)を示します。
柴田聡子『結婚しました』MV
『結婚しました』の歌詞(LP盤の歌詞カードより)
『結婚しました』 歌詞考察
<歌詞の分類について>
この歌詞は過去記事(※)でまとめた「歌詞の世界観の分類」でいうと、「3.いじわるな気持ちを表現する歌」「4.友愛や友情を表現する歌」が該当する曲と思っています。
(※)「大好きな柴田聡子さんについて語りたい(1)柴田さんの歌詞の分類についての考察」です。詳しくは下記リンクをご参照ください。
<考察のヒントになったもの(皆さんへの謎かけ)>
今回の考察は次に示す「写真」がヒントになりました。「がんばれ!メロディー」の2枚組LPの「SideAのレーベル面に描かれた絵」です。
考察の前に、「どの絵がヒントになったのか」「なぜヒントになったのか」という謎かけを皆さんにしたいと思います。その答えは記事の後半に明かします。
では、ここからが考察のスタートです。
↓ ↓
注:念のための註釈として、考察の文体が「断定的(言い切りの形)」となっている部分も含めてすべて「僕の仮説」です。全然違う可能性も大いに感じながら書いています。
〈登場人物〉
この曲の登場人物は女性2人。年齢は30歳前後。便宜上、この2人の名前を「鈴木さん」、「佐伯さん」と呼びます(柴田さんファンにはピンとくる名前と思います。わからない!知りたい!という方はご連絡ください。名前の元ネタを明かします。知ればきっとこの考察にマッチする名前と思うはずです)。そして、「語り部(言動部分の主語)は鈴木さん」です。
〈歌詞の場面と状況〉
この2人は地元が北海道であり、学生時代は「親友」と思いあっていた親密な関係です。しかし、あるきっかけでなんとなく疎遠になり、5年くらい会っていませんでした。今日、佐伯さんからの提案で久しぶりに地元(北海道)の喫茶店で待ち合わせて会うことになりました。
この歌詞は喫茶店で向かい合わせになった2人が会話をしている場面ではないかと考えました。
〈歌詞よりも前の物語〉
親友だった2人が疎遠となってしまった理由は、客観的には「就職等で、2人が生活する土地が物理的に疎遠になってしまったため」です。しかし、「鈴木さん(語り部)」側にとっては、それだけではない理由がありました。それは離れ離れになる前、佐伯さんが何気なくとった言動に鈴木さんの心が傷つけられてしまったことです。
佐伯さんはそのことを気づいていないか、深刻に捉えていなかったのかもしれません。今回、「久しぶりに会おうよ」と誘ってきたのも佐伯さんです。鈴木さんは「あの事を謝ってくれるのか」と期待し、事前に探りを入れましたが、それらしい気配もありません。やっぱりあの事を佐伯さんは大事に捉えていなかったのです。
そこで、鈴木さんは決心しました。いつかしてやろうと思っていた「佐伯さんへのいじわる(仕返し)」を今回やってやろう、と。
〈いじわるの内容〉
佐伯さんへの「いじわる」の内容。それは、「結婚しました」と嘘をつくことでした。それも「1年以上前に結婚しました」という内容。
「結婚」という重要なライフイベントを報告しないということは、「あなたは親友ではない」と告げているようなものです。ずっと自分を親友と思ってきたであろう佐伯さんさんは、大きなショックを受けるだろう、と鈴木さんは思いました。「仕返しができる、夢にまで見たこの機会を逃してなるものか」と、強固な心で実行を決心します。
そこで、鈴木さんは「いじわる」のための「小道具」の準備をします。
