ノベライズ「イキなりご主人様宣言一話」 その1
タバコの匂いが充満する狭い室内で、私はなぜかメイド服を着て、頬に傷のあるおじさんと、黒いサングラスをかけたおじさんに挟まれていました。
このメイド服は何のため?
コスプレ?
コスチューム?
別に好きで着ているわけではありません。
無理矢理着せられてしまったのです。
ここはメイド喫茶。私は今日からメイドになりました。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
今から約数時間前のこと。
仕事が終わって家に帰ろうとしていた私の前に、怖い顔のおじさんたちが立ちはだかりました。
「君、寺田春香さんでしょ。岳絵美って知ってるよね」
声も見た目も凄い迫力で、私はてっきりヤ○ザさんだと思っちゃいました。
街路を歩く人たちが、気の毒そうに私を見ています。
「絵美さんなら元同僚ですけど……」
自分でもみっともないと思う位、声が震えていました。
見た目で判断しちゃいけないってわかってるけど……どうしても、我慢できなかったんです。
「あの女、借金踏み倒して逃げちゃった。君、保証人になってたでしょ。代わりに返してよ。体で」
「体でっ!?」
そして黒い車で拉致されて、今に至っているわけなのです。
車の中で、私はインフルエンザで会社をお休みしたときに見た、お昼のドラマを思い出していました。
借金のカタに怪しいお店に売られてしまうヒロイン。
風俗の仕事を散々させられた上に、最後は肝臓を売れと迫られてました。
私もあのヒロインのように、ひどい目に合わされるのかな……。
くすん。
そう思ってたのに。
「や~。春香ちゃん、可愛い〜」
「素敵すぎるよ〜!」
おじさんたちは、メイド服姿の私を見ると、いきなり優しくなりました。
でれっとした顔というか、鼻の下が伸びているというか……。
声をかけてきた時とは別人みたい。
私のメイド服、そんなにイケてる?
「あ、ありがとうございます」
私は引きつりながら笑顔を向けました。
すると……。
「笑顔が最高!」
おじさんたちは、ますます私を褒めてくれます。
(よかった。とりあえず風俗には売られないみたい……)
接客業はしたことないけど、メイド喫茶ぐらいなら何とか務まるかもしれません。
ところがおじさんたちは首を左右に振ってこう言いました。
「何いってんの。春香ちゃんなら店のナンバーワンになれる。俺の目に間違い無し!」
「確実に見た目だけならナンバーワンだよ!」
「ナンバーワン!」
その言葉を聞いたとき、私の頭の中にミラーボールがくるくると回り始めました。
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