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ヤングチャンピオン原作コンテストに投稿された全作品のプロットを読んで考えた『作品クオリティが変わるプロット』のこと

 ノベルアップ+が、秋田書店とのタイアップで、ヤンチャンWebで連載する作品の原作を募集するコンテストを行っていました。
 これに私は2作品ほど応募しました。んで、投稿してから応募期間終了までに、自分以外の投稿作品全部のプロットを読んで、自作品を改良する糧が無いか研究しました。
 その中で思ったことをつらつら書きます。主にマンガ原作に限らないコンテスト攻略の話です。

そもそもどういうコンテスト?

 主犯が秋田書店だという話は既にしたので、ちょっとこのコンテストの特徴を見ていきましょう。
 ※先に言っておきますがこの項は読み飛ばして大丈夫です。

 特筆すべきは応募要項

 最近のweb小説コンテストは8万文字以上であることが応募条件になりがちですが、このヤンチャン原作コンは逆に『本文2万字以内・マンガ3エピソード分』という縛りが掛かっている始末。情報量を増やして誤魔化す手が封じられてるわけです。マンガに盛り込める情報量って小説より遙かに少ないですからね。
 それから作品の売りどころや設定をまとめた『プロット』を提出させるのもコンテストとしては珍しい。と言うかこれ、プロットって言うよりも企画書ですね。勝手な予想ですが、審査の主体は『プロット(企画書)』じゃないでしょうか。

 言うまでも無くノベルアップ+は『小説家になろう』『カクヨム』のようなweb小説投稿サイトです。
 web小説のコミカライズは現在も確かに好調で、先行者利益が吹っ飛んだ今も、十分に商売ができるレベル。漫画家が足りなくてコミカライズ企画がそこら中でサスペンドしてるくらいの盛況です。
 とは言え、そのコミカライズは『web小説投稿サイトでポイントが取れる内容の』『一度は小説になった』作品ばかりです。web小説のコミカライズはゼロからマンガ向けに作られた作品ではなく、二重の枷を掛けられた上でマンガ向けに再チューニングしてるんです。最初からマンガ向けに書かれた原作とはワケが違います。JPEG画像をPNGに戻しても情報の劣化は戻ってこないんです。本来は使うべき場所が違うんですから。

 一方で今回のコンテストは、マンガ原作をマンガ原作として募集している辺りを高く評価したいです。「マンガ原作募集しますよ!」って言いつつ普通に小説を募集するコンテストはよくありますが、こういうのは割と珍しい。もっと増えて。
 ちゃんと読んでもらえるかは結局運次第ですし(※後述)、読んでもらえてもそれがお眼鏡にかなうかは別の話ですが……まあ、それは一旦置いておきましょう。マンガ原作をマンガ原作として投稿したい民には、こういうコンテストがあるだけでありがたいです。

私が今回やったことについて

 作品を書き上げて投稿したのが〆切の3日前だったので、残り2日で私以外の投稿者さんの作品を研究して自作品にフィードバックしようと思い、500作品超のプロットを全作品分読みました。ちなみに良さそうなのは本文も読んだ。

 一応、先に白状しておきますと、自作品を修正可能な〆切までという時間の制約もあったので、一文字残らず全文読み切ったわけではないです。
 半分くらいまでは全作品プロット全文読んでたんですが、その辺である程度の傾向が見えてきたので、「これは読まなくていいかなー」と思ったら切り上げて次にいくようになりました。あくまでも目的は自作品の改良だったので。

 で、そこで見えてきた『プロットの傾向』が面白い気がしたのでまとめてみることにしました。コンテスト攻略の一助になるかも知れません。

 ただし、この文章を書いてるのはさっぱり売れてない作家です。その分を差し引いて読んでください。

気になった作品(プロット)の話

○要項が守られてない

 まず応募要項通りに投稿されてない作品が5%くらいあった。規定通りにプロットを投稿せず、マンガ原作脚本としてまとめ直すこともせず、ただ長期連載している自分の作品にコンテストタグ付けただけの作品とか、3話分投稿してるけどプロットを付けてない作品とか。
 待って、要項ぐらい読もう!? ホラゲーで拾ったファイル全部飛ばして、ストーリー分からないままノーマルエンドに直行するタイプの人?

