早期解散総選挙はやめようぜという話
せっかくG7広島サミットをいい形で終わらせたのに、ご子息が過去にやらかした案件をぶつけられて台無しになり、あまり岸田政権が触って欲しくない内政モードにいきなりシフトしたのは残念なことです。
思い返せば、安倍晋三さんが野党から攻撃された「アベ政治」は、その概ねにおいて公私混同やお友達感のある話が根っこにあって、それは森友も、加計学園も、桜を見る会も、その節目節目に出ていた食い込んでいる人脈に配慮する安倍官邸、それが不正で不義だから批判の対象になる、仮にそれがそこまで天下国家において大事でなくてもという話でもあります。
同じように大乱な感じになっているのはまさに自民党東京都連と公明党の話であって、このあたりはメルマガにも書きました。今後そぞろ解説は出てくるものと思いますが、いくつか背景については押さえておかなければならないポイントはあります。
10増10減と本格的な都市部シフト
人口動態に合わせて地方から都市部へ議席数が10増10減となったわけですが、和歌山県や山口県など自民党が得意としていた牙城で議席が7議席から8議席ぐらい減ることを意味するため、自民党からすれば次の衆院選はそこがマイナスになったところからスタートします。
増えるのは東京で5議席、神奈川で2議席ですが、ここで自民党は多くの候補者を立てたいと考えるのはある程度当然のことであって、そこで自公連立において公明党側の事情と衝突した面はあります。
大阪兵庫の公明党現有6議席に維新候補者が
その公明党の事情としては、やはり大阪府と兵庫県で確保している小選挙区2つの議席を守りたい一方、日本維新の会がここに候補者を立ててくると公明党はすべての議席を失うのではないかという危機感があります。私も別段ここの票読みをやっているわけではないのですが、関係先が最悪は全然あり得ると蒼くなっているのを見ると、そういう調査結果が出て、さらに挽回の余地がないぐらいの開きになる恐れがあるとも言えます。
しかも、いままで維新が公明党に配慮していたのは「大阪都構想の実現のために協力関係を築く」という話でしたから、その都構想がひと段落となる場合に公明党は用済みであるとばかりに候補者調整しませんというのが維新の方針となります。
維新と公明党とでは各政策の考え方が異なる
結構大事なことだと思うんですが、政党としても支持層としても維新と公明党とでは政治思想の根本のところから大きく考え方が異なります。自民党と公明党との間で感じられる開き以上に、維新は右側であることは間違いありませんので、公明党とは本当の意味で不倶戴天の政治的敵勢力であるとも言えます。
それを結び付けていたのが維新からすれば組織的なレゾンテートルの一角をなしていた都構想に対する協力であって、これはある種の政治的野合ですから、都構想が沙汰止みになると維新からすれば公明党との関係を「正常化」する口実になります。
近畿が維新一色でいいのか問題
一方、大阪府の選挙区を独占する勢いの日本維新の会も、全国政党へ飛躍を続ける局面において大阪府の選挙区すべてに候補者を立て、近畿近隣にも手を伸ばし、さらに東京都や神奈川県埼玉県千葉県に愛知県福岡県と広がっていくにあたり「自民党を凌ぐ本格正統を目指せるのか」または「成長は続けているがあくまで政策実現のために自民党政権の閣外協力の役割にとどまり野党第一党として組織力を固めて実力をつけるのか」という方針を決める必要に迫られてきます。
組織のかなめであった松井一郎さんが職を本当に辞してしまったため、馬場体制で一気に天下取りまで行けるのかというのは微妙な雰囲気がします。大阪府のような割と大きい地盤をきっちり固めて全部の選挙区で善戦できる体制を取るのは良いことですが、内紛でもあろうものなら一気に瓦解することも警戒せねばならず、そこは自民党とは紡いできた歴史と、問題の捌く組織としての知恵とにまだ差があるのかなとも思うわけです。
東京5増選挙区での振る舞い
まだ揉めてますが、公明党幹事長・石井啓一さんが外で強めの言葉を言ったのをどう捉えるかの問題はあります。本来であれば、公明党はキャスティングヴォートを担うために自由民主党と組んで連立政権を立てられているから自党の意見を政策反映させられる立場にあり、本当の意味で自公連立が今回の一件で解消になってしまえばただの小所帯政党になりますので旨みはないというのが正直なところです。
他方で、公明党を支える創価学会も動員力・集票力に陰りが見えてくる中で「別に国政政党を抱えていなくてもいいんじゃないか」と考える幹部の方が増えてきたようにも思います。地方議員がしっかり働いていることが大事なのであって、安全保障から改憲まで本来自分たちが考えてきたことではない問題についても自民党と一緒になってやっていく必要がないのではないか、というちゃぶ台の問題はよく耳にします。今回石井さんが「東京での自民党との信頼関係は地に堕ちた」というのは、自民党に対して言っているのではなく支持母体である創価学会に示して慰撫しているものと思います。
東京選挙区での自民党の事情
週末も取材ではワーワー話が出てますが、要点として言えるのは自公両党の幹事長としての茂木敏充さんと石井さんとの相性の悪さ、旧12区から新29区へ国替えをする岡本三成さんと新12区、学会フレンズでもある新15区柿沢未途さんの話に加えて自民党都連代表・萩生田光一さんのスーパー義理人情のところで自民党にも事情があるというのは悩ましいところです。
