少女の聖域vol.3|青木瞳|謎は解かれなくていい
魔法の一種にまじないというものがある。
まじないを呪いと書いてしまうと悪いもののように思われるが、本来まじないという言葉には、良い意味と悪い意味の両方が含まれている。
魔法自体、白や黒など色分けされたりもするが、使い方によってはどちらにも転ぶ両義的なものなのだ。
小さな画面の隅々までびっしりと描き込まれた青木瞳の作品は、細密画と呼ばれるに相応しい。
シンメトリーにデザインされた世界の中で、不思議な生き物が蠢き、髪が絡みつく。それはまるで永遠に終わらぬ呪文を唱え続けるかのようであり、全ての謎が解き明かされることは決してない。
あれが欲しい、こうなればいい、思い通りになりますように、もっと手に入るはず、もっと、もっと。
願いを叶えるために沢山のものや人を犠牲にした。それでも満たされることはない。欲望の祭壇に鎮座したまま、溢れ出す願いにがんじがらめになった少女。鋭い棘はちっぽけな自分を守るため。長い髪は醜い自分を隠すため。何も見ないように呪いをかけているのは自分自身。
魔法はときとして反転することがある。縛るはずのものが縛られる。言葉が祈りにも呪いにもなるように、呪文は注意深く唱えなければならない。
細部に目を凝らせば凝らすほど、不思議な世界が見えてくる。ひとつひとつ読み解く楽しさと、引き込まれそうになる怖さが共存する青木瞳の作品。
目眩く装飾に彩られて、虚空のような余白に浮かび上がるのは、魔法が隅々まで充満した豪奢な空間だ。
小さきものを愛し庇護する存在。
見捨てられ行くあてのない子猫たちは、それを慕い足元にまとわりつく。人のような鬼のような異形の姿であれど、愛おしむ心は変わらない。
顔は失われ前世の記憶を無くしていても、少女の優しさという魔法は子猫たちを守る。
少女は常に搾取され消費される危険にさらされている。
水底で人魚は呪文を唱え、嵐を呼ぶ。
大切な思いや大事なものを盗まれないように。奪おうとする者から自らを守るために。
少女が少女で在るために、魔法を駆使して人魚は戦う。
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作家名|青木瞳
作品名|まじないの代償
ペン・透明水彩・マットサンダース紙・木製パネル
作品サイズ|18cm×14cm
額込みサイズ|27.7cm×22.6cm×3.5cm
制作年|2022年(新作)
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作家名|青木瞳
作品名|ゆりかご鬼
ペン・透明水彩・マットサンダース紙・木製パネル
作品サイズ|18cm×14cm
額込みサイズ|27.7cm×22.6cm×3.5cm
制作年|2022年(新作)
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作家名|青木瞳
作品名|荒天を誘う
ペン・透明水彩・マットサンダース紙・木製パネル
作品サイズ|18cm×14cm
額込みサイズ|27.7cm×22.6cm×3.5cm
制作年|2022年(新作)
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