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It’s the single lifeとは?37

〇〇:ここで合ってるよな…?


額に汗をにじませながら走った結果、予定よりも早く目的地に着く


〇〇:まだ着いてないっぽいけど…


「もう着きましたけど。」


!?


背後から向けられた綺麗でいて、どこか冷たさを感じる声


〇〇:お、お待たせしました。

賀喜さん。


賀喜:…こんな暑い中立ち話もなんですから、中に入りましょうか。


古びた感じすらも味を感じる喫茶店に、二人の心情とは真逆な高らかなベルの音を無らしながら入店する


店員:いらっしゃいませ。

お好きな席にどうぞ。


空いているからこそ出来る接客


先に入った賀喜は、特に確認することなく一番奥の席へと向かい歩く


〇〇:…


背中から伝わるこの空気…

間違いなくヤバい…


賀喜:私はコーヒーにします。

〇〇さんは。


〇〇:あ、じゃあ僕も同じもので。


ありきたりな注文を済ませ、二人の間には静かで冷たい空気が流れる


〇〇:あの…


賀喜:単刀直入に聞きますが。

これはどういうことですか?


机の真ん中に置かれたスマホ


その画面には、今やスマホユーザーの90%以上は見慣れているであろうLINEのトーク画面が映し出される


〇〇:…


賀喜:先程、〇〇さんをお呼びする際に、LINEに同じ画像を添付しましたよね?


〇〇:はい…確認済です…


賀喜:なら、私の言いたいことは分かりますよね?



〇〇:さくらさんのご友人をお祝いしようと…


賀喜:…


嘘だろ…

覇王色の覇気ですらせいぜい気絶する程度だぞ…

オーラだけで今にも殺されそうだ…


賀喜:はっきり言ってさくはバカです。


めっちゃはっきり言ったなほんとに。


賀喜:これで誤魔化せてると思ってしまうほどです。


〇〇:意外と本当かもしれま…


賀喜:ここからの嘘・誤魔化しは死に直結すると考えてください。

その前提を踏まえて、なにか言いますか?


〇〇:いいえ…


賀喜:はぁぁぁ…

私、言いましたよね?

一線を越えるなと。


〇〇:信じられないかもしれませんが、決して疚しいことはいたしておりません…


そんなことしたら、俺はいまここにいない。

そんな状況に俺のチキンハートが耐えられるわけがない。


賀喜:そうなる関係に発展してることが問題なんです。


〇〇:…仰る通りです…


賀喜:ご自身の状況をちゃんと理解してますか?

その上でだした結果がこれですか?


〇〇:…


言えない…

気付いたら俺の中のリトル〇〇が快く返事していたなんて絶対言えない…


賀喜:私がいま、どういう心境か分かりますか?


〇〇:…今すぐにでも目の前の男を抹殺したいと思っているのかと…


賀喜:少なくとも、〇〇さんが後ろめたさを感じる結果を招いたことは理解できました。


…やっちまった。


賀喜:おっしゃる通り、単純に〇〇さんの事だけを考えるのであればその通りです。


〇〇:…と言いますと?


賀喜:あなたのだした答えは…

皮肉にも、私の親友が望んだ形でもあります。



賀喜:ですので、さくの気持ちも考えれば、私が口出すことはさしてありません。


〇〇:そう…で…


賀喜:ただ。


まるで警告するように


まるで有無を言わせないように


賀喜:和ちゃんの気持ちはどうするおつもりですか?



〇〇:和の…気持ち…


賀喜:あなたが一番気付いてますよね?

