よだれが垂れてしまうんです
唾液が多いのか、口の筋肉が弱いのか、
私は寝ていると、よだれが垂れている。
枕にタオルは欠かせない。
電車の中で寝てしまった時は、特に気を付けなければならない。
よだれを垂らす確率が高いからだ。
マスクをしていた時は、マスクがよだれを受け止めてくれていた。
あごとマスクの間によだれが溜まって、あごが冷たくなって目が覚める。
駅に着くまで、あごによだれを溜めたまま、じっと耐える。
マスクによだれが滲み出ていないだろうか。
他人の視線が気になる。
はやく駅についてほしいと願うしかない。
不快感と戦い、目を閉じて待つ。
そしてようやく駅につく。
すぐにマスクを外して、あごとマスクをふき取る。
予備のマスクは持っていない。
よだれで濡れたマスクをつけたまま、
好きなアーティストのライブへ向かう。
今はマスクをしていない。
電車の中で寝てしまうと、胸元によだれが垂れてしまう。
最悪なことに、垂れてしまったあとに目が覚める。
そそくさとティッシュを取り出し、胸元をふきとる。
前に立っている人は、この一連の流れを見ていたのだろうか。
電車を降りるまで、絶対に顔を上げないでいる。
はやく駅についてほしいと願うしかない。
胸元には、よだれのシミがくっきりと浮かんでいる。
そうこうしているうちに、駅に着いた。
電車を降りようと席を立った瞬間、声を掛けられる。
例えば、
「先ほど、よだれを垂らしていた方ですよね?
ハンカチ落としましたよ。」
と綺麗な女性に言われる。
私は赤面し、お礼を言って、そそくさと電車を降りていく。
例えば、
「先ほど、よだれを垂らしていた方ですよね?
もしよろしければ、結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」
と『竹野内豊』似の男性に言われる。
私は、頭の中が混乱するのを通り越して、
「こんな私でよければ・・・」
と言って、交際を承諾する。
例えば、
「先ほど、よだれを垂らしていた方ですよね?
流涎でお困りの方に対して、月2回ほど集会を開いています。
是非お越しいただければと思います。」
と、ふくよかな女性に言われ、
『新宿流涎連盟 ~流涎はわるいことじゃない~ 』
と書かれたパンフレットを渡される。
私は、パンフレットをもらい、電車を降りていく。
例えば、
「先ほど、よだれを垂らしていた方ですよね?
もしよろしければ、胸元についたその唾液を採取させて
いただけませんか?
『唾液と接吻の関係性について』の卒業研究に
使わせていただきたくて・・・
差し支えなければ、接吻の経験についてもお伺いしたいのですが・・・」
と学生が言う。
「ここで話すのも気が引けるので、近くの喫茶店でお話しましょうか?」
と、私はとても協力的な姿勢を示し、学生と電車を降りていく。
こういった現象は避けたい。
私はよだれを垂らさぬよう、日々細心の注意を払っている。