 これに関しては流石に擁護できません。
 白亜紀くらいの昔から既に言われてることを繰り返しますが、新人賞やコンテストは『ビジネスパートナーとしてやっていけるか』を編集さんが見る場所なので、決まりすら守れない人は減点と思っていいでしょう。
 まあ、奈須きのこ先生とか京極夏彦先生に勝てる作品なら応募要項ぶっちぎってても受賞させてくれるんじゃない? 知らんけど。

○アピールポイントが説明できてない・書いてない

 マジでこれ。本当にこれ。
 『プロット』にアピールポイントを書くべきかどうかと問うなら断然書くべきなんですが、それだけじゃなく、アピールポイント・セールスポイントが書いてある作品と書かれてない作品を比較すると、作品自体のクオリティまで平均値の桁が違う(※個人の感覚です)。

 このアピールポイントってやつ、応募要項でもちょっとだけ触れられてたんです。ちょっとコンテストの公式サイトを見てみましょう。

 ここには書いてなくて。

 ここに、ついでみたいに書いてある。

 応募要項に書いてある通り、『プロット』は様式自由なんですが、ひっそりと書き添えられたヒントに従っているかどうかで作品のクオリティがダンチです。
 ルール説明に隠されたヒントを読み解かないと不利になるデスゲームか何かですか?

 アピールポイントが説明できると言うことは、自分の作品は何を見せれば良いか自分で分かっているって事です。
 最初からちゃんと決めているなら言わずもがな。後付けだろうとそれを分析した人は、作品クオリティに反映されているんじゃないでしょうか。
 この部分だけで笑えるくらいに違いが見えたので『書く前に自作品のアピールポイントをまとめる』『書いてる途中でもアピールポイントをまとめて見直す』は、すごい単純で実効性がある作品力向上テクニックなんじゃないかと感じました。
 アピールポイントを書く機会なんて、こんな特殊な形式のコンテストじゃないとあんまり無いですけど、自分の中で分析するのはやっぱり大事。web投稿するんなら概要欄に書いてもいいですし。

※これは『差別化できているか?』という話ではありません。一般的に既存作品との差別化は重要ですが、「流行のテンプレの話ならいくらでも読みたい」という需要も確実にあります。
 自作品の商品としての売りどころを把握しているかどうかと言う話です。

 そもそも『プロット』と言ってますが、要項に書かれてる内容からすると、求められているのは『企画書』です。
 つまり作品の設計図。
 編集会議を通すときに編集者が「この作品めっちゃイイぞ! これ連載したら大ベストセラーになってアニメ化してAdoとかYOASOBIが主題歌歌って社会現象になって俺はボーナスがっぽりだぜガハハ」って編集長とか同僚にオタク特有の早口で説明するための資料です。
 そこにアピールポイントを書かずにどうするんですかって話。

 どんなに設定を並べても、自分自身が説明しなければ誰も作品の良さなんて分かってくれないんです。まずはその絶望からスタートしましょう。ようこそ絶望の国デスペオーネへ。
 「何も言わなくてもありのまま存在していれば、見る目のある人は自分の魅力を分かってくれるはず」なんて、婚活に失敗し続けてるやべーやつみたいな考えは今すぐ捨てるんだ。銃を取れ、引き金を引け、ここは戦場だ。

 一方で、惜しいと思ったのは、「果たしてどうなるのか!?」で終わってるやつ。
 果たすな。どうなるのか教えろ。だってそれが作品の売りどころだろ。
 今回の『プロット』は要件からするに、編集者さん向けに作品設計を説明するためのもの。わんこそばめいて無数の作品をチェックする必要がある審査員さんに手間暇掛けて自作品を分析させようとするのは奥ゆかしくない。ここがキョートならムラハチだ。
 ちゃんと迷わないよう目的地までの道順を全部書いた地図を渡しましょう。「○○の能力で無双して成り上がります」くらいのレベルでいいんです。審査員に自作品の読み方を説明する機会なのにそれを放棄するのは、単純にコンテスト向けの攻略として考えたとき縛りプレイです。聖職者の獣を素手で殴り殺すのは一回クリアしてからでよくない?
 って言うかこれ、相手が審査員さんじゃなく一般読者でも同じですね。

 キャラ設定と世界設定だけ並べて、さあこれで分かるだろうとばかり、主人公が何を使ってどうなるかすら書かれてないのではNGです。
 テンプレ構成だと、タイトルと概要欄に設定を羅列した作品が多いですが、それは大抵の場合『設定=無双の内容=売りどころ』になってるからで、そうじゃないなら設定を羅列しても仕方ないんです。作品の美味しいところを抜き書きするべき。設定はそれを説明するために必要な部分で書けばOK。
 もしあなたがスイカの美味しさをウヌャニュペェィギュゥリュ星人に説明するとしたら、赤身の部分について語るでしょ。種とか皮の味を語りますか?