あの子の思いは、単純な一過性のものじゃないって。


〇〇:それは…


賀喜:別にいいと思いますよ。

和ちゃんに胸を張って、さくとの関係を伝えられるのであれば。

ただ…


…言わないでくれ。それより先は…


賀喜:和ちゃんに真実を隠して、さくと良い関係だけ築こうとするのであれば、私はあなたに失望します。



〇〇:…情けないことは重々承知の上ですし、こんな考えはおこがましいのも理解しています。


賀喜:…


先ほどとは打って変わって、まるで耳を傾けるように口を閉ざす彼女に、彼はゆっくりと言葉を紡ぐ


〇〇:ただ…

僕のせいで、誰かが傷ついたり、悲しむ姿は見たくないです…


賀喜:…


〇〇:僕にとっては、和もさくらさんも大切な存在であることは確かです。

ただ…


賀喜:どう選べば分からない。

そして、分からないのにも関わらず事が進んでしまってる。と。


〇〇:…最低…ですよね。


賀喜:〇〇さん…


やばい。

いま優しい言葉なんてかけられたら、俺この年で号泣する自信が…


賀喜:あなたが最低なんてことは周知の事実です。


…うん。目が乾いてしょうがねぇわ。


賀喜:まぁ、今回の件に関しては、暴走しすぎたさくのせいでもありますので…


〇〇:い、いえ、さくらさんは全く悪くありませんので…


賀喜:悪いのはあなたですからね。


〇〇:…ご尤もです…


賀喜:はぁぁぁ…それで?

どうするおつもりですか?これから。


〇〇:どうすると言われますと…


俺はどうしたいんだ。

さくらさんに対する好意は嘘じゃない。

だが、それを和に胸を張って言えるほどのものか自信はない。


それに…


〇〇:正直、今すぐ答えが出せないというのが答えになってしまいます。


賀喜:…


〇〇:和…はもちろんですが、この仕事を始めて、たくさんの人とありえないような体験をさせていただきました。


まるで思い出を一つ一つ取り出すように、ゆっくりと、そしてトーンを上げて


〇〇:そのどれもが大切で、どの人もかけがえのない人です。

その人達に、胸を張って伝えられる答えをだすのには、まだ時間がかかるかと…


賀喜:そうですか。


あれ、意外とあっさりと…


賀喜:いい風に言っていますが、どっちつかずの男だという認識はしっかりと持ってくださいね。


〇〇:…はい…


賀喜:その上で…

3つだけお伝えします。


怒り


哀れみ


悲しみ


そのどれもが当てはまり、どれも当てはまらないような矛盾を含んだ表情


賀喜:1つ目は…

時間は有限だということです。


〇〇:…


賀喜:あなたが悩むのはある意味、仕方のないことだと思います。

ただ、その瞬間も事は進んでいきます。


〇〇:はい…


賀喜:2つ目は…

自分を過大評価しすぎるのはやめた方がいいですよ。


〇〇:過大評価…ですか…?


賀喜:誰も傷つけたくない。

それは優しさですか?

それとも、自分ならそう出来るという過信ですか?


〇〇:それは…


賀喜:選ばなければいけない選択です。

誰も傷つかない答えなんて無いと、私は思います。


〇〇:…


そうだ…ホントは分かってる…

だからこんなにも悩むんだ…


賀喜:そしてそれを踏まえた上で最後に…

女の子を舐めないでください。


〇〇:え?


俯くことをやめ、目の前にある優しい母のような笑みが目に入る


まるですべてを肯定してくれるような笑みが


賀喜:女の子は強いんです。

一回躓いたって、すぐまた立ち上がります。

むしろ、前よりもっとたくましく、美しく。


〇〇:…


賀喜:何よりその原因が、どっちつかずの自惚れ最低仮マネージャーとなれば、すぐに立ち上がって、黒歴史として闇に葬りさりますよ。


〇〇:何一つ間違いではありませんが…

それはそれで僕は立ち直れないです…


賀喜:知りませんよ。

とにかく、〇〇さんは限られた時間でしっかりと今後のことを…


まるでエンディングと錯覚させるような賀喜の言葉


その重みに彼も覚悟を決め始める


そして


だからこそ


「あれ、賀喜さんですか?」


物語のように綺麗な終わりは訪れない


そう深く痛感する


賀喜:あれ。もしかして…


「やっぱり賀喜さんだ。

それに…井上さんも。」


賀喜:みーきゅん…?

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