「結婚式の写真」「ハワイ(結婚式を挙げた設定の場所)のお土産」「この1年間の(春、夏、秋、冬の季節ごと)夫と一緒に写った写真」など。友人の男性に頼んで夫役もしてもらいながら、だます材料を仕込みます。しかし、最後には「仲直り」するための仕込みも用意しました。「梅の絵を描いた手描きの絵葉書(画用紙を切って作成したもの)」です。佐伯さんをだまし終わった後に渡す、「ネタばらしの内容」と「謝罪の言葉」が書かれています。
つまり、ここまででおわかりのとおり、歌詞のタイトルの「結婚しました」は鈴木さんが佐伯さんにいじわるするための「嘘の言葉」だったのです。
〈歌詞に描かれている場面の考察〉
さて、歌詞の考察に必要になる「前置き」が終わりました。ここからは、歌詞を引用しつつその考察をまとめます。便宜上、「場面(情景)を説明する描写」に関連する箇所を先に、それ以外の「独立した補足情報」と思う箇所を後にまとめています。
"やっぱハワイより船に乗ろうよ"
→これは、「結婚しました」と嘘をついた後に鈴木さんが佐伯さんにマウントをとった体で指南している言葉。「私はハワイに行ったけど、船に乗ろうよ、その方がいいよ」と。
"何にも変わらないね こっちだけが休みで悪いね"
→「5年振りに会ったけど、変わらないね」「結婚して専業主婦になったから、自分だけ休みで悪いね」という会話。
"つくりもののまつげからこぼれ落ちる涙のうしろを マツダの軽で追いかける泥まみれの赤い靴"
→佐伯さんは、鈴木さんの仕掛けた「いじわる」を真に受け(そうか、私は親友じゃなかったのか)と思い、泣いてしまいました。それを知りながら、鈴木さんはさらに追い討ちをかける、という比喩と思います。
"マツダの軽"は「自動車(早いスピードの乗り物)」。"泥まみれ"は「雨(涙)で地面が濡れている」比喩。だます側の鈴木さんが優位に立っている状況を「自動車に乗って追いかけている情景」として描いていると思います。
さらに深く考えると、"マツダ"は「広島」"赤(い靴)"は「カープのカラー」であり『カープファンの子』を連想させます。もしかしたらこの場面は「『カープファンの子』でも描いているようないじわるな事を考えている歌詞ですよ」というヒントなのかも知れません。
"振り返ると春夏秋冬と 気づかなくなってきた髪の毛の色や長さに気をつけないと"
→ふと、だますために用意した「写真」の不自然さに鈴木さんは気が付きます。それは「春、夏、秋、冬」と季節ごとに撮った写真に写る自分の髪の毛の色や長さがすべて一緒なのです。本当は1日で撮ったのだから当然です。「仕返し」することのみ考えていたので、その粗さに気づかなくなっていたようでした。
"あっという間に謝れないまま"
→計画では、「だましたあとに、頃合いを見て(佐伯さんが怒るなどしたら)すぐ謝る」だったのですが、そのタイミングを掴めずに謝れなくなってしまっている描写と思います。
"だますよりはだまされる方が まだいい まだいい まだいいよ"
→だまされた佐伯さんがショックを受け意気消沈してしまった様子を見て、鈴木さんは良心の呵責に耐えられなくなってきました。「だますのがこんなに辛いことなら、だまされる方がましだ」という意味と思います。
"雪もあんまり降らなくなって 暮らしやすい楽な北国 明日の朝の雨降りは2人では持てぬ傘が要る"
→前半は地元北海道(北国)の気候の変化を指していると思います。例年なら雪が降る時期にあまり雪も降らなくなった。そして、後半の"雨降り"は「泣く」ことの比喩、"2人では持てぬ傘が要る"は今回のいじわるが思いの外大きなことになってしまい、「2人だけでは解決できなくなった(誰かに助けてもらいたいという)状態」の比喩と思います。
"絵に描いていた梅は散ってしまい 枝だけ広がる画用紙も 許せるようになった日々が お待たせと頭を掻いて"
