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魔女たちの香り
小さい頃、よく魔女に出会った。髪や衣から古く湿ったいい匂いがするからすぐにわかった。ときに街角の市場で、ときに博物館や図書館で、ときに遊びに行った誰かの家で、魔女たちはまちまちの格好をしながら、ゆったりと時間に溶け込んでいた。
スコットランドでは、どの街にも魔女がいる。北の険しい山間の方の小さな町や村では、箒に乗ってとんがり帽子をかぶった絵姿の看板を吊るしたお店をたまに見かけた。たいてい、薬草や香料の瓶が棚に並べられていて、虹の端から端までの色をそろえた鉱物があったり、奇妙な形の蝋燭があったり、どこか遠い国の織物があったりした。店主のなかには、旅芸人に学んだ占いを得意とする魔女もいて、カウンターに寄りかかって村の人たちがおしゃべりをしながら長居していた。私はたまに両親にせがんで、鉄橋を渡って荒地の先までドライブしてようやくたどり着く、こじんまりした漁村に店を開く魔女に会いに行くのが好きだった。
ところで、魔女たちはほんとうにいたのでしょうか。やがて引っ越しをし、誰も魔女を知らない街で長く過ごして、いつの間にか大人になり、あの湿った植物や油や古びた書物の香りをすっかり忘れてしまった。ほんとうは、魔女なんていなかったのかもしれない。すべては子どもの夢みたまぼろしだった。それか、もう私には魔女を見つけ出すことはできなくなってしまったのかもしれない。大きくなったら、たとえ妖精の粉があっても空を飛べなくなるように。
そんなことをときおり思いながら、どこか諦められずに生きていたとき、私は昔なつかしい魔女の店を吉祥寺に見つけたのです。
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