悪役令嬢はひきこもりたい【同人誌サンプル】
その日は、私の十八の誕生日だった。蒼空の下、ドレスで着飾った女性と正装姿の男性たちが歓談している。楽団が優雅に音楽を奏で、テーブルの上には豪華な料理が並んでいた。しかしそれらどれもこれも、私にはつまらないものだった。さらに今日の髪飾りが、私の不機嫌さに拍車をかける。今日は私の黒髪に映える、青バラの生花を使った髪飾りを着けるはずだった。それが当日になって、気候などの関係で咲きませんでした、とかある? プロバルの黒真珠と名高い、この私の髪を飾るのよ? 根性で咲かせなさいよ! 散々文句を言ったもののないものはどうにもできず、なだめすかされて最終的に造花のもので手を打った。そんなわけで自分の誕生日パーティだというのに、私は不機嫌マックスだった。
燦々と日の光が降り注ぐ中、ガーデンパーティは進んでいく。そもそも野外なのがまた、私の不満だった。日に焼けるし、風で髪は乱れるし。確かに、ガーデンパーティなんて素敵ね、なんて言ったのは私だが。
「本当にお美しくなられて。伯爵様も鼻が高いでしょう」
いつまでも続く、男のくだらないお世辞を聞き流していた。私が美しいのなんて当たり前じゃない? 艶やかな黒髪も、珍しい黒い瞳も私の自慢だ。こんな美女、探してもそうそう見つかるはずがない。当たり前のことを言われて、嬉しいとでも思っているんだろうか。
「……まだ続くの?」
「ソレーヌ」
私のひと言で、くだらないお世辞を言っていた男と、隣に座っているジェルマンの顔が引き攣った。ジェルマンは私の婚約者で、プロバル王国の第一王子だ。
「わ、私はそろそろ……」
男は出てもいない汗を拭いながら去っていった。
「君の誕生日を祝ってくれているのに、その態度はなんだ?」
いつものようにジェルマンのお小言がはじまる。私はそれを聞く気なんかなくて、近くのサンドイッチを摘まんだ。金髪にアイスブルーの瞳の彼はイケメンで好みだが、なにかと私を注意してくるのはうんざりする。あと、銀縁眼鏡で知的さを演出しているのも私のしゃくに障った。結婚したらあの眼鏡は絶対、外させる。
「聞いているのか!?」
強く言った彼が、肩を掴んで私を自分のほうへと向かせる。
「聞いてるわよ」
それに面倒くさそうにため息をついて返した。それが、悪かったらしい。
「君という人はいつも……!」
「ソレーヌ様」
怒りを爆発させたジェルマンは私を怒鳴りつけようとしたが、アニエスがやってきて口を噤んだ。いつもは空気が読めない彼女だけれど、今だけはグッジョブだ。
……以下、続く。