→この場面で、既に「鈴木さんも泣いてしまった」ことを表していると思います。ネタを明かして仲直りするために取り出した「梅の花を描いた絵葉書」の上にポロポロと涙が落ち、梅の花が滲んでしまいました。
そして、ようやく鈴木さんは謝ろうとします。次はその瞬間です。
"広げた手はとぼけたふりして 何もかも知りながら待っていた"
→佐伯さんが、立ち上がって握手を求めるように鈴木さんの目の前に手を差し出しました。「さ、もう行こうか」なんて言ってニコッと笑ったかも知れません。佐伯さんは、鈴木さんの泣いている様子を見て全てわかっていたのです。「今日の話は嘘だったこと」、「鈴木さんがいじわるをしてきたのは自分に責任があったということ」、そして「今日仕返しを受けたのだからこれでおあいこだね」ということ。
"離されない手をただ離さないように 離されない手をただ離さないように"
→やっぱり、佐伯さんは自分にとって親友であり、「この人を失ってはいけない、この人を裏切ってはいけないんだ」と鈴木さんは思った。
〈場面に関連せず独立して挟まれている歌詞の考察〉
前項では、登場人物2人のやりとりや、関連する心理的な描写の比喩と捉えた部分の歌詞を考察しました。それ以外に書かれている歌詞は、場面描写の歌詞に挟み込まれた「独立したもの(教訓や願望、柴田さんが思っていること)」ではないかと思います。
"閉じこもってしまう部屋は無い方がいいと思う"
→「夫婦で暮らす家の間取りを考える時は、一人で閉じこもってしまう部屋はない方がいい。あると喧嘩したとき等に、すれ違いが多くなって良くない。」という「結婚にまつわる教訓」を挟みこんでいます(註:実はこの部分の歌詞の解釈を柴田さん本人の言葉でお聞きしたことがあります。ゴツドリで話されていたと思います)。
"はじめて大きな音を立てて こだわりのテーブルを叩く よろこんで買ってきた箱の中にはちばてつや"
→「結婚生活に慣れてきたら、夫婦の素を出せるようになったらいいね」という願望と思います。「いつまでもよそよそしい気分のまま緊張していないで、嬉しいことがあったらテーブルを叩いたりとか、好きな漫画買って読んだりとかしたい」という。
"うちのチワワと亀と鳥は今日も明日もまたかわいいね"
"芍薬でしょうか薔薇でしょうかあの日の花火を例えるなら 今好きなことどれくらい好きでいられるかなんて話""流れる川が ただ流れる 流れていくのをただ見ている"
→これらは3つ関連があると思い、まとめました。「結婚したら、相手のことをいつまで好きでいられるんだろうかという疑問」に関連していると思います。「花火は一瞬で散ってしまう、でも飼っているペットはおそらく、ずっと好きでいられる。それとも川の流れのように、目の前を過ぎる水はいつも違う水であるのに流れが絶えることがないように、心変わりをしてもこの関係が続くものなのだろうか(鴨長明「方丈記」を想起させるような内容)」ということではないでしょうか。
(以下2022.5.1追記)
"流れる川が ただ流れる 流れていくのをただ見ている"
について、この記事を最初にまとめたときには「場面に関連のない独立した言葉」かと思っていました。しかし、今日この曲を聴いて「場面に関係あるの言葉ではないか。いや、きっと関係があるに違いない」と思いました。
それは、この考察における登場人物で表すと
「佐伯さんが涙を流しているのを、鈴木さんがただ見ている」
という意味です。さきほどTwitterにも追記しました。↓
あとから新たな解釈が思いつく……。柴田さんの歌詞には本当によくあること。
1年後にはさらに追記しているかもしれません。
この曲は柴田さんによる「本当のいたずら」だった?
