アイスランド旅行記㉕オーロラ、夢を叶えた夜。
前回までのあらすじ
ワークキャンプも後半に差し掛かった、よく晴れた昼下がり。氷河期の氷河が刻まれた、東部フィヨルドと呼ばれる海岸沿いを歩いた。とてつもない風の強さに驚きながら、終わりのないように見える道路を往復6km歩き、絵葉書のような美しい景色を堪能した。
今回は、私たちのオーロラ奮闘記を振り返りたい。noteの新機能「ベータ版」なるものが使えるようになったので、この記事から少し試してみよう。
オーロラへの憧れ
このプロジェクトに参加した理由の一つに、「10代のうちにオーロラを見たい」という目的があった。
私の中で、オーロラ=“それを見たら価値観が変わるもの”という漠然としたイメージがあった。大学に入ったばかりの19歳。「10代が終わってしまう前に何かを成し遂げたい」という気持ちで、数あるプログラムの中でオーロラを見られる可能性のあるアイスランドを選んだ。
ボランティア団体から事前に送られてきた資料には、英語で「アイスランドの冬は、オーロラハンティングを意味します」と書かれており、「カメラと三脚を持っている人は、必ず持ってきて下さい。」とも書かれていた。当時私は、カメラにあまり興味が無く、知識も無かったので、本格的なカメラも三脚も持っていなかったが、別に無くてもいいだろうと思ってデジカメだけ持って参加した。実際には、オーロラを普通のデジカメで撮るなんて不可能だったのだが。オーロラに関しても大した知識を持たず、ただ漠然とした憧れだけを持ってアイスランドまで来てしまった。
オーロラハンティングの日々
ワーク初日から、オーロラハンティングの戦いは始まった。
昼間にボランティア活動(という名の掃除や修繕作業)を行い、料理担当のメンバーが作った夕食をみんなで食べたら、オーロラハンティングの時間だ。
各自部屋に戻って防寒具を着込み、再びリビングに集まる。
オーロラを見るためには、「晴れていること」が第一条件。ワークキャンプ前半は曇り空だったので、あまり期待は出来なかった。
リーダーはオーロラが見えやすいスポットを熟知しており、天気予報など様々なアプリを使ってタイミングを見計らっていた。彼の合図で家を出て、後ろをついて歩く。地面は凍っている所もあり、気をつけながら進む。
家からも夜空は見えるが、街灯が無い場所まで10分ほど移動する。
しばらく歩くと、街灯も家の明かりも届かない場所に着いた。
草をかき分けた先に開けた原っぱのような空間があり、見上げると夜空だけがぽっかり浮かんでいるようだった。今でも目を閉じると、しっかり思い出すことが出来る。
寒い寒いと言いながら、その場で時が来るのを待つ。10分、20分、30分…と待っても、空には何も変化がない。「今日はダメだな。」となれば、諦めて家に戻った。
アイスランドの中でも、オーロラがよく見えるスポットというのは、ちゃんと他にあるのだろう。でも、ボランティア活動で少ないお金を持って他国からやってきた私たちには、可能性が低いと分かっていても、滞在先の村で少しでも見える場所に毎晩出向くくらいしか出来ない。
それでも、星空が綺麗で、オーロラが見えなくても夜の散歩は楽しかった。
そんなことを毎晩繰り返し、いよいよキャンプも終盤。
前回の記事、東部フィヨルドを歩いた2017年2月25日の夜も、オーロラハンティングに出かけた。
この日は、アイスランドに来て初めて快晴だった日。オーロラへの期待も高かった。
空振りすること4日。そろそろ本物のオーロラが見たい。リーダーの「今日は見えるかも」という言葉に胸を躍らせながら、いつもの場所へ歩いて行く。
みんなで夜空を見上げていると、うっすらと緑の光が見えた。初めて見るオーロラのような光に、わぁっと声が上がるが、「あれがオーロラ?」という感じだった。
その時、立派なカメラと三脚を構えていたリーダーが「見てごらん!」とみんなを集めた。カメラの液晶画面を見ると、なんとオーロラが写っていた。
これには、みんなで大喜び。ただ、肉眼ではこんなに見えていなかった。不思議なもので、カメラを通した方がオーロラがはっきり映るらしい。
これまで空振りの連続だった私たちからすれば、カメラで捉えられただけでも嬉しかったが、やっぱり肉眼で見たいなぁ、と思いながらこの日のオーロラハンティングは終わった。
その後も毎晩出かけ、ある日は空の端から端までカーテンみたいに何本もかかった光を見たが、色が緑ではなく白かった。私たちが思い描くような、ザ・オーロラとは少し違っており、あと一歩…という惜しい所で諦めて帰る日々が続いた。
ついに、その時がきた。
現地時間 2017年3月1日
ワークキャンプ10日目。
明日は、ここを出発して首都レイキャビクへ帰ることになっている。
泣いても笑っても、この日が最後のチャンス。
もう見られないかもしれないなぁ、という気持ちと、もしかしたら奇跡が起きるかも、という気持ちが半々。夜になり、私たちはいつもの場所へ向かった。
そこで、私たちは信じられないような光景を目にすることが出来た。
オーロラは、空全体が緑色になり、時間が経つと見えなくなるようなものだと思っていたが、実際は全然違ったのだ。
ゆらゆら揺れて、生まれては消えてを繰り返す。
まるでテレビの早送り映像のように、目の前で光が動いていく。生まれた光が、揺れながら消えていき、また新しい光が生まれる。
自分が今まで見てきた世界では考えられないような光景が、夜空いっぱいに広がっていた。
オーロラ=“それを見たら価値観が変わるもの”というイメージは実際どうだったかというと、言語化は出来ないが、自分の中で新しい感情が生まれたと思った。地球上には、自分が見たことのない素晴らしい景色が山ほどあるということ。そして、そんな素晴らしい景色を持つ地球に暮らしているといこと。日々の暮らしに追われて、見ることが出来なくても、それは誇りを持って良いということ。
10代のうちにオーロラを見たいという夢が叶った瞬間に、私は仲間たちと一緒に笑っていた。
アイスランドまで来て良かった。
出発前からナーバスになり、申し込まなければ良かったと後悔したり、成田空港で母親と別れた瞬間涙が出たり、クレジットカードが使えなくなって絶望したり、色々なことがあった。
私はこんな大それた冒険をする器の人間じゃないのに、なんで来てしまったんだろう、とも思った。
だけど、アイスランドまで来たから夢を叶えられた。
次回は、私の夢を叶えてくれたアイスランドでのワークキャンプの日常生活について、愛を込めて振り返りたいと思います。