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【個人の感想です】このミステリを薦めたい!2023【国内ミステリ】
概要
実はミステリを読むのが大好きです。
ポケモンやったり絵を描いたり(最近は全然だけど)いろいろやってる中でここ最近一番熱いのがミステリ。
前々からミステリを読んではTwitterに「読んだ」的なことをぽつぽつ書いていたんだけど、フォロワーから「あとからでも読書の参考になるように、まとめを作るかハッシュタグをつけてほしい」と言われるようになって、あー、意外と私の感想なんかを読んでる人いるんだ、じゃあ付けるか、ハッシュタグ。と。
とりあえずこれまでの読んだ感想ツイートに対してリプライでハッシュタグだけを付けて回ってたら「おバカ!!そういうんじゃねーよ!!」と突っ込まれたので、ハッシュタグに加えて簡易な感想を新たに付けて回り、今後の読書感想にもハッシュタグ「#きりぶっく」を付けて投稿することに。
そんな習慣がまあまあ続き、今年に至ってはそこそこ新作ミステリを読むことができたので、今年はハッシュタグだけじゃなくて「まとめ」のほうにも着手してみようと思い立った次第。
でもまとめを作るにしてもどういうまとめがいいだろう? と思案していたところ、個人版であってもランキングやその作品についての感想を書いていってにぎやかな内容にした方が記事を読んでいて楽しいかなと思い至る。
でも肝心のランキング内容は何を軸にするべきか、そこだけがなかなか決まらない。
ベストミステリ?
じゃあ何をもってベストなの? トリック? シナリオ? 意外性?
アンケートでベストミステリを取る場合は統計処理されて平準化されてくるけど、個人版だし、いっそ尖った評価軸のほうが面白くないか? と考え付く。
じゃ尖った評価軸って何だろう? とか考えていたら、とうとう現実で「おすすめのミステリを教えて」とか言われてしまい、めっちゃ困ってしまった。
というのも、ミステリというのは作風が幅広く、人によって許容できる内容には千差万別。
謎の種類には日常の謎から大量猟奇殺人もの、シチュエーションには密室や叙述トリック、ハウダニット、怪奇趣味、孤島、雪山、特殊設定と挙げればキリがなく、とにかく語るのが難しい。
そういうときに、個人的にはこれがおすすめかな、と話せる作品が一つでもあれば、それは会話嫌いの私にとっても、(会話を繋ぐためか本当に本が読みたい人かはともかく)話し相手にとってもWin-Winではないだろうか? と。
そんなわけで、(半ば自分のためでもある)人におすすめできるミステリランキング2023年版を作ってみようと思い立つにいたる。
この記事を読んだ人はとりあえず上の順位から順番に買って読んだらいいです(個人の感想であり、万人に対して読書の充実感や作品内容の満足を保証する記述ではありません)。
評価方法
評価方法は評価軸に沿って作品の内容を思い返し、ああ、よかったな~と思った作品を列挙していく形。
で、評価軸とは何ぞやという点。
ここの定義次第では簡単にランキングなんて変わるのでアレなんですが、今回はこんな感じ。
・一般的な人に「おすすめのミステリを教えて」と言われておすすめして問題なさそうな作品かどうか
・ミステリとして面白いかどうか(個人の判断です)
・ミステリ部分以外も面白いかどうか(個人の判断です)
・自分が好きかどうか(マジで個人の判断です)
ということで、一般人?に「おすすめのミステリを教えて」と聞かれたときに「○○がおすすめ」と言えるような作品がいいんじゃないかなと。
エログロナンセンス系とかは不利なランキングだし、読者を選ぶような作風も不利というところで御理解いただきたい。
具体例を挙げれば「殺戮にいたる病」や「○○○○○○○○殺人事件」のようなエロやグロテスク要素がめっちゃ出てきているとか、あまりにもニッチな尖り具合がある作品とかは、よっぽど個人的に面白い部分があって薦められるポイントがある、とかじゃない限りは上がってこないことになる。
ミステリとして面白いかどうかはそもそもミステリのランキングだから絶対に外せない。
個人的にはミステリは殺人事件の謎の解明が最強なので、それ系が強くなってくる仕上がりになりそう。
ハウダニットやホワイダニット、日常の謎などを評価しないというわけではないのであしからず。
そもそもミステリという言葉の定義があやふやなので、私が少しでもミステリだと思ったらとりあえず入ってきている。
作者の創意工夫が最大限伝わるような書き方は個人的には評価が高い。
いくら上手いトリックでも伝わってくる見せ方や描き方がされてないと、正直読書慣れしていない人やミステリ慣れしていない人にはしんどい。
ていうかミステリ慣れしていてもしんどい。
ミステリ部分以外が面白いかどうかというのは、キャラクターや設定、世界観の描写だけでも楽しめるかどうかという点。
ミステリを薦めたはいいものの、ミステリの楽しみ方が分からないという人が読んだときにキャラクターや世界が楽しくなければなかなかの苦痛になると思っている。
せっかく本を買って時間を作ってとコストを支払うわけだから、ミステリ部分以外も面白いと感じた作品かどうかを重要な評価軸として据えることに。
まあこの「面白い」もめちゃくちゃ主観的なわけだが……自分が面白いと思った作品がなぜ面白いかについては個別評価で触れていく。
最後に、自分が好きな作品かどうか。
ここまでいろいろ書いてきたけど、最後はこれだと思う。
自分が好きな作品じゃないと人におすすめなんかできない。
あ、これは好きだわ。そう思った作品の中から上記の基準に沿って選出……というか、好きな作品ランキングに後付けで人に薦める理由を列挙しているだけかもしれない。
あと、個人的な推し作家や推しシリーズには評価が甘くなる可能性があるので、そのへんは内心厳しめに見るようには意識した……はず。
というかこの人に薦めたいミステリという評価軸だとシリーズものは前作の存在があるので厳しくせざるを得ないとも言える。
主観的なランキングなのに客観性を妙なところで取ろうとしているきらいはある。なぜ?
