レース模様の図書室、再訪|影山多栄子《1》|図書室の精霊
Text|KIRI to RIBBON
クレマチス・アーマンディの白い香気が過ぎ、花水木の開花と共に草花が煌めきを増す頃——鬱蒼の緑の奥にひとときひらかれる図書室があります。そこは一風変わった図書室。書物と一緒に、書物と暮らしてきた少女たちの営みが、レース模様に編まれて並んでいます。精霊たちも住んでいるようです。
1年の時を経て、ふたたび扉の前に立ちました。あの日と同じように、小鳥の囀りが聞こえてきます。
季節は巡り、様々な物事が移ろい、変化を余儀なくされる中、少女たちが少女たちのまま帰ってくることができる場所へ——
そっと、扉をあけてみましょう。
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ひんやりとした菫色に囲まれた、レース模様の図書室。あの日と変わらぬ菫色に安堵し、再訪できた喜びをかみしめながらしばらく佇んでいると、書物の間を動くちいさな影の存在に気づきました。
懐かしく、温かで、やさしさとやわらかさに満ちていながら、遠い彼方の気配を纏っている存在。どうやら、図書室に住まう精霊たちのようです。
最初に姿を見せてくれたのは、白い角と薔薇色の耳が特徴的な精霊(四つの耳との噂も)。無垢でありながら、いつも遠くを見ているような眼差しは、書物の中に広がる果てしない世界を旅してきた証のよう。
図書室の少女たちが、楽しそうに目撃譚を語り合っていました。胸元の飾りボタンは、少女たちからの贈り物だそう。
少女たちが纏うドレス、髪を飾るリボン、頁をめくる手を包むアームコルセット、書棚やコーヒーテーブルに敷かれた一枚——図書室のあちこちに透けるレースに紛れて、透明な耳を持つ精霊が白い影として現れました。
読書をしている時、ある一節に出会って、こころが揺れる時があります。そんな時、白い影も一緒に揺れています。少女たちの繊細なこころの模様に寄り添うように、その白い影は、姿は判然としていなくとも、いつも少女たちを気にかけてくれているようです。類稀なる想像力と魔法の指先持つ紡ぎ手が、精霊たちを通して、少女たちを見守っているのです。
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銀色の縁飾りのある書棚には、重厚な辞典類が並んでいました。少女たちが手にするには重く大きく、しかし聡明な少女たちは、その知識の大伽藍にいずれ挑むつもりでいることを、時折話し合うのです。
そこで出会った精霊は、少し近寄りがたい面差しをしていました。辞典類の革装丁と同じ色のドレスを纏い、頁をたたんだようなお帽子を身につけています。少女たちや他の精霊たちから少し離れた場所にいて、いつもひとりきりの時間を大切にしています。
少女たちは、いますぐには打ち解けられなくても、その精霊が自分たちの未来に必要な存在であることを知っています。
一番ちいさな精霊なのに、存在感は超巨大。菫色の小部屋に定期的に襲来する未確認飛行物体が、再訪した図書室でも目撃されました。
その種族の名は「こっぱのこ」——
民芸のぬくもりがありながら、時や場所を自在に超えゆくアヴァンギャルドな種族。
今回出会ったこっぱ族は、頽廃のアブサン色を纏っています。こっぱ族流「アブサンの文法」を堂々とみせつけています。ひそかにこっぱ族の長老もきているらしいと、少女たちは瞳を輝かせて話していました。
一冊の書物は、見知らぬ外つ国への扉。心を震わせながら幾度、頁をめくったことでしょう。多感な少女の頃、図書室に並ぶ背表紙を見ながら、まだ見ぬ広い世界を想像して、ちいさく思えるこの場所から羽ばたくことを夢見てきました。
そんな時、実はじっと見守ってくれていたちいさな精霊たちがいたこと——人形作家・影山多栄子さまの個性豊かな人形たちとひととき過ごした後、その気配をとても身近に感じています。
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影山さまのblogで本展出品作をご紹介中です。愛らしい後ろ姿も激写されていますので、お人形の様子が全方位でわかります。併せてぜひご高覧ください。
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作家名|影山多栄子
作品名|図書室の精霊
石粉粘土・アクリル絵具・布・ポリエステル綿ほか
作品サイズ|身長18cm/座高12cm(角を含む)
制作年|2021年(新作)
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作家名|影山多栄子
作品名|透明な耳
石粉粘土・アクリル絵具・布・ポリエステル綿ほか
作品サイズ|身長29cm/座高20cm(耳を含む)
制作年|2021年(新作)
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作家名|影山多栄子
作品名|枯淡の花
石粉粘土・アクリル絵具・布・ポリエステル綿ほか
作品サイズ|身長27cm/座高19cm(ブリムを含む)
制作年|2021年(新作)
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作家名|影山多栄子
作品名|こっぱのこ(6種)
楠・アクリル絵具
作品サイズ|2〜3cm
制作年|2021年(新作)
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