吐くのが怖いんです~そのさん~
私がこの世で恐れるもの、第三位は『嘔吐』である。
吐く行為が怖くて怖くて仕方がない。
自分の吐物さえ片づけたことがない。
だが、他人の吐物を片づけた経験はある。
仕事柄、やるしかなかった。
仕事じゃなかったら、ただの傍観者だっただろう。
どんな状況であろうと、
人の吐物を積極的に片付けられる人間になりたい。
『野ブタ』のように。
昔、日本テレビで放送されていた連続ドラマ、
『野ブタ。をプロデュース』の主人公だ。
きっかけは、野ブタ(小谷信子)がクラスメイトの
シッタカとデートをするシーンだった。
2人がデートをしていると、
近くにいた老人が倒れた。
老人は嘔吐してしまう。
野ブタは老人に駆け寄った。
吐物で汚染した老人の口を、
野ブタは素手でぬぐってあげる。
野ブタは自分のカバンを取るよう、
シッタカにお願いをする。
シッタカが野ブタのカバンを渡そうとした時、
野ブタの手が彼の手に触れてしまう。
「汚ねぇ!」と思わず口にするシッタカ。
このようなシーンがある。
私はこのシーンが忘れられない。
『野ブタ』の心優しい対応が大好きだ。
だが、『野ブタ』のように素手で人の吐物に
触ることができない。
どちらかというと、私は『シッタカ』寄りの人間だ。
『野ブタ』のようにピュアな心で
人の吐物と向き合いたい。
こんな私も唯一、愛をもって吐物の片づけを
行ったことがある。
昔飼っていた愛犬の吐物だ。
愛犬の名前はゴン。
吐く体勢に入ると、
「ぎゅるん、ぎゅるん」
と体から音がする。
吐く前に必ず発する、消化器官の動く音だ。
それを聞くたびに、心苦しくなり泣きそうになる。
吐いた後は、
「苦しかったね、きつかったね」
とやさしく寄り添い、抱きしめてあげる。
そして、一刻も早く吐物を片づける。
はやく片づけないと、
ぺろぺろと吐物を舐めてしまうからである。
吐いた物を、また口に入れさせるわけにはいけない。
愛をもって、吐物をせっせと片づけるのだ。
おじいちゃん、おばあちゃんのおしものお世話は
喜んでできるのに、吐物だけはどうしてもだめだ。
嫌な顔一つせず、人の吐物も
片付けられる人間になりたい。
『野ブタ』のように。