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『ラサール法』偽情報対策関連新法に関する天気明朗なれど波高し

 そんなわけで、WGが立ち上がっていました。関係諸氏、お疲れ様でございます。

 すでに一連の偽情報対策については「ラサール法」や「ラサール東スポ新法」という蔑称までついておりますが、スコープが人によって違うのと、立て付けが微妙に異なる話も出ていたので、整理がてらまとめてみたいと思います。

 なお、私(山本一郎)自身は公的には2019年から行われていた笹川平和財団で行われていた偽情報(フェイクニュース)対策の「サイバーフェイクニュース研究会」検討委員のメンバーで、その他情報通信系企業の隠れキャラ的コンサルタントをさせていただいております。

はじめに

 そもそも偽情報対策については、広島G7サミットにおいて重要施策のポツとして取り上げられており、23年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2023(通称『骨太の方針』)」でもばっちり明記されています。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_005920.html

 なんかその上の方に「能動的サイバー防御の実施に向けた体制を整備」と書いてる割に今国会でACD法案が審議しない方針が打ち出されていた気がしますが細けえこたあいいんだよ。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/2023_basicpolicies_ja.pdf

 要するに偽情報対策をやりますよというのは民主主義国家において特に重要インフラである選挙や重要政策などに対してたびたび起きるネットの偽情報による悪影響を防ぐために優先的に取り組んでいきますよという政府方針であると同時に国際公約であるので、そもそもはやる前提で、どう他国の状況を踏まえて協調的にこれを実現せしめるかというところに力点が置かれてきたものと解されます。

 他方で、言論の自由は憲法に認められた国民固有の権利であることから、政府がお前らガセネタ流してんじゃねえと国民を直接監視し見つけ次第ぶん殴るという仕組みは当然取り得ないわけですので、文章内にもある通り官民で協力体制を作って憲法に抵触せず適切な法手続きを持ってラサール石井を社会的に殴るにはどうするのかというところが焦点となります。

 ここでいうラサールを殴るというのは暗喩的に災害対応のような重要政策の実施にあたって、特に被災地の住民の権利に直接関係する二次避難に関する経済負担はすべて激甚災害指定等に基づく国家が担う方針であるにもかかわらず、ラサール石井があたかも被災者が一部負担するかのような偽情報を流したことで、当然これは対処しなければならないと判断されたのは言うまでもありません。ありがとうラサール石井。

 もちろん、自由闊達な議論がネットで行われているからこそ表現の自由も含めた民主主義万歳であることを忘れてはならず、一連の施策において一般的な情報交換や意見表出が委縮するようなことがあってはならないのもまた事実です。

「対処しなくては」「どうやって」問題

 で、今日になって「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会事務局」という東京特許許可局みたいな名前の下にWGができて資料が回ってきたのですが、一番最初にいきなり結論めいた全体図が出てきていてソソります。

 この後、四の五のいろいろ状況説明が書かれていますが、この絵からすぐにわかることは「このままの図式では、国・自治体の出る幕ではない」ということに他なりません。あくまでプラットフォーム事業者や、周辺の心ある事業者・関係先に対して「困っているのでお願い」と相談することはできても、実効性の保証を打たせることもできなければ、対策(制度)として実施目標を定めてそのKPIに向けて各所努力するなんてことも不可能です。

 もっとも、手をこまねいてきたわけではなく、例えば日本ファクトチェックセンターが開設されて、そこの偉い人に古田大輔さんという髭の濃い人を連れてきてどうにかさせようとしたりいろいろあります。ところが、今回のラサール石井発言のように喫緊の問題に対して、例えば災害や選挙といった「なにか一つ間違えば民主主義のインフラが破壊されかねないタイミングで流れるガセネタ」に対し即効性のある取り組みができるわけではありません。

 そうなると、ガセネタを含めた偽情報を集約して「これはどげんかせんといかん」とジャッジする第三者機関みたいなのを作るんですか、それともいままで通り特に保証も目標もなく官民協力体制のままで偽情報対策をやった感出していきますかという議論にも当然なります。