集計対象
・各種ミステリランキングの集計対象範囲
・上記に当てはまる作品のうち私が読んだことのある作品
・国内作品であること
各種ミステリランキングの集計対象というのは、前年11月1日~当年10月31日発行の作品を指していることが多いので、それに倣ってその範囲の作品を集計対象とした。
また、国内ミステリばかりを読んでいるというのもあり、国内ミステリのみに限定したランキングを作成することとした。
ちなみに今年読んだミステリの中で集計対象となったのは下記作品。
電子書籍の奥付で確認しながら書いてるけど間違ってたらごめんなさい。
当然集計対象に文庫版は含まない。
集計対象作品 一覧
・密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック(鴨崎暖炉)
・ドールハウスの惨劇(遠坂八重)
・星くずの殺人(桃野雑派)
・ゴリラ裁判の日(須藤古都離)
・クローズドサスペンスヘブン(五条紀夫)
・時計泥棒と悪人たち(夕木春央)
・少年籠城(櫛木理宇)
・しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人(早坂吝)
・アリアドネの声(井上真偽)
・不実在探偵の推理(井上悠宇)
・怪物の町(倉井眉介)
・無限の月(須藤古都離)
・十戒(夕木春央)
・ちぎれた鎖と光の切れ端(荒木あかね)
・ヴァンプドッグは叫ばない(市川憂人)
・怪物のゆりかご(遠坂八重)
・鵼の碑(京極夏彦)
・でぃすぺる(今村昌弘)
・午後のチャイムが鳴るまでは(阿津川辰海)
・帆船軍艦の殺人(岡本好貴)
以上20作品(発売日順)。
上記作品の中からおすすめ5作品を選出する。
このミステリを薦めたい!2023(個人の感想です)
5位
まずは第5位。さんざん悩んだ挙句、十戒(夕木春央)を選出。
![](https://assets.st-note.com/img/1700316949892-7YrQHxxI9N.jpg?width=1200)
殺人犯を見つけてはならない。それが、わたしたちに課された戒律だった。
浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。
島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。
“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。
週刊文春ミステリーベスト10(「週刊文春」2022年12月8日号)国内部門&MRC大賞2022など4冠に輝き、ミステリ界を震撼させた『方舟』夕木春央、待望の最新作!
本作は去年のミステリランキングを席巻した「方舟」の系譜を継いだ、言うなれば旧約聖書シリーズ。
「方舟」の際はこの作品がシリーズ的に連なるとは明言されていなかったため、本作の登場に狂喜したミステリ好きは多いはず。
本作の魅力は何といっても、絶海の孤島というクローズドサークルで「殺人犯を見つけようとした場合は島を爆破する」に代表される、異常な「戒律」が10も課されてしまうところ。
孤島ミステリはともかく、犯人探しをしてはいけないという枷を課す展開は、凡庸な作者にかかってしまえば、探索の描写や犯人当てのための意見交換などといったミステリの醍醐味を潰しかねない要素といえる。
しかしそこは流石の著者、飽きさせない実に多様な展開でもって長編ミステリを構築し、これまでにないクローズドものを成立させている。
犯人探しをしていかないことには自身の身の安全は保障されない……しかしながら犯人を見つけたと思っても、正しい正しくないにかかわらず口にすれば戒律を破ったことになり、即座に全員が爆殺されてしまう。
戒律を残した犯人がいつ「神罰」を下すかは分からない。
それも最悪、戒律を従順に守っていようとも、犯人の気まぐれで起爆しないとも限らない。
こういった様々な葛藤に苦しみ、10もの戒律に縛られ、腹の探り合いのような心理戦が続くところを丁寧に描いている。
前作「方舟」に勝るとも劣らないシチュエーションのクローズドものを、前作から一年で上梓する著者の辣腕ぶりに驚かされる。
犯人は誰だろうか? という誰しも考える要素だけでなく、この先著者はどうやって面白くしてくるんだ? 犯人探しは不興を買うんでしょ? という観点から読むことでも面白くなる、先の読めない展開を描ききる著者の手腕が本作の最大の強みといえる。
ミステリを読んだことがない人にも「戒律を破ったら全員が爆殺される、極限的クローズド」という本作のあらすじは非常にわかりやすく、登場人物らの自由を縛る戒律があるにも関わらずスリリングな展開が続き、エンターテインメント性を強力に発揮しているところも本企画の趣旨に沿っている。
もし本作を薦めて「面白かった」と返ってこようものなら、即座に前作の「方舟」を薦めることができ、読書の沼に呼び込むことだって可能。
