
経営管理とCO2
少し前から、会社で自分の業務評価にSDGS評価というものが導入された。SDGSの17目標のどれかに照らして、自分の業務を評価する、というものだ。経営管理部門にいる自分としては、いまいち自分の業務に当てはまるものが見当たらず、いつも「働きがいも経済成長も」にかこつけて、「適正な開示情報の提供による会社成長貢献」と書いてきた。
私のような経営管理端の人間の仕事は、財務データから指標を作り、経営の指針を出すことである。こういった数字は嘘をつかない点で人を動かす強い力を持つ。一方、誤った情報を混ぜてしまうと信頼を失ってその力が損なわれたり、「誤った経営判断を招く」恐れが出てくる。これは我々経営管理部門が最も忌避する事態である。
それが故、数字を正しく捉えるというのは予算計画立案にしろ実績報告にしろ、こういった仕事の金科玉条となっている。
数ある指標の中で、特に強い力をもつのが「利益」である。利益とは平たく言えば売上と費用の差である。いかにこの2つのファクターに誤った情報を混ぜないかが業務の土台となっている。これは会社設立以来半世紀にわたり、揺るがないコンセンサスであった。
そして今、それを破って利益に混ぜ物を加えようとしている。ICP(Internal Carbon Pricing)の導入である。会社運営によって生じるCo2排出を費用と捉えて、低減のためのCN(Carbon Newtral)活動を促進させることを活動の目的としている。
このCo2排出を費用と捉える、というのが難解だ。例えば電気を使ったとする。それは毎月電力会社への支払いという形で経費処理され、電力費という費用が計上される。一方、その電力を作るために排出されたCo2が、我々の会社のCo2費用として追加で計上される形になる。その際、1t当たり丸々円という単価が積算される。無論、実際には会社はこの費用を支払っていない。さらに言うなら、電力費と二重計上的ではないか?という気もする。
そして会社は、このCo2費用を下げるために、追加の費用を支払ってCN活動をしたり、省エネをはじめとするCN投資をして低減に努めなければならない。しかし、これらは会社の経費や投資の増加に他ならず、さらにその効果はCo2費用という架空の費用の低減にしか繋がらない。
今までの世界観で捉えれば、緩やかな経営体質の悪化を招いているようにしか見えない。
なぜこのような難解な概念を経営に持ち込まなければならないのか。理由は様々ある。単純にCNへの貢献という側面もあるし、もうすぐ会計監査の開示事項の1つになるという話もあるし、外部投資家が株式購入の基準の1つとするという話もある。何となく、環境問題にかこつけて一儲け考える人間の口車に乗せられているのではないかと勘繰ってしまうこともある。
個人的に、短期利益の最大化に余念のない大多数の投資家が、利益と相反するように見えるこの概念をどう評価するか甚だ疑問が残る。このICPの概念を読み誤れば、本当の利益を見誤り、「誤った経営判断」につながりかねない。
様々な疑問を持ちながらも、私はICPの導入を進めている。誤った指標は誤った経営判断を招くが、環境保全との両立を前提とした指標、経営判断の方が今よりも正しいかもしれない。それはやってみなければわからない。ただしやってみることがとても難しい。
経営管理の仕事はクーラーの効いた部屋で椅子に座って行われる。私が頭を抱えてICPについて唸ったところで、環境が改善されるわけではない。その時間を植樹にでも当てた方が環境にやさしい人間になれるかもしれない。
しかし、この活動がいつか、私の会社の方針に少なからず影響を与え、環境に少し貢献したとしたら、その時はSDGS評価を少し上げたいと思う。