○安直なヒューマンドラマ売り

 てめぇらマンガ作品の実写化でジャンク・ヒューマンドラマにされたらブチ切れるのに自作品を最初からそのレベルに堕としてんじゃねええええ!!!!
 傷つきながら成長しすぎなんじゃワレエエエエ!!!!!

 だいたい傷ついて成長するなんて物語の基本パターンの1つなんだから、いちいち売りにしてない作品でも必要ならやりますってば!
 あんたら、光と闇が両方そなわり最強に見えるナイトについて説明するとき『剣を振り下ろして通常攻撃ができます』って紹介するんかい!? せんやろ!?
 次郎系ラーメンの説明するとき『小麦粉で作った麺がしょっぱいスープに浮かんでいます』って紹介するんかい!? せんやろ!?
 そのレベルやぞ!? 他に何も無いんか!? お前、剣だけ振ってくるザコ敵か!? 素ラーメンか!?

 まあ、ちょっと一般化して真面目に語ってみましょう。
 作品の売りどころとして『厳しい状況の中で傷つきながら成長していく主人公たち』を挙げてる作品が意外なほど多かったんです。しかもメインっぽい要素として。
 言ってみれば、作品の構成パーツの一つでしかないものをメインウエポンと勘違いしてしまう問題だと思います。別にそれ自体はいいんですが「これがあれば作品として戦える!」と思って作品全部に満足してしまうと、作品の進歩を止めてしまう。
 おそらく『シリアスっぽい展開で登場人物が傷つくシーン』は、その陥穽にハマりやすい。何故なら古今東西の名作で、登場人物が傷つく印象的なシーンは山ほど存在するからです。
 でもね、それは『とりあえず登場人物を傷つけとけば商品として通用する印象深さになる』ってことじゃないんですわ。うん、一旦そのナイフしまおうか。傷付きだけで話を保たせようなんて繊細チンピラみたいな事考えるのやめようか。キツいよ、それ。
 スパイスとして使うから強い要素なのよ。キミ、山盛り豆板醤(850円)をおかずに大ライス食べたい? いや、食える人は居るけどどう考えてもニッチだよね?

 これ、割と笑ってる場合じゃない根深い問題でして、なんとなく良さげな設定が浮かんだのでそれを軸に物語作ってみたら、傷つきながら成長する主人公しか売りが無かったっていうのも、悲しすぎるあるあるなんです。重い話が好きな人は雰囲気と手癖で書いてるとこうなりがち(実体験)
 対策としては、書き始める前にコンセプトをしっかり決めておくことなんでしょうか。結局は前項のアピールポイントの話がここにも関わってきそう。

○プロット(企画書)が改行してなくて読みにくい

 なに重箱の隅を突くようなことを、と思うかも知れませんがもう一回言います。
 わんこそばめいて無数の作品をチェックする必要がある審査員さんに手間暇掛けて自作品を分析させようとするのは奥ゆかしくない。ここがキョートならムラハチだ。

 あと不思議なもので、無改行の長文で書かれた設定を我慢して読んでもだいたい微妙。そこに法則性を見いだすとしたら『出すべき設定が作者の中で整理されてないと面白く見えない』ってことだと思います。結局、同じ話の繰り返しですね。

まとめ

 作品のアピールポイント(この作品が何故売れるかと思うか)は自分の中で整理しておきましょう。
 可能なら書き始める前に固めておきましょう。序盤ちょっと書いてみた後で見直して、アピールポイントを実現できているか確認したり、あるいは実際にできあがったものに合わせて軌道修正を図るのも良いと思われます。

 ……こうして書くとすごい当たり前のことっぽいですね。
 でも、マジでそれが文章化されてるプロットとそうじゃないプロットで作品の質がダンチでした。「ここまでクッキリ分かれるの??」ってくらい。
 これ本当に、適当にふわっと考えてるだけじゃダメで、しっかり考えればリターンがある基礎部分だと思います。
 思っていた以上に大事で、疎かにしたらダメなんだということを再認識させられました。
 皆様も是非やってみてください。