 また、みんなはっきり言わないので書いちゃいますが、いま総務省で言われている情報的健康や、オリジネータープロファイル(OP)などの発想・概念についても、制度的に社会実装するのは死ぬほどハードル高いし運用がむつかしいんじゃないかと思っています。なぜかLINEヤフー社と読売新聞がくっついて担いでいるプロジェクトはありますが、あれだって来年元気にしてるかと言われたらどこにも保証はないし、そもそもネット上の情報発信でThe LetterやMedium、Podcast、Youtubeのような誰もがアクセスできるものだけでなくTelegramやSignal、X(Twitter)経由で流通している情報には無力ですので、そこらへんのカバーも視野に入れて対策組まないとどうにもならないじゃないですかという議論は当然出てくるだろうと思います。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000885478.pdf

 まあ要するにいま検討されているいくつかの概念はどれも解決には程遠い効果しか及ぼさないだろうとみんなうすうす分かってるけど現行法ではこれしかないと言われるとまあそうなのかなという話になるので、それならタコ部屋作ってでもラサール法のような新法を構築して、いろんな方法で検討してきた概念を偽情報対策を進めるという大きなベクトルの上に載せて解決していこう、少なくとも頑張ってみようというのが本旨ではないかと思います。

直近の課題としてのアドフラウド問題

 ラサール法については、ラサール石井とはどのような馬鹿なのかも含めていろんな前提条件を揉む必要があり、ここで定義で揺れるといま発表されている検討スケジュールには全くヒットしないという怖れがあります。

 というかこれ4月末の「とりまとめ案」というか中間まとめの中身決め打ちで進めないといろいろ間に合わないんじゃないですかね? 割と野心的なスケジュールじゃないのかと思うんですが…。

 で、検討事項の中にあんまりはっきり入っていなくて驚いた点がいくつかあるんですが、その最たるものは違法広告(アドフラウド)の問題です。せっかく去年の情報通信審議会で「やりまっせ」と言ってたんだから、保護法益も定義もしやすい広告分野の是正から入ってもいいじゃないですか。

 だって、x(twitter)もFacebookもinstagramもyoutubeも違法広告だらけでしょ? この前なんて「宮崎駿が日銀の方針に激怒して刑事告訴」っていう胸躍るクソ金融広告が堂々とFacebookに流れてきていましたよ。こんな誰がどう見ても問題のある偽情報を取り締まれない仕組み作ってどうするつもりなんですか。情通を扱う総務省と広告を担当する経済産業省との省庁間調整やら力関係があるのは分からないでもないですが、国民生活からすればそういうのもまとめて偽情報だしディスインフォメーションの範疇としてガリガリと取り締まれるようにしないと駄目なんじゃないですか。

ゆくゆくは欧州DSA法のようなプラットフォーム規制すよね

 で、実際には2022年に岸田文雄政権が割と早期から有識者ヒヤリングも繰り返していて、相応に知見も溜めてきた分野だったのであって、ただ岸田さんがあまり関心がなかったのかそのまま野ざらしになってしまった事案であることはもう少し知られていていいと思うのです。

 議論の一部は、ネットでも読めますが、ちゃんと偽情報はポツどころか項目まるまる「お前らこんなことになってるでやんすね」という話はしています。

新たな国家安全保障戦略等の策定に関する有識者との意見交換

https://www.cas.go.jp/jp/siryou/pdf/yousi.pdf

 もちろん、なんでこんなこと言ってるんだ誰だこの有識者馬鹿じゃねえのという愚見もあれば、まあそりゃそうですねさっさとやりましょうさあ早くと言いたくなる卓見もあります。

 ただ、一番の問題は、ここまでやっておいてまだワーキンググループ立ち上げてやるやらない、どうやるのって検討すんのかよってことです。

 その後、離党勧告されそうな元官房長官・松野博一さん(当時)がNSSに行ってた我らのムロッティに煽られてこんなことを喋っており、偽情報対策の専門部局を何故か内閣官房に置くよとし、しかも後付けで外務省に専任でやれる人がいないので課長級か主査級の給料で外部職員募集するという騒ぎまでありました。

 そして、偽情報対策で日米連携と言っても、一番の問題は日本には専門部署もなければSNS関連情報自体もないのです。比喩とか皮肉ではなく、日本にできることが何もないんですよ。偽情報対策をやる法的根拠もプラットフォーム事業者に請願する方法も政府に予算も人員もないんです。

