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映画『ダンジョンズアンドドラゴンズ』が控えめに言って本当に最高だった

最高に面白かったよ

下のほうに注意書き以下ネタバレを書いていますが、本作品はネタバレで良いと思っておりまして、その理由も記しています。それでもネタバレが嫌な人は、注意書きまででお引き返しください。

 思いがけずアメリカ国内線に家族で搭乗する機会があり、クソ揺れるアメリカン航空機内での唯一の楽しみは映画ぐらいじゃないですかね。で、何があるかなと思ってみていたら、気になっていたけど観ていなかった『ダンジョンズアンドドラゴンズ アウトローたちの誇り(Dungeons & Dragons: Honor Among Thieves)』があるじゃないですか。

 結論から言うと、これは寸分違(たが)わぬ男の中の男の映画でした。素晴らしい。最高だ。逆噴射聡一郎先生が激賞していたにもかかわらず、過去の『ダンジョンアンドドラゴン』系映画の、まあなんというか、雰囲気は出てるんだけどどうしようもない駄作のトラウマが強すぎたのか、休日は家族を連れて『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』を観に行ってしまったのだよね。いや、映画ドラえもんも超楽しかったよ。

 でもな、今回の『ダンジョンズアンドドラゴンズ(D&D)』は一味違う。超面白い。TRPGやってれば内輪受け的に面白い面は絶対にあるし、そうでなくてもこのギミックは最高で脚本もかなりいかしてるんですよ。というか、なんでこの映画がそこそこの興行成績で何のアワードも獲っておらぬの? すっげーよくできてるじゃないですか。素直に逆噴射聡一郎先生のご宣託に導かれてTOHOシネマにでも行ってくれば良かった。反省した。というか、一度観終わって感動が止まらなかったのでもう一回観てしまった。なんだこれ。そして帰りの飛行機でも日本語版吹替があるかどうかチェックし、発見したので14時間の機中では3回は観るつもりだし私はデキる男なのでBlu-ray日本語版もポチった。

 私自身はTRPGプレイヤーといっても『蓬莱学園』や『ソードワールドRPG』『指輪物語』『ルーンクエスト(Rune Quest)』『トラベラー』『トーキョーN◎VA』方面の人間なので、実のところ『D&D』にはあまり詳しくないのです。血筋で魔法を使うソーサラーは知力ではなく魅力で魔法を放つので馬鹿でも構わないとか、重力を操ったり時間を止める呪文がクソ高レベルだぞぐらいの知識しかないし、ぶっちゃけ舞台となるforgotten realmsもPCゲーの初代バルダーズゲートで知った。

 それでも貴重な青春を費やして、まあまあの頻度でゲームマスターやプレイヤーとしてキャンペーンをやり、いろんな世界観の中でいかれたメンバーと共に卓を囲んだ経験が蘇ります。あの頃は楽しかったなあ。『D&D』の世界観については、マイケルスタンフォードさんの記事を読んでください。

この作品は、ネタバレしていいと思うんだよね

 ネタバレはこの小項目の注意書きの下にあるので、まずは何故この作品はネタバレしていいのかについて私見を書きますとですね。

 これ、TPRGなんですよ。

 つまり、もう中盤で「この先何が起きるのか」や「どんなトリックが待ち構えているのか」は、よほどの無能でもない限りすぐに推測がついてしまう。また、脚本がギミックも含めてうまく展開されているので、プレイヤーキャラクターである冒険者たちが「うおおおお」とか「なんてことだ」などと驚いているのはプレイなのであって、プレイヤーはゲームマスターが提示した舞台装置など百も承知の上で、分からないふりをしてプレイしているのは間違いないのですよ。

 もう、皆まで言うなって感じの。分かってて、分からないふりのプレイをすることで、プレイヤーが状況を楽しんでいる卓であることは良く分かるんです。

 また、昨今のハリウッド映画で押しつけがましいLGBT+要素や社会的説教めいた、いろんな種族がいてみんないいみたいなクソ展開が皆無。主人公エドガンもクズ野郎だが相棒の女戦士ホルガも強い割に圧倒的にだめんずであり、それでいて、騙されやすい反抗期の一人娘キーラを軸に特段の色恋沙汰もないという。いや、普通常識的には何かあるはずなのだが、おそらくこの二人なら何もないのだろう。そして、この映画に出てくる連中は全員キチガイなのだが全員キチガイとして生き生きとしており、それどころか自分たちの目標を達成するため永遠の眠りについている戦死者の墓を掘り起こし、それどころか叩き起こし、用済みになると放置し、再び埋葬するなんてことは微塵も考えない、これぞTRPGな感じのワイルドな倫理観に支配されております。余計な要素が一切ないのが素晴らしいのです。

