東濃各論① 交通
美濃地方の東部を東濃と呼ぶ。
東濃は西から順に多治見市、土岐市、瑞浪市、恵那市、中津川市の5市で成り立つ。
中央本線
都民はJRの中央線がどこからどこまでを繋ぐかご存知だろうか。東端は東京駅で意見の一致をみるとして、西端は人によって、新宿、中野、三鷹、高尾と答えがバラバラになることだろう。しかし全て間違いである。中央線の西端は東京から遥か西方、JR東海の名古屋駅である。
中央線は東京から山梨、長野、岐阜を経て、愛知県の名古屋まで至る長距離路線なのである。都民からすれば、高尾まで行けば随分と田舎に来たと思うかもしれないが、それは序の口に過ぎない。実は中央線は山梨、長野、岐阜という更なる田舎、エクストリーム田舎へ通ずる道なのだ。なお途中、長野県の塩尻で管理会社はJR東日本からJR東海へ変わり、名称も中央線から中央本線に変わる。
東濃地方の各市は、この中央線が東西に貫いている。ただし、東濃地方の住民がこの事実に触れて、東京と自分たちの関係性に思いを馳せることはない。東濃地方の住民は常に西を向いている。すなわち、名古屋である。
鉄道から自動車に目を向けると、中央自動車道、国道19号線が名古屋から発して、こちらも東濃地方を横断している。東濃地方は、この3つの路線によって文字通り横串でつながっており、そしてそれが名古屋へ通ずるという事実が己のアイデンティティとなっている。すなわち、東濃地方においては、「電車で名古屋まで○○駅、高速で〇〇分」というのがステータスとなっており、名古屋へ近いほどヒエラルキーの上位に立てるというローマ植民地のような価値観が共有されている。
そして残念ながら、この価値観はある側面では正しい。一例を挙げると、半世紀近く前、東濃地方の住民にとって多治見に行くとは「都会におでかけする」と同義だった。
シミュレーション
名古屋駅から中央本線に乗ると仮定しよう。
名古屋駅発の中央本線は、名古屋 - (8駅) - 高蔵寺 - 定光寺 -古虎渓 - 多治見 -土岐市 -瑞浪 - (2駅) - 恵那 - (1駅) - 中津川 というルートを辿る。多治見からが岐阜県だ。
まず中央本線の停まるJR名古屋駅の7,8,10番ホームを目指す。電光掲示板を見て電車を確認すると、大体1時間に10本くらいは走っている。6分に1本は発射する計算だ。しかし、その中で多治見より先に行ってくれる電車は4本、終点の中津川まではさらに1本減って3本しかない。ここで、多治見と多治見以西の間に1つの壁があることに気づかされる。
ホームで最長20分待つと、中津川行の電車が現れるのでそれに乗る。
しばらくは名古屋近郊を走るので外の景色はそれなりである。それが高蔵寺を超え、定光寺、古虎渓という愛知県の外縁部に達すると、外の景色が一変する。山と沢と廃墟しか見えなくなるのだ。
しかし、このままいくとどんな僻地へ連れていかれるだろうと絶望して、ここで下車してはならない。ここから引き返そうにも、名古屋行きの電車は1時間に2本しか停まらない上、ここが少し特殊なだけで、次の多治見駅で一旦盛り返すからだ。
古虎渓から多治見に来ると、まだ常識的な範囲内の田舎なので安心することだろう。ただし、ここが東濃地方のピークである。多治見を越えると再びカントリーサイドへ邁進する。
この辺りから各駅の間には山と峠が横たわるようになり、トンネルの数が増える。トンネルを一つ一つ抜けるたびに、段々と外の景色が侘しくなっていく。民家が減り、緑が増え、「山へ入っていく」という感覚を味わう。
多治見駅から2駅で瑞浪駅に着く。名古屋を出てここまで1時間くらいだ。この辺りで、宅配ピザの宅配エリアを外れる。ピザが食べたかったら店まで自分で取りに行かなけらばならない。
瑞浪駅も越えるといよいよ人里を離れ、山の中を進むことになる。冬場なら、この辺りからうっすら積雪が見れるようになってくる。終点の中津川駅まで着くと、おめでとう、そこは飛騨、長野の入り口である。