別にダメじゃないけど気になったものの話

○【番外】web小説として特化したネタの作品

 いわゆるテンプレ大喜利です。無双とかざまぁとか追放聖女とか悪役令嬢とか。半分以上これだった気がする。やっぱ強いフォーマットですよね。ネタ一本で書籍化狙えるし。
 私はもうテンプレの善し悪しは判断しないことにしてます。と言うかできないですよ、もう。ランキングや市場に放り出してその評価を受けるしかない。売れれば正義です。
 先に言っておくと別にテンプレ作品自体は悪くないです。むしろ良い。面白ければ受賞するしマンガになるでしょう。だけど『テンプレ作品をコンテストに応募すること』に関して、ついでにひとつ言わせて欲しい。

 テンプレ大喜利やるなら、コンテスト通るよりも投稿サイトでポイント取って、編集さんの目にとまって書籍化する方がずっと簡単だという話を一応しておきます。
 web投稿サイトでポイントを取ることに特化したフォーマット・テンプレなら、良い設定が出て、それを説明するタイトルを組んで、3000文字×10話くらいまでにテンプレ展開を消化しきれば、編集さんがチェキる水準のポイントは取れます。投稿サイトのポイントは大勢の読者の目で審査された結果である以上、そっちの方が不確定要素が少ないんです。
 なので、ポイントを稼ぎやすいいわゆるテンプレ大喜利作品にとってコンテスト応募はあくまでも『ガチャの回転数を増やす』ためのもので、落ちたら終わりの唯一解ではないことを覚えておくといいでしょう。オマケです、オマケ。それくらい軽い気持ちで挑んだ方が良いです。

 コンテストってのは、めったくそにキツい狭き門です。(新人賞もそうですが)大量の作品を少数の人間の目で審査することになります。
 これはしょうがありません。AIが人間の指を6本に描いたり、デスピサロにザラキを使ってるうちは人間の目で調べるしかありません。
 特に一次審査は大量の作品を手分けして読むことになりますし、一作品に掛けられる時間も少ないので、ぶっちゃけかなり運次第です。偶然審査を担当した人の感性に合わなかったら、100万部売れるであろう名作もゴミ箱にボッシュートです。これは審査員さんが怠惰なのではありません。構造的にどうしようもない部分です。
 既に書籍化している作家さんが、付き合いのある編集さんから「新作を書いたら直接見せてください。うちのコンテストに応募されても埋もれるので」と言われた話もあります。その程度のものなので落ちて絶望するのをやめましょう。

 余談ですが、それでも私は今回の『ヤングチャンピオン原作コンテスト』を、超! ありがたいと思ってます。
 web投稿サイトで普通に投稿してもポイントが取りにくいマンガ原作脚本を、マンガ原作脚本のまま評価してくれる形式だったからです。この点、たとえばカクヨムコンなんかは読者がどれだけポイントを付けたかで足切りが入るのでキツかったでしょう。
 ま、それでも運次第でしょうけど、それが多少マシなだけでもね。

○【番外】ルビがノベルアップ+の記法になってない

 これは、内容的にはかなり良いと思った作品でも散見されました。
 どういうことかというと、どんな表記をすれば自動でルビに変換されるか投稿サイトによって違うんです。

 漢字(よみがな) 
  ⇒なろうでもノベプラでもルビが付く
 漢字(読み仮名)
  ⇒カッコ内が漢字交じりなので、なろうだとルビにならないが、ノベプラだとルビになる

 なろうの記法で書いて、そのまんまコピペしてる人が多い多い。
 そのせいで、ルビじゃないはずのものまでルビになってる人が多いこと多いこと。みんな本籍地なろうなのネ。と言うか投稿した後、みんな見直ししないの? 不安にならない? 私は10回くらい見直したよ?(それはそれでアカンやつ)

余談 私の投稿作品

 そうやって偉そうなこと言ってる奴の作品はどないやねん。
 ……と興味のある方はどうぞ。
 折角書いたものですが、このコンテストで落ちたら(※前述の理由から十中八九そうなる)他で出せる機会は一生無いかも知れないので、まあ暇なら見てってくださると嬉しいです。

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