ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 3|骨董屋《1》
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ツアーDAY 3——本日はレスター・スクエアからスタートです。小説『骨董屋』より、少女ネルの祖父が営む骨董屋に到着しました。
軋む扉を開けて薄暗い店内に入り、目が慣れてきた頃に奥の方に見つけたのは、はっとする清廉な白を纏った、影山多栄子さまの静かな面差しのお人形。そしてその横には、ちいさな木彫りの個性的な面々が集合していました・・・
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ネルと骨董屋
『骨董屋』は、語り手がロンドンの街中で少女ネルと出会う場面から始まる。道に迷ったという彼女を案内していった先で見たのは、ネルの祖父が経営する骨董屋であった。語り手は、まだ幼い少女であるにもかかわらず、年老いた祖父の世話をし、彼女自身の世話をする人は誰もいないというネルを不憫に思う。もっと彼女を気にかけた方がいいのではないかと彼女の祖父トレント氏に意見するが、自分は何よりもネルのことを考えている、と反論されてしまう。
語り手は、古びた骨董品に囲まれた可憐なネルは、まったくその場にふさわしくない存在であると考え、家に帰った後も、一人孤独な家で過ごすネルに思いを馳せる。だがここでネルの姿は、同情を誘うだけではなく、語り手の想像力を大いに刺激する対象として描かれている。骨董屋の古びた品物の中にいる可憐なネルというコントラストが、彼女の孤独をより感じさせ、まるで彼女が寓話の人物であるかのように語り手に感じさせる。古くグロテスクなものの中で唯一純粋で若さにみちた存在である、という強烈なイメージが頭から離れなくなった語り手は、夢の中でも、恐ろしく醜悪なものに囲まれて静かに眠る美しいネルの姿を見る。
骨董品に囲まれた若く美しいネルは、その強烈なコントラストによってより注意を引く存在になり、見られる存在となっている。これは、ネルが祖父との旅の道中で移動蝋人形館で仕事をするようになった時に、一番の呼び物となった見世物が蝋人形ではなくネル自身であったように、作中で繰り返し見られるイメージである。古い骨董品と強いコントラストを放つことで、ネルは彼女自身が一番遠い存在であるはずのそうした品物たちとの境界を曖昧にする。語り手が夢に見た、骨董品の中で眠るネルのイメージも、彼女自身が見られる対象としての品物のひとつであることを示唆しているかのようである。
パンチとジュディ
ネルと祖父は、ロンドンから逃れる道中で様々な旅芸人たちと出会うことになる。通りかかった教会の墓地で最初に出会ったのが、大衆的な人形芝居であるパンチとジュディの劇を演じて旅するコドリンとショートであった。『骨董屋』には大衆娯楽が様々な形で登場するが、パンチとジュディの劇も、当時人々に人気のある大衆娯楽だった。
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作家名|影山多栄子
作品名|骨董屋の人形
作品の題材|『骨董屋』
石粉粘土・アクリル絵具・絹のすが糸・コットン他
作品サイズ|33cm
制作年|2020年(新作)
埃の匂いが漂う薄暗い骨董屋で、窓から離れた奥の棚であるにもかかわらず、その人形にだけ、うっすらと光が差している。時を重ねながらも、手入れの行き届いた折り目正しさがあり、少女の人形でありながら、角度によって大人びた表情を見せ、無垢と老練が光と影のようにたゆたっている——
影山多栄子さまの人形は、可憐でありながら、そこはかとなく小暗い雰囲気を宿しているのが魅力です。わかりやすいダークさではなく、清廉ゆえに逃れられない、無垢ゆえに際立つ存在の暗さのようなもの。そしてその暗さは、人形自身の表面にわかりやすく具体的に現われ出ているものではなく、何かちょっとした光の加減などで見えてくる極めて微細な現象のようです。
その暗さは、物語世界への扉を開きます。人形作家の指先が紡ぐのは、私たちがまだ知らない物語や忘れてしまった物語。ディケンズの世界を旅した影山さまの足跡に、私たちは骨董屋で出会いました。
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作家名|影山多栄子
作品名|こっぱのこ
作品の題材|『骨董屋』
楠・アクリル絵具
作品サイズ|1.5cm〜3cm
制作年|2020年(新作)
現代でも各地で襲来情報が寄せられているちいさな木彫りの人形「こっぱのこ」。このほどヴィクトリア朝ロンドンの骨董屋に現れたとの情報が寄せられました。急遽ツアーに骨董屋が組み込まれた真相はこっぱのこにあるようです。
襲来情報は寄せられるものの、駆けつけた各所ですでに消息不明であることが多く、なかなかその生態を克明に記した文献は発見されていません。骨董屋で目撃されたこっぱ達は、ひときわ個性的な佇まいであるとの噂——すんでのところで、幾人かを捕獲しました。
ヴィクトリア朝ロンドンより東京へ持ち帰りますので、いましばらくお待ち下さい。
骨董屋にはもう少し滞在します。
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