旧約聖書シリーズなどと呼称したが、その実現地点では公式なシリーズ名はないし、本作と「方舟」は作中に繋がりはない。
繋がりがないからこそ途中(?)からでもすすめやすく、微妙にリンクを感じるからこそ本作を起点に「方舟」という衝撃作を薦められる。
4位
第4位として選出したのは、Z世代のクリスティこと荒木あかねの「ちぎれた鎖と光の切れ端」。
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江戸川乱歩賞受賞第一作
2022年のミステリーランキングを席巻したZ世代のアガサ・クリスティーが描く哀しき連鎖殺人
「私たちが絆を断った日、島は赤く染まった。」
復讐を誓う男がたどり着いた熊本県の孤島(クローズドアイランド)で目にしたのは、仇(かたき)の死体だった。
さらに第二、第三の殺人が起き、「第一発見者」が決まって襲われる――。
2020年8月4日。島原湾に浮かぶ孤島、徒島(あだしま)にある海上コテージに集まった8人の男女。その一人、樋藤清嗣(ひとうきよつぐ)は自分以外の客を全員殺すつもりでいた。先輩の無念を晴らすため--。しかし、計画を実行する間際になってその殺意は鈍り始める。「本当にこいつらは殺されるほどひどいやつらなのか?」樋藤が逡巡していると滞在初日の夜、参加者の一人が舌を切り取られた死体となって発見された。樋藤が衝撃を受けていると、たてつづけに第二第三の殺人が起きてしまう。しかも、殺されるのは決まって、「前の殺人の第一発見者」で「舌を切り取られ」ていた。
そして、この惨劇は「もう一つの事件」の序章に過ぎなかった――。
去年のミステリランキング各種に名を連ねた「此の世の果ての殺人」の著者の長編ミステリを選出。
本作の魅力は、一つの事件のクローズドミステリとしての面白さ、一つの事件がさらにもう一つの事件を引き起こしてしまう悲しい連鎖、全編を通しての登場人物の豊かな心理描写にある。
順に掘り下げていこう。
一つ目の事件は孤島での連続殺人事件。
殺意を抱いた参加者、樋藤清嗣の視点から語られる倒叙スタイルを取る。
樋藤は先輩の無念を晴らすべく参加者全員を毒で一斉に殺害するつもりでいたが、彼らは殺されるほど悪い人間なのだろうか? と葛藤する。
葛藤の最中、参加者の一人が殺害され、また一人と殺されていく。
孤島に集められた男女が一人ずつ殺されていく展開はまさに、クリスティ女史の名作「そして誰もいなくなった」そのものであるが、そのオマージュにZ世代のクリスティが挑戦する意欲的な取り組みがまず素晴らしい。
長編二作目にして伝説的作品に挑戦する著者の気鋭を味わっていただきたい。
最後には意外な犯人が現れるのがこの手の作品のお約束であるが、本作はそこすら序の口に過ぎないのだから末恐ろしい。
というのも一つ目の事件は本作のもう一つの事件をより濃密に描くための取っ掛かり的な位置づけでもあるためだ。
これだけ魅力的な孤島ミステリを見せておきながら、まだ楽しませようという地点ですでに本書を購入したお釣りが出てきている。
もう一つの事件についての詳細はぜひ読んで確かめていただきたいのだが、大事なのは憎しみの連鎖がさらなる惨劇を呼ぶというテーマにあると感じる。
一つ目の事件があったからこそもう一つの事件が発生してしまい、次々と犠牲者が出てしまう。
この憎しみの連鎖は果たして終わりがあるのだろうか。
これらの事件に彩りと深みを持たせるのが著者の最大の武器、登場人物の微に入り細を穿つような心理描写。
先輩を傷つけた者たちに復讐しようとするも、彼らはそこまでするほどの悪人なのかと葛藤する樋藤清嗣の姿は人間臭さを強烈に感じさせるのだ。
樋藤は参加者らに復讐するためだけに打算的に仲良しグループに加わったのだが、そこで彼らの人となりを知っていく。
そして一人ずつ殺されていく中でも参加者らの機微を感じ取り、葛藤していく様子が本作の魅力の一つ。
もう一つの事件においても登場人物の心理描写の丁寧さは変わらず、舞台が打って変わって別の土地、別の人物が描かれようとも、表現される人間模様の緻密さには変わりはなく、新しい登場人物ばかりの第二幕となっても難なく読ませてくれるのだ。
二つの事件が最後にどういう結末を描くのかを見届けていただきたい本作。
最後には憎しみの連鎖を断ち切ることが出来るのか。
孤島ミステリへの挑戦と憎しみの連鎖を描き切るハートフルな本作は、人に薦めるに値する名作だと思う。
3位
ここからはトップ3の発表。
正直ここからはどれも1位で問題ないくらいの作品が並ぶので、一番ビビっと来た作品を読んでもらうのが一番いいと思う。
そういうわけで3位として選定したのは、阿津川辰海著、午後のチャイムが鳴るまでは。
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こいつら、最高すぎる……! 昼休みの“完全犯罪”にご用心!?
