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落とし物

仕事の休憩時間、見知らぬ電話番号から着信があった。

電話に出ると自宅の最寄り駅の駅長さんだった。

「パスモをお預かりしています」

どうやら出勤時、改札付近でパスモを落としたらしい。

心優しい人が、届けてくれたんだ。

圧倒的感謝。

上京してパスモを落としたのはこれで2回目。

忘れ物をよくするタイプではないが、こういうことはまれにある。

初めてパスモを落とした場所は新宿だった。

定期券として使用していたので、無くしたことに絶望した。

自分が移動してきた動線を必死で探したが見つからない。

駅に問い合わせたところで、きっと届けられていないだろうな。

半分諦めていたが半分の望みにかけ、駅に問い合わせてみた。

「おとし物、預かっていますよ」

天使の声に聞こえた。

初めてパスモを落とした時も心優しい人が届けてくれていたのだ。

その時、窓口に届けてくれた人に心底感謝した。


時はたち、横断歩道を歩いていると白線の上にある落とし物に目がついた。

小物入れのようなものだ。

その落とし物らしきものを一瞥し、横断歩道を渡り切った。

なんだかもやもやする。

このまま去ったら後悔しそうな気がした。

ついさっき一瞥して通り過ぎた落とし物を拾いたくなり、走って戻った。

無事、落とし物を拾い上げ安心感に満たされた。

これでもう大丈夫。

勝手に誰かを救ったような気がした。

大したものは入っていなさそうだったが、一応小物入れの中身を確認。

Suicaが入っている。

近くに交番があったのですぐに届けることができた。

持ち主の手もとに届くといいな。

そう思いながらその日は帰宅したと思う。


誰かに私のパスモが拾われ、誰かのSuicaを私が拾う。

そして今回も、誰かに私のパスモが拾われた。

次は、誰かの何かを私が拾う番だ。


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