茂木敏充さんはなにぶんあのようなお人柄ですので、優秀な分だけ実直が売りの石井さんからすればどうにもといったところでしょうが、公明党が候補者を立てたがった新28区では萩生田さんの地場のスポンサーでもある安藤高夫さんが擁立される見込みとなります。ただ、自民党からすれば「安藤さんってそんな自公連立を脅かして迄擁立しなければいけないほど大事な人でしたっけ」となりますし、バーターで出した新12区は自民公認見込みが高木啓さんで、これがまたなかなかナイス人柄の人で誰も支えんやろし萩生田さんともウルトラ仲が悪いので自民党からすれば12区15区で我慢してくれよとなります。でも15区は学会員フレンズ柿沢さんがまあまあ強くて公明党が返り討ちに遭うかもしれないし、12区も北区よりは足立区がいいというのもあるでしょうから嬉しくないので国替えしているわけで微妙なところです。
で、東京の自公連携がなくなるとどうなるの
割と大変なことになると見られる面と、案外公明党いなくても善戦するんじゃねという面とで議論が分かれていて、来週以降の調査結果待ちです。個人的には「公明党がいてくれないと自民党で(比例復活もできず)落選する議員は割と出る」と思っています。
例えば、東京1区では山田美樹さんが前回勝ってますが、投票所別の出口調査で見ると主に新宿区での投票所で創価学会の支援を受けて合計1万4,000票ぐらい積んでもらってようやく立憲の大御所・海江田万里さんを交わして辛勝しています。単純にこれがごっそりなくなると9,000票あまりでの勝利でしたから単純計算でも選挙区では負けてしまいます(本当はもっと複雑な計算で票読みをしますがここでは割愛)。
逆に、公明党がいなくても自民党は勝てるんじゃねという発想の人が少なくないのは「おそらく維新が東京選挙区に候補者を乱立させて野党票をたくさん食ってくれるから」です。東京1区では3位で善戦した小野泰輔さんが港区中心の新7区に国替えとなりますが、前回の選挙で山田さんが勝ったのは悪く言えば小野さんがなぜか1区で出馬して海江田さんの票を奪った面があります。同じ構造で、自民と立憲が一騎討ちであった選挙区に維新が候補者を立ててくれると、維新は勝てないけど与党・自民批判票を綺麗に立憲候補から奪ってくれることから自民党には有利に働くと見られます。
最適例がこの前の統一地方選挙での千葉5区補選、事前の調査とほぼ同じ得票傾向で着地した選挙戦でしたが、ここでは野党の候補者一本化がなぜか失敗して立憲も国民も共産も維新も候補者を出した結果、低い投票率の中でギリギリで自民・英利アルフィヤさんが勝利しました。対中国なのか周辺候補者への配慮なのか分かりませんが、公明党支持者(≒創価学会)の票の動きがもう少しあればもっと楽勝だったかなという内容です。
裏を返すと、ほどほどに岸田政権に支持率があり立憲など左派系野党と維新が候補者を立ててくれるほうが、公明党に支援をもらって票が上積みになるよりも選挙に勝つことだけを目的にする場合はいいんじゃないかと思う自民党関係者がいるのも分からんでもないという話になります。
統一地方選挙・東京では自民党は苦戦した
大きな気がかりなのが、自民党は今回の統一地方選挙において、東京では結果が芳しくなかった点です。自民党候補者は杉並区・渋谷区では7人、大田区で6人、江戸川区で5人、さらに他の区議選でも落選者を出したうえ、21日投開票の東京・足立区議選で19人擁立も落選7人(うち現職5人)の惨敗で、一方公明党は13人出馬13人当選で、足立区をメインとする新29区に国替えの岡本三成さんへの布石となっています。他方、得票数そのものは公明党も3,600票ほど落しています(投票率は42.8%→42.7%)。
ここでの分析において、NHKでの記事にもある通り自民党を支持してきた保守層の票が維新に流れた(かもしれない)という内容です。前述の「維新が立ってくれれば野党票が割れるので自民に利するのではないか」という観測とは逆の展開になったのが足立区議選であった(かもしれない)とも言えます。もうちょっとちゃんと調査しないといかんところですが、自民党都連からすれば、あそこまで態度を公明党に硬化されてしまって(主に茂木さんが)退けなくなっているのかもしれませんが、東京都の選挙区で過半が立憲や維新に取られる覚悟もしておかないといけない状況とも言えます。
そうなると、結局は無党派の中でも岸田政権に対する評価をしてくれる層に刺さらないといけないのですが、そこがまた何とも… 細やかなことは、いずれまたどこかで書くでしょうが、個人的には山本家の夏の家族旅行日程のためにも岸田文雄さんには解散するにしてもこの夏に投開票日とならないようお願いしたいというのが本音です。
(追記 14:09) 一部の方より、岡本三成さんの新29区への出馬は国替えではなく選択であると公明党が主張しているという指摘がありました。もちろんそれは承知していますが、旧12区は北区全域を含み新29区は荒川区と旧12区であった足立区が混ざるのみですから、旧12区の少ないほうの一部である足立区を「選択しました」と思う人は少数であろうと思います。単純に組織内の内輪の論理であって、得票期待を最大化するために29区にしましたという程度であるならば強弁する必要もなかったように感じます。