本格ミステリ大賞受賞作家の最高到達点!
九十九ヶ丘高校のある日の昼休み、2年の男子ふたりが体育館裏のフェンスに空いた穴から密かに学校を脱け出した。
タイムリミットは65分、奴らのミッションは達成なるか(第1話「RUN! ラーメン RUN!」)。
文化祭で販売する部誌の校了に追いつめられた文芸部員たち。
肝心の表紙イラストレーターが行方不明になり、昼休みの校内を大捜索するが――(第2話「いつになったら入稿完了?」)。
他人から見れば馬鹿らしいことに青春を捧げる高校生たちの群像劇と、超絶技巧のトリックが見事に融合。
稀代の若き俊英が“学校の昼休み”という小宇宙を圧倒的な熱量で描いた、愛すべき傑作学園ミステリ!
「紅蓮館の殺人」「蒼海館の殺人」「入れ子細工の夜」「録音された誘拐」などの長編、短編集ミステリに加え「阿津川辰海 読書日記」や文庫版の解説などのミステリの書評と、ミステリの分野において余すところなく才能を発揮する若手の連作短編集を3位に選出した。
本作の最大の特徴は、ミステリの面白さはそのままに高校生の愛すべき馬鹿を爽快で鮮やかに描き出したところ。
愛すべき馬鹿をど真ん中で表現しきった群像劇という一点に関しては本年のミステリのどれにも含まれない妙味があり、この一点だけでも素晴らしいため青春小説として高く評価しても差し支えない。
愛すべき馬鹿というのは何ぞや? というと、あらすじにも出てくる「休み時間に学校を抜け出してラーメンを食べに行く完全犯罪」や「教師にバレないように消しゴムを使ってポーカーをして遊ぶ男子高校生集団」といった、底抜けのアホどもが織りなす、昼休み65分間に濃縮された出来事を指す。
もうこのあらすじだけでも十分に面白い物語が描けること請け合いなのだが、ここに阿津川辰海のミステリ手腕が余すところなく生かされているのだから、面白いということは保証されており読まない手はない。
なんとこのラーメンを食べに行く完全犯罪、達成した途端に探偵役の学生に看破されてしまうのである。
完全犯罪はなぜ崩壊したのか?
教師にバレては意味がないのだから、バレないように対策は十分にしたはずなのに!
犯行に及んだ男子学生は犯人さながらに必死に抗弁するのだが……。
こんなアホアホな事件なのにも関わらず、探偵の推理から目が離せない。
そこが不思議と、しかし全員が本気だからこそ必然的に面白くなるのだ。
余談だがこの1話「RUN! ラーメン RUN!」を読んだ後はラーメン屋さんに行きたくなるので、ラーメン屋に行く予定を立てておくといい。
なるべく、完全犯罪で。
その他の話として、学校に泊まり込みで原稿を書き上げる文芸部の合宿のあとに失踪したイラストレーターを探すことになる話、教師にバレないように消しゴムを使ったポーカーに興じる男子高校生らの熱くてアホな駆け引きの話、名作「九マイルは遠すぎる」オマージュのホワイダニットものの話、さらには教師の体験した過去の事件がこの昼休みに解決するという話まで、多種多様な5編が収録されている。
65分間の昼休憩という小宇宙に凝縮された群像劇は、ただ面白いというだけではなく、それぞれの話に確固とした青春のきらめきが感じられる。
ああ、自分も昔こういうおバカなことに情熱を注いでいたっけなあ。
そういう懐古的な思いがより本作を面白くさせてくれること間違いなし。
1話目の「RUN! ラーメン RUN!」も好きだが、個人的な最推しは3話目の消しゴムポーカーの話「賭博師は恋に舞う」が最高だ。
著者と担当編集らが実際にこの消しゴムポーカーを遊んでみて設定を練るなど、本当にアホなのは男子高校生なのか著者らなのか分からなくなるほどの熱の入りようが本作のベースにある。
休み時間に消しゴムポーカーに興じる男子高校生たち。
ある時ひょんなことから、この消しゴムポーカーがクラスのマドンナに告白する権利を賭けた真剣勝負に発展してしまう。
勝てばいいとばかりにイカサマに手を出す者もいる中、激しい心理戦の行方がどうなるかが本作最大の魅力であり、底抜けにアホで、ただただ愛らしいポイントでもある。
濃密な65分間の群像劇を読み終えた後、世界がどこか美しいものに満たされているような気持ちにさせてくれる。
すがすがしい高校生活の群像劇を、昔に戻ったような気持ちでぜひ楽しんでいただきたい。
間違いなく今年一番愛らしいミステリ。
2位
3位が最高すぎるのでもうあれが1位でいいと思ってる。いや本当に。
でも実は甲乙つけがたく、しかしお薦めしたいミステリはまだまだある。
おふざけみたいなタイトルとは裏腹に、人権問題や人間とは何かといった、複雑なテーマに真っ向から挑んだメフィスト賞受賞の感動巨編、ゴリラ裁判の日(須藤古都離)を2位として選出した。
