架空想日記 3日目
目の前でパキパキと火の粉が上がる。焚き火の煙が星空に登る。その火を明かりにし、これを書く。今日は月明かりもあるので充分に紙が見える。
今日の昼間はひどい雨だった。今では全くそんな気配はないが視界が悪くなるほどの雨だった。それだけの雨だったからこそ、ドラゴン討伐もうまくいったというもの。
雨の日を狙った。アレは鼻が利くから。
雨の日を狙った。アレは空を飛ぶから。
雨の日を狙った。アレは業火を吐くから。
入念な準備と味方をしてくれた天候。それらに感謝をして今息をしている。明日には街に戻り、討伐の報告をできるだろう。そう考えると体が急に重くなる感じがした。全身が鉛のように重い。指先を、腕を動かして入るが、今手を止めてしまえば、二度と筆を持つことはなく明日を迎えてしまいそうだ。
これを書いているのは、これが現実であると自分に言い聞かせるためでもある。そして、殺してしまったお前を悼むと同時に生きていることへの感謝を抱く。全身に疲労感が、筆を握る手には剣を握り続け、できたタコが、胸には爪で切り裂かれた傷を癒やすための布が、口に残るドラゴンの肉の食感が全て夢ではないと考えたい。本当に恐ろしい相手だった。
討伐の依頼があったのは1ヶ月も前だった。人里に近い山にドラゴンが住み着いたと噂になっていた。事実だと知られたのは調査に行ったパーティが壊滅し6人いたのがたった一人で帰還してからだった。まぁ彼ら自体あまり良い噂を聞かないパーティだったわけだが。
ドラゴンも悪戯に手を出され、反撃し喰い殺したのだろう。それで人間の味を知ってしまったのだ。それ以降、山に近づいた人間はことごとくが喰われた。討伐隊は何度も結成されては壊滅し、俺みたいなはみ出し者にまで依頼が来た。
俺はパーティを組んでいない。 過去に組んでいたこともあったが性格と合わずこうして一人で戦っている。過去のことはまた今度だ。
ドラゴンは全身に傷があった。これまでの戦闘で受けた傷だろう。トドメはうまくその傷の部位が柔らかくなっていて致命傷を与えれていた。だから完全な状態のドラゴンと戦えば十中八九死んでいたと思う。
俺が魔法使いでも死んでいただろう。あの鱗をぶち抜くには力と剣が必須だったと思う。そう考えればかなり恵まれていた。
名も知らぬ戦士たちのお陰で俺は今生きて焚き火を眺めることができているのだ。しばらくは体を休めることにはなるが、生き残った命をもう少し有意義に使おうと思う。
さて、焚き火の火も消えだした。文字も見づらくなってきたから今日は寝よう。明日は報告と死骸への案内などの後処理だ。
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