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クーデターは近くで。

先日、カチン族の友人に誘われて日曜ミサに参加した。その時の備忘録。

ミャンマー。日本にいた頃、この国の名を聞いて連想される単語は幾つあったかな、と最近思う。
北タイ最大都市であるこの街には、隣国ミャンマーからの移住者が多い。屋台で何気なくチキンを買った店員さん。あの人ミャンマー人だよ、ミャンマー語を話していた、と言われて初めて気付く。社会開発について学ぶクラスメイトは8割以上がミャンマー人。中国ガールとウチら少数派だねって笑ってる。いえーい。
社会科学部に併設された、英語で授業を行うインターナショナル課程。3年生以上は1学年につき10人ほどの枠が設けられているという超少数精鋭なのに対し、2年生は30人ほどが在籍している。年齢も宗教も民族自認もバラバラな彼ら。
何故か?ミャンマー国内の情勢変化、の一言に尽きる。度重なる紛争とクーデター。大学機能の停止により学位取得の見込みがなくなった彼らは、“2回目の大学”で学部卒の学位を取りに来ている。学費が安く、内容も実生活に結びついていて、地理的に近く、彼らのために試験枠が増やされているから。
学内では定期的に、内戦状態にあるミャンマーに関するイベントが行われ、クラスメイトが運営に携わっている。

彼女とは、軍事クーデターから3年の区切りで行われた、そんな学内イベントの後の歓談で出会った。家族で数ヶ月前にチェンマイに来た4つ下の女の子。お兄さんの友人から英語を習っている彼女は、先生に英語を確認しながら話しかけてくれた。学校にも特に通っていない、と言った彼女はえらく“You are beautiful!” と持ち上げてくれる。にっこにこ笑顔が可愛くて、外国人珍しいよね〜英語で話すのおもしろいよね〜と妹を見ている気分になってきて、誘われるままに遊びに出かけるようになった。

学内イベントで食べたミャンマー料理(フリーフードだった)

ある日、ショッピングの帰りに立ち寄った彼女の家に招かれ、親御さんのいない部屋でお喋りをする。日曜日って暇?ミサに来てよ!そう誘われ、なんか面白そうだなあ、と快諾した。まあ、結局虫歯ができて翌週に延期になったのだけど。

朝、彼女の家に招かれた。友人以外は英語が話せないご家族の前で、(私、危険じゃないよ〜信じて〜)と祈る。カチコチになりながら握手をし、お母さんが勧めてくれたライム入りミャンマーコーヒーを飲み、お父さんが勧めてくれたパンを食べ、お姉さんの赤ちゃんに挨拶をする。

そうこうしていると乗り合いソンテウが来た。
ミャンマー北部、カチン州に主に住むカチン族は、ミャンマー国内でも珍しいキリスト教を信仰する民族。チェンマイでも信仰を続けるためにコミュニティが発生しているようで、カチン族のための郊外の教会へ向かうらしい。途中、何度か止まって人を乗せ、進んでいく。技能実習生を目指していた(修士課程に合格したのでやめた)という、日本語が少し話せるお姉さんと相席し、お喋り。

教会は平和そのものだった。柔らかな日差しと遊ぶ子供、讃美歌の練習。
ミサは主にカチン語で行われる。何話してるかわからんなあ、と首を傾げながら、楽譜を見てとりあえず歌い唱える。ドラムとギターとベースがいるノリノリの讃美歌軍団、”天使にラブソングを“みたいでたのしい。
初めて来た人は自己紹介するらしい。カチン語をあらかじめ教えてもらい、何度か練習していたけど、結局うまく話せなかった。あいむふろむじゃぱん!

教会にて

ミサのあとはミャンマー料理。「もっと食べな、食べな!」と言わんばかりに、お母さんが運んできてくれる。よくわからないなりにお礼を伝える。
日本語を勉強していたという人が何人か話しかけてくれた。コンニチハ!またいつでも来て、貴方ならカチンの彼氏作れるわよ〜、って。

スープ美味しすぎて3回おかわりした

急いで!と言われ、慌てて昼食を終える。どうやら乗り合いソンテウが来たらしい。同じ道を、今度は人をおろし、米屋に寄りながら帰る。
友人の家に着き、また勧められるがままなにか甘い飲み物をいただいた。

”見て!これ、お兄ちゃん!“
友人がスマホを差し出した。画面の向こうの青年は、私より1つ歳上らしい。勧められるまま、困惑しながら英語が流暢な彼とお喋りを始める。こんにちは、お兄さん?いまはミャンマー、なるほど。私は留学生なんだ。貴方は今は働いてるの?
そう聞いたとき、少し言葉を詰まらせながら彼は、元々は大学生だったけれど、政府への抵抗軍で闘っていて、今はベースキャンプにいる。明日には前線に戻る、ここも空砲の音で眠れないよ、と言った。

喉がひゅう、と鳴った。あまり上手く言葉が綴れなかった。

妹や家族は英語を話せないでしょう。話していて本当に楽しい?友達なの?そう聞く彼から見た私は、妹を騙す怪しい外国人になっていないかな、と、そう思った。
専攻を聞かれたので、社会学と人類学だ、と答えた。文化差は私には目新しくて、だからミサに連れて行ってもらえて嬉しい、と話すと、家族が英語を話せたらもっと聞けたのにね、と言っていた。
私の行動が、調査や研究の一環として彼らに捉えられているのかも、と思ったのは、考え過ぎかもしれない。けれど、純粋な友情というより好奇心、野次馬根性が働いているのではないかと、常に罪悪感を抱いていたのも事実だった。

怖くないの?と聞くと、慣れちゃった、と返した。久しぶりの家族団欒の時間を奪ってはいないかな。ごめんね。

友人がアパートまで送ってくれた。途中、彼女が無料教室として通っているという寺院に寄り、猫を愛で写真を撮った。
彼女の見せたい!連れて行きたい!に甘えて時間を過ごしていた。ねえ、楽しい?と何回か聞かれた。
聞きたいことを聞けるほど私はビルマ語やカチン語が流暢ではなく、話したいことを話せるほど彼女は英語が流暢ではない。言葉の壁は、友達になるにはやっぱり大きいんだろうか。そんなことを、ぐるぐる思った。大学の友人と友人になるようには、やっぱりなれないのかな。
なんだか急に申し訳なくなって、お気に入りのアイス屋さんでチョコパフェを奢った。今日はありがとう!って言って。

クーデター。先日始まった徴兵制。民族弾圧。難民。遠く遠くの世界だったこれらは、友人たちの故郷と未来の話、手触りのある話になった。
だからといって何かが変わるわけじゃない。活動家になりたいとかじゃない。留学中のおもしろ物語として消費したくない。抗議したいわけでもない。私は君を無神経に傷付けていないだろうか。
物事にはいろいろな側面があって、政治に明るくない今の私が友人たちの側にだけ立って持論を作り上げるのは危ないと思う。
けれど、世界には知って欲しいと願う人がいて、故郷を追われた人がいて、それは遠い世界ではなく、みんな結構優しくて聡明でおもしろい奴らなんだって。ビール飲みながら恋バナで爆笑してる奴らなんだって。
ただ、それだけ。


見出し画像:クーデターから3年の学内イベントでもらった本と黙祷用の薔薇。直接的な表現が目立つ映像作品の上映や、今思えば友人も参加していた「対談かと思って見ていると軍人制圧や民衆抗議が起きるフラッシュモブ的な寸劇」など、鮮烈なイベントだった。

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