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カメルーンで生まれたニシローランドゴリラ、名前はローズ。メス、というよりも女性といった方がいいだろう。ローズは人間に匹敵する知能を持ち、言葉を理解する。手話を使って人間と「会話」もできる。カメルーンで、オスゴリラと恋もし、破れる。厳しい自然の掟に巻き込まれ、大切な人も失う。運命に導かれ、ローズはアメリカの動物園で暮らすようになった。政治的なかけひきがいろいろあったようだが、ローズは意に介さない。動物園で出会ったゴリラと愛を育み、夫婦の関係にもなる。順風満帆のはずだった――。
その夫が、檻に侵入した4歳の人間の子どもを助けるためにという理由で、銃で殺されてしまう。なぜ? どうして麻酔銃を使わなかったの? 人間の命を救うために、ゴリラは殺してもいいの? だめだ、どうしても許せない! ローズは、夫のために、自分のために、正義のために、人間に対して、裁判で闘いを挑む! アメリカで激しい議論をまきおこした「ハランベ事件」をモチーフとして生み出された感動巨編。第64回メフィスト賞満場一致の受賞作。
問題作だろうが異色作だろうが構わず面白ければ何でもアリを謳うメフィスト賞から輩出された感動的なリーガルミステリ、ゴリラ裁判の日。
今回はなんとゴリラが裁判を起こすという、一見するとウケ狙いで書かれたんじゃないかとヘラヘラ笑ってしまいそうな作品が満場一致で選出されたというのだからヘラヘラ笑って買ってしまった。
しかしそれは間違いだった。
本作はゴリラを通して人間を描き切った紛れもない感動巨編で、ことあるごとに深く考えさせる要素を持ったあたかもジャングルのごとく懐の深い作品だった。
ヘラヘラ笑って読み始めた私が泣きながら読み終えたのだから、それは間違いない。
本作の魅力について詳細に見ていこう。
本作はニシローランドゴリラのメス、ローズが人間の言葉を解するというところから物語が始まる。
彼女の視点から描かれるジャングルは光に満ち溢れていてときに厳しく、人間やゴリラは気高くて力強い。
世界がみずみずしく、そしていきいきと描かれる簡潔な文章が本作の根幹にあり、決してゴリラでウケを狙うような作品などではないということを先制で叩きこんでくる。
この地点ですでに面白いので、買うか迷ったらまずは公式サイトでの試し読みをしてこの感動を味わおう。
そして「これは買いだ」と決意を固めるのがよいだろう。
人語を解するローズが声を獲得する場面は実に感動的。
人間の技術者が手話をもとに音声を合成するグローブ型デバイスをローズに提供した際は、ゴリラが拳を使って歩くから手の甲に精密機械を入れると壊れるんだという点を知り改良するところはなんとも相互理解的だし、ローズが実際に手話を用いて声を出せたときは思わずおお、とため息が出る。
そこからローズは自分の声色を想像するのだが、若すぎるものは合わないだとか、人間さながらにあれこれと悩む様子は思わずローズを応援したくなる。
ついに自分に合う声を見つけ、手話から音声を合成して声を手に入れるシーンは読者までやったねローズ! と喜んでしまうのではないだろうか。
声を手に入れるという部分だけでもこれだけ手厚くて心理を丁寧に描き出しているところが、本作の満足度が高い所以。
こうした人間的なゴリラのローズの描写をひたすら丁寧に、しかし全然飽きさせないで着実に積み重ねていくのが本作の強いところ。
ついにローズはアメリカの高官と面談し、夢だった都会の動物園に移住することになる。
そこではゴリラの旦那も見つかり、人間の友人としての園長や韓国人ラッパーのリリーと知り合うなど、ひたすらに鮮やかなサクセスストーリーが巧みに描き出される。
人語を理解して手話を操るのだから、物珍しさに惹かれたインタビューにもローズは答える。
「繁殖の予定はありますか?」なんていう失礼な質問に対しては「貴方の夜の生活をここでお話しいただけるなら、そのあとで質問にお答えします」などというウィットに富んだ答えだってしてしまう。
実に痛快で、ローズとともに読み進める本作がつまらなくなるところがどこにも存在しない。
しかしいつまでも成功は続かない。
ゴリラの檻に落ちてしまった男児を救うためにと、旦那であるゴリラのオマリは銃殺されてしまうのだ。
ローズは「旦那が銃殺された」と警察に通報。
いや旦那っていったってどう見てもこれはゴリラやないかい、と警察。
ゴリラの命は人間の命よりも軽いというのか?
