付加価値の回転
先日ある経営者のコラムに、会社の業績を上げるには、究極的には
①付加価値の高い製品を売る
②安く作れる仕組みを作る
の2つしか方法はなく、多くの経営者は②に集中する。なぜならそちらの方が簡単だから、という話があった。
なるほどと思った。私はメーカで原価管理をやっているが、思い当たる節が多い。
話の前段階として私のいる業界の特徴をまとめる。まず、エンドユーザーに商品を提供するメーカが存在し、そこからピラミッド型に部品サプライチェーンが形成されている。主に1次サプライヤーまでが部品の設計・開発機能を備え、2次サプライヤー以降は価格競争力や専門技術を活かして、上位サプライヤーの生産工程の一部を請け負う形で共存している。私が所属しているのはこのうち、1次サプライヤーにあたる企業である。つまり、自分で商品を設計・開発し、生産を行って得意先へ納める業態の企業である。
こういった会社の理想的な状態は恐らく、常に新たな商品を生み出し、それを売り手有利な市場で販売してキャッシュを稼ぎ、次の開発に回すサイクルをなるべく早く回すことである。なぜなら、やがてその市場には開発能力が低いが価格競争力のある中小企業が参入してきて、価格競争が始まってしまうからだ。そういった市場では、多少製品機能がよくても、価格で負けてしまえばそれまでとなる。先に述べた「付加価値の高い」という言葉には色々な意味があるが、端的に言ってしまえば「実際の生産・販売コストよりも割高に売れる」ことを指す。どうやったら割高に売れるかと言えば、こちらの設定した売価に対して低減交渉されないように、競争相手がおらず、かつ買い手が値段の評価を正当にできない状態を作り続けるのである。
しかし、そうそう魅力的な新商品が生み出されることはない。大抵が、前のモデルの微改良モデルのようなものだ。そうなってくると、我々は既存の市場に留まり、不利な価格競争を戦うことになる。これが現実的な企業の状態だ。
開発を除いたメーカの活動サイクルは(a)買い、(b)つくり、(c)売りに分解できる。(a)買いは外部から原材料、部品を購入すること、(b)つくりはそれらを自社内で加工し、完成品状態にすること、(c)売りはそれを得意先へ納めることだ。
新商品による新市場の開拓が望めない以上、この(a)~(c)を改善することで企業が得られる利益を増やすことに集中するしかない。そしてそれに熱中するあまり、次世代商品の開発がないがしろになるケースが多い。特徴的な例は、投資と開発費の抑止だ。大規模投資や開発費は既存市場の価格競争で負担となり、なるべく減らすことが尊ばれるようになる。もちろん目先の利益は増大するが、将来的に新市場を開拓する力がそれだけ削がれることになる。これは、最初にある経営者が述べた、①付加価値の高い製品を売る ことを半ば放棄し、②安く作れる仕組みを作る ことに集中し始めたことを意味する。
この活動は、最初とてもやりがいがあるように映る。最初は不格好だった開発品がどんどん最適化され、洗練されていく様を見ることができるからだ。しかしこういった競争市場における価格競争を、我々のような企業が永続的に続けられるかというと、非常に厳しいものがある。ある時を境に、大きな改善のネタはなくなり、いよいよ身銭を切らなければならない時が来るからだ。そこからは、最初の値段設定で稼いだマージンをジリジリと削りながら耐えるだけとなってしまう。こうなるといよいよ撤退戦の始まりである。
当然、そんなものからは即時撤退すればいいという判断がある。先ほどの投資や開発費の抑止についても、近い将来撤退したり、市場が縮小することが見込まれる製品についてはやってしかるべきである。いわゆる選択と集中というものだ。ただし選択と集中には、それを決めてやり遂げるだけの力があるかが別の問題として存在しているように思う。