『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー“特別日本語版”』を家族で観た感想
GW中、話題になっていた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を家族で観に行きました。どうも通常の英語版と違って、間が日本用になって作り直されているとのことで、そうなんですねというのが率直な印象です。確かに日本人と欧米人では心地よい間が異なるのですが、そのあたりを分かってちゃんとそれ用に作るのが任天堂らしいなあと思いました。
事前に、本作品を先に観た人の評判を聞いていったのですが、概ね皆さん「面白かったよ」という一方、映画が好きな人ほど「テーマ性がない」とか「物語がないも同然で伝わらない」などの酷評をしていたので、まあマリオだからなあ、テーマ性何かねえだろうなあと思って覚悟して見物に行ったんですけど、テーマ性あったじゃないですか。
ブサメンは、どんなに権力を持ち、教養があってもプロポーズに失敗するという、じゃぶじゃぶの墨汁で浸した極太の筆で書き上げたかのような、立派で普遍的なテーマが。
何と言っても、クッパさん割と簡単に人殺しに打って出る一方でソウルフルな歌声でピーチ姫への愛を訴えピアノで弾き語ります。分かるよ。愛してるんだね。
このピーチ姫とクッパさんを隔てるものはただひとつ、美人とブサメンという絶対に超えられない壁です。超有能ででかい軍隊を率い、損害を厭わず征服を着々と進めるクッパさんの聖なる至高な目的は「幸せな結婚」であり、非常に純情で人間的です。典型的なマイクロマネジメントの人ですが、それでも敵陣に向かうにあたり自らが陣頭に立ち、炎を吐き、味方を鼓舞しながら立派に戦っています。それでいて、部下が軽口を気軽に言える懐の広い風通しの良い組織を作り、難題に立ち向かう姿は素晴らしいものがあります。いいボスじゃないですか。
もちろんそれが可能なのは「この世界では誰よりもクッパさんが強い」からに他ならないのですが、その強いクッパさんをして、自由にならないのが結婚であります。別にピーチ姫じゃなくても他にいいのがたくさんいるんじゃないのと思いますが、なにぶんクッパさんは純で一途(いちず)なのがますます素晴らしい。成功した成金IT経営者がグラビアアイドルと結婚したのに年月が経ってババアになるとあっさり捨てて女子アナと不倫しようとしてカネを積んで励む光景が見受けられますが、そういう俗物ぽさを一切見せることなく純粋な愛を貫くクッパさん万歳であります。
そういう愛に生き、愛を突き詰めた結果、クッパさんに悲劇は訪れるわけですけれども、世界を股にかけ、すべてを投げ打ってピーチ姫を口説くという勝負に出たクッパさんの漢気には本当に感動しました。ラスボスたるもの単なる横暴ではなくピュアなパッションで命を燃やし最前線で突き進むことが感動を呼ぶのだと目が覚めました。
映画を観終わって感動していた子どもたちに夕飯時、お前たちはクッパさんに学べと力説したのですが「人間生まれ持ってしまったブサメンはどんなに実力があり成功しても手が届かないものがあるのだ」という父の言説は不評を極め、非常に残念な思いをしました。親の心が分からない不届き者どもめ。社会人経験がなければ、なかなかその辺の人間社会の機微は理解できないのかもしれません。
子どもたちは口を揃えて「結婚するのに生贄を殺す必要はあったのか」という、主にクッパさんの不必要な残虐性を指摘していましたが、武力による征服を考えたときおそらくクッパさんは占領地を親政する必要があるだろうからレジーム回帰を目指す反動勢力を抑えるためにも過去の統治者の血筋を含めて正統性を持つ者は本来皆殺しにするものなんだよ、という説明を加えておきました。
どうも土管の向こうは煌びやかで美しい世界ですが、住まう生き物たちは封建主義であり、シヴィライゼーション的には早く技術ツリーを進めて活版印刷と裁判所を建て法の秩序による統治に移行するべきだと思いました。
長女はキノピオがかわいいとのことだったので、グッズを買い散らしておりました。それ全部俺の金だぞ。