納得いかないローズは裁判で動物園と戦うことを決意する。
しかしこの裁判、ある意味当然ながら負けてしまう。
保護されている鳥獣といえど人間の命のほうが重いのだから。
ローズは失意の中、インタビューで「正義は人間に支配されている」と発言する。
そして彼女の生活は新たな次元へと突入する――
新たな次元の生活もとんでもないエンタメに満ちているので、とにかくずっと失速しないで面白いのだ。
ここまでひたすらにローズの生活の話しかないので、いやいやどういうことやねん、結局ここからどうなるねん、と思うあなたは正しい。
ここから先、ローズの人生が丁寧に描かれたことによる思わぬ大逆転が待ち構えているのだ。
この思わぬ大逆転こそがミステリ的な喜びに満ち溢れている、と私は感じた。
一見するとミステリとしては無駄に見えるローズの半生の描写だが、これが最後に強烈に生かされてくるつくりには驚かされた。
その弁論には強く強く納得し、涙さえ誘ってしまう。
ローズは果たして人間なのかゴリラなのか。
正義とはいったい何なのだろうか。
ローズの生き方は最後にどのような景色を見せてくれるのだろうか。
感動巨編と表現されるにふさわしい、みずみずしくて懐の深い、新時代のリーガルミステリを楽しんでいただきたい。
きっと読後のあなたの世界はみずみずしい輝きに満ちているはずだ。
1位
もうゴリラ裁判の日が1位です。
さっきからこれが1位ですよばっかり言ってる。
でも私が決めた1位はほかにある。
最もミステリ的で、最も小説を読む喜びがあって、最も自分が好きだと感じた作品。
本当に、本当にわずかな差でしかないということは繰り返し言っておきたい。
1位として苦しみ悩みぬいて選んだのは、集計期間ギリギリで現れた巨大な軍艦。
個人版このミステリを薦めたい!2023は岡本好貴著、帆船軍艦の殺人を1位として選出した。
![](https://assets.st-note.com/img/1700406291419-9iumMmm2C8.jpg?width=1200)
1795年、フランスとの長きにわたる戦いによって、イギリス海軍は慢性的な兵士不足に陥っていた。
戦列艦ハルバート号は一般市民の強制徴募によって水兵を補充し、任務地である北海へ向けて出航する。
ある新月の晩、衆人環視下で水兵が何者かに殺害されるが、犯人を目撃した者は皆無だった。
逃げ場のない船の上で、誰が、なぜ、そしてどうやって殺したのか?
フランス海軍との苛烈な戦闘を挟んで、さらに殺人は続く。
水兵出身の海尉ヴァーノンは姿なき殺人者の正体に迫るべく調査を進めるが――海上の軍艦という巨大な密室で起きる不可能犯罪を真っ向から描いた、第33回鮎川哲也賞受賞作。
18世紀末のフランス革命を皮切りに、ヨーロッパ全土はフランスの王政の否定を防ぐべく対仏大同盟を結成。
その中でイギリス海軍は北海でフランスに対して通商破壊作戦を展開する……といった歴史的な背景がある本作。歴史は詳しくないから間違ってたらすみません。
本作の魅力は過去にない帆船軍艦上での連続殺人を、強制徴募によって集められた素人水兵の視点から水兵生活や戦争を描き出しながら、本作の舞台である船上(戦場)でのかつてないトリックを見事に描き出した創意工夫にある。
本作の魅力をより細かく説明する。
本作の主人公は強制徴募の憂き目に遭った靴屋のネビル・ボート。
妻は子を身ごもり、幸福が約束されている中で酒場で酒を楽しんでいたところ、イギリス海軍の強制徴募によって無理矢理に軍艦ハルバート号の水兵として働くことを余儀なくされてしまう。
今さらではあるが、強制徴募というのは強制力を持って一般市民を徴兵できる仕組みのこと。
死刑と水兵どっちがいいかと問われて死刑を選ぶ者がいるくらいには過酷といわれる当時の水兵、その生活がネビルを待ち受けているのだからいきなり暗澹たる気持ちになる。
それはあたかも前年のアガサ・クリスティー賞受賞作品「同志少女よ、敵を撃て」のような苛烈な物語の始まりで、死刑のほうがマシとまで言われる船上生活にはまるでデスゲームもののような陰鬱な気分にさえさせられてしまう。
とはいえネビルが新兵だからこその描写が21世紀の私たちにとって心強くもある。
そもそも私たちもネビルも、帆船軍艦がどういうものなのか知らないのだ。
となれば士官たちが解説してくれるのは道理。
強制徴募されたネビルらが可哀そうではあるが、彼らのおかげで舞台の説明が自然となされているのはありがたいところ。
帆船軍艦は帆を張って風を受けて進む。へえ。
じゃあどうやって張るか。
マストを伝って登って己の手で張れ。落ちたら死ぬぞ。
無理だと? 貴様は上官に逆らうのか。
ビスケットに蛆がいる?
嫌ならおまえの分は無しでもいいぞ。
飢え死にするわけにはいかないから、ぐっとこらえて蛆を取り除いてビスケットを食べざるを得ない。
厳しい戦闘訓練だってあるし、交代制の業務が常にある。
睡眠だって交代で取るし、そもそもベッドなんて贅沢なものはない。
生活に不満? 上官に口答え? 規律に違反?
そのようなことがあれば、全員の目の前で鞭打ちの懲罰が待っている。
人の尊厳を破壊し、懲罰をちらつかせ、恐怖で船員を縛り付ける。
威容を持って海を進む帆船軍艦の内部ではこのようなことが日常茶飯事。
ネビルは苦しい生活に耐え忍びながら、妻と子の元に帰りたいと強く強く願うのだが、この生きざまに思わずネビルを応援したくなってくる。
苦しい生活ではあるが、ネビルには苦楽を共にする仲間もいる。
食卓仲間のリーダーのマンディ、黒人水兵のコグ、中国人のチョウ、ネビルの友人のジョージといった個性豊かな仲間たち。
彼らとともに愚痴を言いながら食事にありつき、ラム酒の水割り「グロッグ」で一杯やりながら陽気な水兵を演じるのだ。
本作を読んで気づかされるのは、陽気な水兵という一般的なイメージはあまりにも過酷な環境に置かれた水兵らの生存戦略だったのだということ。
苦しい境遇をまともに受け取っていては、精神を病み自殺したり、無理を承知で脱走を試みる者が出てくるのも道理。
そうならないためには仲間たちと酒を呑み陽気に歌って踊る。
わずかな娯楽を自らの手で生み出さないことには、非人道的な環境で生存なんてできるはずがない。
ネビルはそれを知り、水兵としての自分を作り出して、この環境になじんでゆく。
本作の舞台となる軍艦の説明は、このように人物模様や艦の生活を織り込むように丁寧に為されていく。
この丁寧な仕事の上にいよいよ殺人事件が発生する。
深夜の船上、船員がいるとはいえ闇の中で船員が殺害される。
この異常事態に船長のグレアムは水兵上がりの士官、ヴァ―ノン五等海尉に調査を一任する。
彼が本作の探偵役として水兵たちや士官らの調査を行うが、調査の中で殺人は士官級の人間でないと不可能という疑惑が上がると、事態はただの水兵間の殺人とはいかなくなり、いよいよ複雑に。
さらにはネビルと同じく強制徴募された青年のガブリエルが脱走計画を練っていることをネビルに打ち明けてくる。
仲間になり、妻の元に帰らないかと提案を受ける。
しかしこの計画には大きな壁がある。
当然というべきか、過酷な船上生活に耐えきれず脱走を企てる水兵はごまんといるので、陸に簡単に上げないように見張りは目を光らせているし、そのような大罪を犯し捕まってしまったときには命の保証はないというのだ。
脱走に失敗して殺されてしまっては意味がないし、逃げないことにはもう二度と帰ることができないのではないか。
ネビルは激しく葛藤することになる。
そうした船上のいざこざだけで物語は進まない。
軍艦同士の血沸き肉躍る海戦だって手厚く描写が為されるのだ。
しかし下級水兵のネビルの視点で描かれる海戦、それが陰惨にして凄絶な事態となるのは想像に難くない。
フランス海軍の艦による攻撃でハルバート号は船体に穴が開き、爆発によって船員が血を流し死んでいく。
それでも戦わなければ生き残れないのだから、ネビルたち水兵は怯まずに指揮系統に従って動かざるを得ない。
下級水兵の視点から描かれる血煙漂う海戦は「同志少女よ、敵を撃て」さながらの展開となっており、盛り上がりは最高潮。
だが本作がミステリとして素晴らしいのはここから。
それこそが本作の舞台である帆船軍艦だからこその仕掛けである。
こういった迫力ある描写のある戦闘があるのは嬉しいが、本筋に絡まないとやはりもったいないものである。
本作はこの海戦がトリックに大きく関与しており、その発想、創意工夫こそが素晴らしい。
本作を読む前には「クルーズ船とか豪華客船とかじゃダメなのか」「なぜこの時代設定じゃないといけなかったんだ?」と疑問視していたところだったが、読んでこれは帆船軍艦でなければ成しえないトリックだと理解したときにはただただ感服した。
ことトリックの巧さについては鮎川哲也賞の審査員全員が高く評価していることもあり、わざわざ私の口から言うこともないだろうが、それでも本作の創意工夫は見事だと感じた。
最後には殺人犯は判明するのか。
ネビルは脱走を選ぶのか、それともどうやってこの生活に折り合いをつけていくのだろうか。
そして何より、ネビルは生きて自分の家に帰ることが出来るのだろうか。
読書の旅を通じてネビルとともに険しくも楽しい時間を過ごしてほしい、そんな堂々たる冒険ミステリだと感じた。
最後にはなるが、1位と2位の順位付けについて。
せっかくのランキング企画なのだから無理やりにでも理由を付けて大賞は選出したかったので、ひたすらにどちらを推すかを考えた。
「ゴリラ裁判の日」と「帆船軍艦の殺人」はともに壮大でトリック部分のための描写の積み重ねが素晴らしく、長編ミステリとして甲乙つけがたかった。
「ゴリラ裁判の日」はみずみずしい文体でゴリラを通じて人間を描き出す手法が素晴らしく、痛快でありながら考えさせる内容に富んでおりリーガルミステリの妙味を十全に味わうことが出来る。
「帆船軍艦の殺人」では英仏の海戦や18世紀のヨーロッパの情緒を感じながら、過酷で終わりのない水兵生活と得体のしれない連続殺人犯を追うスリリングな展開を楽しむことが出来る。
もうランキングなんか作らなくていいじゃないか、両方最高です、で〆たらいいじゃないか、とさえ思うほどに両者の実力は拮抗し、頭の中ではゴリラと軍艦の異種格闘技が繰り広げられる毎日だった。
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帆船軍艦はなんかうまく出せなかったので上手い人代わりに頑張ってください(?)
明暗を分けたのはこの企画の原点。
薦めるのはミステリであるということ。
ミステリとして薦めて、相手がより納得してくれそうな方こそが1位に相応しいのではないか?
「ゴリラ裁判の日」はたしかにエンターテインメント性は素晴らしく感動的ではあるが、ミステリとして考えたときに一般的にイメージされる事件が描かれていないところがあり、探偵も出てこない。
誰にとってもミステリとして受け止められる作品かというと、いささか疑問が残る。
対して「帆船軍艦の殺人」は非人道的な環境で生活する水兵の生き方と過酷で壮絶な海の戦いを描く作品で、「ゴリラ裁判の日」と同じくらい物語そのものを楽しませてくれるうえに、殺人事件というこの上ないミステリらしい展開が待ち受けている。
両者ともども甲乙つけがたい面白さがある以上、よりミステリらしい作品を大賞として選出するのが妥当であろうという考えの元、個人版このミステリを薦めたい!2023は「帆船軍艦の殺人」とした。
総評
以上が自分が選んだ今年のミステリ上位5作の感想というか推薦理由まとめである。
思い返せば本年のミステリは明確なハズレを引くことがなく、どれも一定以上楽しむことができた。
8月には百鬼夜行シリーズ最新作の「鵼の碑」が17年の時を経てついに書店に並ぶという歴史的な出来事が起こり、9月の「でぃすぺる」「午後のチャイムが鳴るまでは」の推し作家波状攻撃には嬉しい悲鳴を上げ、10月には「帆船軍艦の殺人」がすべり込むなど、期末ごろにかけてイベントが多くあった年だったように思う。
また、1,2,3位の選出にも悩んだが、4,5位にも散々悩まされた。
4,5位には「ちぎれた鎖と光の切れ端」「十戒」と同じくらい好きな作品として、死後の世界、いわゆる天国にて、自分自身の死の謎を解くべく記憶を失った仲間たちと過ごしていく無駄のない高完成度の作品「クローズドサスペンスヘブン」(五条紀夫)、現金輸送車襲撃犯と収監された猟奇殺人鬼「ヴァンプドッグ」が織りなす、マリア&漣が活躍する理系ミステリシリーズ4作目「ヴァンプドッグは叫ばない」(市川憂人)も本当におすすめしたい。
これら4作のうちでどれが好きでどれを薦めたいかを入念に考慮した結果、「クローズドサスペンスヘブン」と「ヴァンプドッグは叫ばない」を泣く泣く選外としてしまった。
もし30作品とか読めていれば10枠くらい紹介できていたであろうと考えると申し訳なくもあり、逆にもっと紹介したい作品が増えて収拾がつかなくなっていた恐れもあるわけで、どうしていいかわからないところもあった。
それでもこうしてまとめを書き上げてみるというのは、意義のあることだったと思う。
来年も変わらずミステリを読んで新鮮な驚きに触れては感想を書き、思い返すように好きな作品を再読するような生活でありたい。
今年のミステリの紹介はこれにていったんの〆とさせていただきたい。
もしこの記事を読んでミステリを読んだという人や紹介した作品を買ったという人が出てきてくれたら、これ以上嬉しいことはありません。
逆にこのラインナップでアレを読んでないのかよ!!という声があったら直接推薦文を叩きつけに来てほしい。
私と推しミステリで勝負だ!!!!!!!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。