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6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~【同人誌サンプル】


「はっ、……はっ」
 熱い息を吐き、私の身体を揺らす彼を見上げる。まさか、あの彼とこんな関係になるなんてつい二時間ほど前の私は想像していなかった。

 その日は同期飲み会の予定だった。大学を卒業し入社して六年。同期のひとりは最近、課長に昇進した。そのお祝いも兼ねているので、どうしても行きたい。
「せんぱーい」
 終業まであと三十分を切った頃、後輩ちゃんがいまにも泣きだしそうな顔できた。
「先方に仕様書送ったら、規格変更を連絡したはずだけどって言われたんですが……」
「は?」
 規格変更? そんな話、聞いていない。向こうが連絡したつもりでしていなかったとか?
「それ、締め切り、今日だったよね?」
「はい。絶対に今日中に送ってくれって」
 明日から土日でどうせ先方も休みなんだし、月曜始業まででいいんじゃないか、なんていうのはこっちの勝手な都合だっていうのはわかっている。でもあちらの担当はいつもなにかと嫌みを言ってくる嫌な奴なので、これくらい愚痴ってもバチは当たるまい。
「よし、やるよ。ふたりでやればすぐに終わるから」
 早速、データを開き、準備をはじめる。
「でも先輩、今日、同期飲みなんですよね……?」
 申し訳なさそうに後輩が上目でうかがってきた。それを笑顔でかわす。
「それよりこっちが大事でしょ? ほら、今日中に送ってあいつをぎゃふんと言わせてやろう?」
「……ぎゃふんは古いです」
 やっと少しだけ笑い、彼女も書類の修正をはじめてほっとした。
 終わったのは二時間後だった。
「よし、これで文句ないでしょ」
 仕様書を先方へ送り、帰り支度をはじめる。この時間ならまだ同期飲み会へ顔を出すくらいできそうなので、仲のいい恵美(えみ)へメッセを送った。
「あ」
 唐突に後輩が間抜けな声を出し、そちらを見る。
「先輩、すみません。規格変更の連絡、迷惑メールに入っていました……」
 見る見るすまなそうに彼女が小さくなっていく。
「次から気をつければいいよ。それにパソコンも迷惑メールに入れたいくらい、あいつが嫌いだってことだよ、きっと」
 終わったことをいまさら怒っても仕方ない。今日の失敗は次で取り返せばいいだけだ。
「先輩、ありがとうございます。次、気をつけます」
「ん、じゃあお先ー。あなたも早く帰んなよー」
 あたまを下げる後輩に手を振り、会社を出る。恵美からの返信はまだいるとのことだったので、足早に同期飲み会が行われている居酒屋へと向かった。

……全文は本編で。


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