 ないのにどうして総務省がいま検討を始めるんですかと言えば、ラサール石井がガセネタを流してくれて、それで俺たちの岸田文雄さんがブチ切れてくれて、一時的にでも政府の関心が国内の偽情報対策にたまたま向いたからこういう流れになった、というだけのことなのではないかと危惧します。

 そうならないようにするためには、前述のようにもう具体的に国民に被害があり、関係団体も善処を求め続けているアドフラウド・詐欺広告問題をフックに健全な情報流通のあり方を官民で知恵を出し合って進めましょうというのが一番最初になるのではないかと思っています。

 また、わが日本政府とプラットフォーム事業者による協同規制の取り組みを進め、それにあたって例えば偽情報・ディスインフォメーションを集積したり分析したりする組織を作りますよという話になったとき、プロ責法の再改正だけでなく、独占禁止法や個人情報保護法も見直すべく大綱に盛り込んで改正しなければならないでしょう。DSA法みたいなのも、やっぱり必要でしょうから、そうなると大手ビッグテックの皆さまが連れてくる面白弁護士的なロビー活動もちゃんと排除して議論を重ねなければなりません。

 議員の先生方も、ラサール石井一匹しょっ引くのにこんなに舞台装置をいじらないといけないのかと嘆いておられましたが、むしろ現実には古田大輔を300人ぐらい連れてきてこき使うぐらいでないと実作業的に解決しないことの方が問題であり、実際には官民といってもおカネはしっかり政府が出し、民間が情報と人員を出して一定のコードで行動規範の策定を仕込んで実施しないと駄目なやつです。

おわりに

 本件は法的にも憲法学的にも真剣な議論の積み重ねが必要である一方、いま目の前で起きているガセネタ乱舞やオンラインカジノのような違法広告、ステマなどのアドフラウドが社会問題になっていることも踏まえて、少し先を見て広く適切な規制を検討し、憲法で認められた国民の権利に抵触しないようなアプローチで問題のある奴らをぶん殴れる仕組みを模索しないといけません。

 にもかかわらず、これから議論が重ねられる前段ではあるもののいまこの段階で問題に直面している業界関係者が全員椅子から落ちるようなのんびりとした資料が回ってくるとさすがに困ってしまうので、スピード感をもって実施して欲しいというのが本音です。

 また、本文中では触れませんでしたが、単に何もわかってない人が適当なことを書いたら大問題になったケース(例えば熊本地震におけるライオンが逃げた事件)と、他国が日本の世論を動揺させる目的で組織的に偽アカウントを作り計画的に不安定化工作の一環として認知戦を仕込んできているケースとを同一視するべきなのか、といった観点は押さえておかなければなりません。

 さらに、犯罪収益を積み上げるのを目的としたアドフラウドや闇バイト、違法オンラインカジノなどは早急に対策が必要な分野で、ここにおいては特に犯罪収益の没収や関与した問題事業者に対する懲罰的行政処分のような枠組みも同時に考えていかなければなりません。そこには今度は裁判所の情報照会請求の壁があって… とか、スコープを少し広げれば置き忘れてきた問題が山積しているのがこの界隈であって、ここにIPv6で位置情報が割り出せるようになり個人特定できる事業者が関与しますとかなる前に対処の方針ぐらいまでは示しておくべきなのかなあと思います。

 最後に、何でここまで日本が劣勢なのと言えば、結局はほとんどすべてのウェブサービスやプラットフォーム事業を米系で握られている割に、欧州のようにそれへ対抗する法体系をいまなお日本は持ち得ていないので、どうにもならない点です。国産プラットフォームだからと信じられてきたLINEヤフー社ですらAHD社の資本の原理でいまや韓国NAVER系企業になっていることを忘れてはなりません。

 これは、極めて安全保障的観点から偽情報をどのように把握し対処していくかというグレードの問題になるのであって、国民の利益のためにも一刻も早く良い議論を積み上げて具体的な実施計画にまで昇華させてくださることを期待しています。

 画像はAIが考えた『有識者がぼちぼち議論しているうちに世間が泥棒だらけになって街中が炎上してしまい激怒する後藤隊長』です。


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山本一郎(やまもといちろう)
神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント