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「またトラ」に思うこと
クソ野郎が単体として存在するだけなら、ただ黙殺していればいいだけの話だが、大勢の愚民がそれをもてはやす流れができてしまうと、まともな人間は不愉快でどうにもいたたまれなくなる。
日本でも小泉純一郎や安倍晋三が人気を博した時期がそうだったし、近年の世界を眺め渡しても、プーチン、習近平、ネタニヤフらが少なからぬ大衆の支持を受けて権力を掌握している現状がまさにそうだ。
そして今また米国民の半数が8年前と同じ愚行を繰り返し、希代のクソ野郎を大統領選で返り咲かせてしまった。
ドナルド・トランプの戦略や主張は、正義や公正、理想やノブレス・オブリージュといった大義をきれいさっぱり捨象して、愚民に愚民の望むものだけを与えるポピュリズムに特徴がある。
この点ではドイツのポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」や、フランスの国民連合と同一基調なのだが、AfDや国民連合は、複数政党がしのぎを削るそれぞれの国内事情の中で、泡沫的な存在から、ゆっくりと時間をかけて支持を広げるしかなかった。
一方、トランプは、二大政党の一翼を乗っ取ることによって、最短距離で権力の座に到達してしまった。言うなれば、共和党をAfD化させたのだ。共和党支持者の全員がトランプに心酔するようなアホではないと信じたいが、二大政党制の下では、民主党に入れたくないとなったらトランプに投票するしかない。
報道によれば、敗れた民主党陣営からは、バイデンの撤退宣言が遅れたことに対する恨み節が出ているそうだが、それはお門違いの批判だろう。
今回の大統領選では、民主党の予備選段階から、次を狙う若手有力者の動きは極めて乏しかった。そもそも高齢のバイデンが1期4年での勇退含みで大統領に就任していたにもかかわらず、「我こそは」と手を挙げるネクストリーダーは、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムを含めて、ほとんど出なかった。
これは必ずしもバイデンの2期目に期待していたからではないだろう。むしろ世情を読み、2024年はトランプに取られると踏んだのだ。そしてバイデンに恥かき役を押しつけ、自らは泥をかぶることのない安全圏に身を置いたのだ。
バイデンの勇退宣言後に、民主党があれだけあっさりハリス候補でまとまったのも、同じ理屈で説明できる。自分は敗残者になりたくないから、ハリスにお鉢を回したということなのだろう。たとえて言うなら、山一証券の最後の社長が選ばれた時のように。
かくして首尾良く泥をかぶらずにすんだ民主党ネクストリーダーたちは、トランプがシーンから消える(はずの)2028年に期待を寄せていることだろう。しかし、そんな思惑どおりに事が運ぶかどうかは不透明だ。
たしかに米大統領の任期は2期8年までと決められているから、4年空けたものの通算2期務めることになるトランプは、2028年の大統領選には規定上、立てない。
しかしMAGAの行状や、トランプの強運ぶりを見るにつけ、4年後には「トランプに連続で2期やらせるべきだ」という愚民の声が上がることは想像に難くない。8年後には「憲法なんか改正して、終身でできるようにしてしまおう」という声になる。
ましてその時、トランプがどこかの国に軍事侵攻など仕掛けていたら、第2次対戦時のF・ルーズベルトのように、代えたくても代えられない状況になっていかねない。AfD化した共和党が、トランプをプーチン化させるのだ。
そうなっちまった暁には、米国はNATOではなく、BRICSに加盟した方がいいかもしれないな。
バカ話はさておき、今回の大統領選では女性や有色人種の票が、民主党から共和党へ相当数、流れたという。プアホワイトがトランプに入れるのはともかく、なぜマイノリティがマイノリティを蔑視するクソ野郎に投票しなけりゃならんのか? わたしゃ不思議で仕方がないよ。
選挙期間中、オバマ元大統領がX(ツイッター)にこんなメッセージを挙げていた。「あなた方に敬意を払わない者を、あなた方の代表にすべきではない。それはあなた方の人生に無用なことだ(If someone doesn’t respect you, they should not represent you. That’s not what you need in your life.)」
私たちも心したいね。