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架空想日記 7日目

 夜風を浴びる。夏の深夜、誰にも見られずに街を歩く。見知った道を歩く。目的も無く。ただ足を進める。
その先に何があるのかは知らない。どうでも良いことだから。

 上を向く。満天の星とまではいかないが星々がきらついている。遠すぎて宝石には見えないな。そんな感想が出る。街灯の方が輝き白く、眩しい。人工の光の方が強くて、自然の星々は遙か彼方。
私のことなど誰も見る気が無いようで、偽物だけが私を見つめる。その光景がなんだか笑えた。

 下を見る。コンクリートの道がまっすぐ伸びている。終着点には家。そこに辿り使うまでも左右の道は家々。足下にはコンクリートと小石と時折、虫の死骸が転がっている。人気は無く、遠くで車が走る音はするが見えはしない。どこまで行っても薄暗い道。終わりの無い迷宮のような道。

 少しの下り坂が深淵の穴に見える。落ちていくような感覚。どこまでも落ちていくような。二度と戻れないようなそんな感覚。後ろにある街灯が、私をあざけ笑ったような気がした。

 上り坂はどこまでも伸び、終わらせる気が無いようにも思えた。ゴールは無く、上ったからといって達成感は無い。足の裏と膝に疲労感を与え続け、報酬などといった答えは無い。

 周囲の家の電気はついているのがちらほらと。それぞれの家や家庭が幸せそうに見えて、嫉妬と自身への嫌悪感で、皮肉たっぷりの笑みがこぼれる。こんな自分が嫌にはなるが、だからといって私が簡単に変われるわけも無い。

 気がつけば、高台にある学校にたどり着いていた。山際にあるせいで周囲より高い位置にある学校。無人の校舎に漆黒の窓がはまり、裏山の木々がざわつく。良い思い出など数えるほどしか無い思い出の地。
 笑われたこと、笑ったこと。泣かれたこと、泣いたこと。怒られたこと、怒ったこと。今はどれも嫌いでうざったいほどに鮮明に覚えていることばかり。どれもコレもホントに嫌いな思い出ばかり。
 あの時にああしていれば、こうしていればとそんな気持ちだけがあふれ出し、そんなことを考えても無駄なんだと言うように、風が吹き付ける。

 校舎に背を向ける。そして眼下に広がるのは、星々よりも近く、道を示す街灯が連なり、包み込まれるような輝きを放つ町並み。ここに来たのはこれを見るためだといっても過言で無い、光り輝く景色がそこにはあった。

 悪態が口から出るほどに、目の前の景色はどこまでも美しく自分の弱さも過去も今はどうでもいい物としてくれた。

 今の私という人間の小ささを実感させた。

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