ガーリエンヌ|ペガサスのいる場所
ミストレス・ノールさんと出会ったばかりの頃、文学フリマの出展ブースに来てくださったことがあります。混雑した空間に軽やかに現れ、素敵な言葉をくださり、そしてまた軽やかに去っていかれた――同席した友人が「ペガサスみたいな人だね」と言ったのが印象的でした。
ぺガサスとは霊感、不死の象徴。大げさな例えかもしれませんが、その通りだなと私も感じたことを憶えています。
イギリスの耽美なロックデュオ・Hurtsをきっかけに、ノールさんと「霧とリボン」に出会ったのが2013年のこと。以来10年にわたって交流を深めてきました。
私が主宰する「花園magazine」誌面へのご登場だけでなく、企画展《Girl & Paper 女の子はお砂糖とスパイスと素敵な“紙モノ”でできてる!》を共同開催する栄誉にもあずかりました。
最終日には店舗2階で、サロンイベント「《女子と紙と応接間文化》を語らう夕べ」も。“応接間文化”というキーワードについて、ノールさんがブログに当時このように綴っています。
美しい蔵書やこだわりのしつらえ、茶器や紙アイテムが並んだ応接間に足を踏み入れた瞬間は忘れられません。懐かしいのに新しく、ガーリーなのにシック。なによりもノールさんの夢と情熱を感じ、感銘を受けたものです。
そんな空間で、お茶とワイン、軽食とお菓子をいただきながらの語らいは、上質で素晴らしいひととき。「菫色の小部屋」名物(?)アブサン・ファウンテンから注がれるアブサンは耽美の味で、文字通り陶酔しました。
夜も更け、そろそろお開きという頃、天気予報外れの大雨が降りだしました。徒歩ではとても帰れない土砂降りで、タクシー会社に電話しても、混み合っていて、いつ着くかわからないとの返答。
大雨で外界から閉ざされた応接間は、まるでミステリー小説の舞台のよう。窓ガラスを叩く雨粒を見つめながら、酔っぱらった頭で、「このまま閉じ込められて、思わぬ物語が始まったら……」などと考えていたことを思い出します。
やまない雨はなく、明けない夜はなく、終わらないものもありません。
思い出の詰まった「菫色の小部屋」が年内でいったん閉幕することは、とても名残惜しいです。機を同じくして、企画展の打ち上げでノールさんと伺った山の上ホテルの無期限休業が発表されたことも、さみしさに拍車をかけます。
ですが、文化とは守り、創造し、伝えて、つないでいくもの。そこに意志がある限り、灯った火は消えないということを、ノールさんには教えていただきました。
地上のどこか、ペガサスが舞い降りる新天地で。再び菫色の小部屋に訪れることを、楽しみにしています。
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