考察の最後に、この曲が作者の柴田聡子さんによる「リアルないたずら」だった可能性もある点にも触れます。その根拠は歌詞のタイトルです。『結婚しました』というタイトルの曲が発表されたとき、柴田さんの実際の知り合いはそれを見てどう思われたのか?と思いました。
長年の付き合いがあり「なんでも話せる仲」と思っている人なら、もしかしたら「いつのまに結婚したの!?自分には教えてくれなかったんだ!」とショックを受けたのではと思いました。でも、蓋を開けてみれば、これはあくまでもフィクションとしての歌詞のタイトルというネタばらし付き。面白いタイトルをつけるなぁ、と思いました。実は僕もこの曲名を見て「柴田さん結婚したんだ!」と思いました(知り合いではないから、「なんで教えてくれないの?」まで思ってはいません)。
ちなみに、柴田さんの歌詞の内容はほとんどの場合「実体験ではない」そうです。そのことを『ニューポニーテール』の"私から私が消えて"で表現しているとのこと。歌詞は「私の物語」ではなく創作とのこと。これについては、また別の機会に深掘りしたいです。
「考察のヒントになった絵」の答え
『結婚しました』 歌詞考察の項の冒頭に記載した、「考察を思いつくに至ったヒント」の答えです。より具体的には次の絵がヒントになりました。
この絵は今年2021年6月に発売したLP2枚組の「がんばれ!メロディー」のSideAのレーベル面に描かれていました。「ハワイのお土産のキーホルダー」の絵のようなのですが、スペルに誤りがあります。ハワイは英語で「HAWAII」です(Iが2つ重なる)。初めてこの絵を見たときには「柴田さんがうっかり誤って描いてしまった?」と思いました。
その可能性についてはゼロではないと思うものの、よくよく考えるとそれはかなり不自然と思います。この絵がレコード盤のレーベル面に印刷されて製品化される際に、何度も複数人の目に触れてチェックされているはずです。その際にこの誤りに気づかれないことは、通常ありえないと思います。それでも「この絵で正しいと判断したとしたならば、それは何故か?」と考えました。そこから、「この絵は歌詞の主人公が、ハワイに行った嘘を作り上げるために慌てて作った偽のキーホルダーだった」という仮説が生まれました。
この絵は「がんばれ!メロディー」が今年LP化してリリースされた際に、初めて追加された描き下ろしです。CDで「がんばれ!メロディー」が発売されたのが2019年3月、「LP化」は2021年6月。つまり、曲の発表時期から実に「2年3ヶ月」も経って考察のヒントをもらえた計算になります。これをヒントと受け取るまでは、ぼんやりと全然違うストーリーで聴いていました。
所感
『結婚しました』の考察がようやく書けました。実は、この考察は書いているうちに何度も「いや、そうではなさそう。」「他の人は考察でこんなこと言ってた。それと相容れなくなってしまうのはまずいな。」と、とても悩みながら書き進めました。
結果、これまでの柴田聡子さん関連では最も時間がかかった記事と思います。この考察のとおりなら柴田さんは本当に歌詞のテーマに「友情・友愛」を表現することが多いですね。そしてその友達との関係を考察するたびに、泣けてしまうほど暖かい心を描かれていると思います(いつか柴田さんご本人がこの歌詞の解説をしてくれる日が来て「あちゃー、全然思っていたのと違った!」となったとしても、いいんです。というか、むしろそうなりたいと思っています)。
繰り返しになりますが、この考察は「僕の仮説」であり本当は全然違うのかもしれません。お読みになられた方の中にも、「全然違う内容と思って聴いていた」という方がたくさんいらっしゃるのではないかと思います。是非他の方の考察も聞いてみたいです。よろしければ、お聞かせください。「コメント」や「スキ」をいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。
今後、柴田さんの他の曲の考察もまとめたいと思っています。この曲のように、出会ってから数年遅れてヒントに気づき別の考察になってしまうかも知れません。ただ、それを恐れていては、書けなくなってしまいますので「現在の考察はこう」という立場でどんどん表現していきたいです。
それでは、また〜。
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