 それでいて、CGも駆使してそこそこ以上の品質で再現されたファンタジー世界は美しいというより「おそらく繋がる宇宙の先にはきっとそういう世界もあるのだろう」と思わせる現実味があります。プレイヤー同士があらぬ方向に作戦を練ると、ゲームマスターが真面目にプレイしろとばかりに「これは現実なんだぞ」とプレイヤーに再考を促す発言が出てきたり、ディテールがしっかりしているのが素晴らしい。

 そして、その壮大なネタバレというか、もう全観客が「ですよねー」感漂う映画のクライマックスに向けて、ちゃんと伏線や要素が回収されていき、行き当たりばったりのはずの各種駄目作戦が、実はちゃんと意味がありましたというオチに繋がっていくあたりは必見です。これはもう、ネタバレ無関係にいい脚本だなって思うのですよ。

 それでもネタバレが嫌な人はネット配信やブルーレイ買って『D&D』の世界を楽しんできてください。

そんなわけで本編ですが

 結論から言うと面白かったですね。

 ローグ(詐欺師)であるフォージ役のヒュー・グラントが、実にヒュー・グラントというか、彼でなければできない味のようなものを感じます。憎めないんだけど、最悪なクズとして、最後までクズだというのが最高です。

 ある程度能力はあるのに、環境が整わなかったのかまともな家庭を築くことができず、成功してもいままでと同じヘマをして失敗し、転落していくさまは、この映画の隠れたテーマとして非常に秀逸だったように思います。

 また、ソーサラーの血族であるオーマーが、旅を重ね信頼を勝ち取るごとに自信を湛えて魔法破りの兜と同調に成功するあたりも王道でした。そして、最後には神経症のドルイド女と結ばれる一歩手前で物語は終わる。いいじゃないですか。いやあの女は地雷なのであってお前にはもっと他に選べる立場になったんじゃないのかと感じたりもするわけですけれども、あの4人の誰一人欠けても冒険は成功しなかったあたりに(当たり前だ)、良さがあるんでしょう。

 そして、定番の挫折とチーム解散の危機がやってくるわけなんですが、アベンジャーズでもジャスティスリーグでもお前らの意味とやるべきことの価値をリーダーが説いてチームを締め直すのに対し、本作品では主人公自らが「俺たちは誰一人人生上手くいってない」とか言い出し、全員を正面からDISり、ここで諦めたらダメ人間に帰っていくだけだという、たぶんこれが副題の「Honor Among Thieves」に結び付くネタに繋がっていくことになります。駄目な奴が集まって頑張ってみたけどやっぱり駄目(になりそう)だった、という意味合いでもあり、そしてキャラクターがドルイド女以外全員本当にクズであるため、諦めたらそこで終了ですよネタでまとめ直し、駄目でもともとじゃないかっていう構成には涙するんです。

 そこからは息もつかせぬ怒涛の展開ですが、これほんと「ですよねー」って流れじゃないですか。中盤ちょっと前で、舞台装置全部オープンリーチなんだから。でも、そこは最後そのまま船乗って逃げちゃえよ、お前の本来の目的は娘さんの奪還だろ、というオチでは終わらない。そこは、ハーパーズとの誓いであり、追ってきたドラゴンの前に死んでもおかしくなかった状況で嫌いだった聖騎士ゼンクさんが危険をかえりみずエドガンを救ったことであり、最終的には妻を失った理由に回帰していく。いい暮らしをしたかったから、サーイの財宝に手を出し、足がついて襲撃を受けて最愛の妻を死なせてしまうにあたり、ここで船に乗ったまま娘や仲間たちと街を去り楽しく人生を送りました、でもNever Winterの街はサーイ同様にアンデッドを率いるザス・ダムの支配下になりました、では終われないという。

 人生であまり映画を観てこなかった私の感性にあまり自信を持てないところなので、経験豊富な諸氏の意見も聞いてみたいところなのですが、このあたりの運びは完璧なんじゃないか? って感じます。最後も、実は必ずしもそこまでの恨みをソフィーナに抱いているわけではないクズ3人ではなく、村を焼かれて仲間を処刑されたドルイド女が化けたアウルベア(?)がとどめを刺すのも、それに3人が介入しないのも、そうだろうなと。

 そして、なんだかんだ一人だけ(おそらく)高レベルのため一緒に旅をしてあげない聖騎士ゼンクさんが大事なところで必ず通りかかるあたりに、もの凄い侘び寂びを感じた作品でございました。

 返す返すも、劇場で観なかったことが悔やまれます。逆噴射聡一郎先生が書いた記事を読んで何も考えずそのまま飛び込むべきであった。そういう後悔を胸に、日本に一時帰国します。



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山本一郎(やまもといちろう)
神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント