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Miss Moppet Dolls|パティスリーの天使たち

 内緒の話をしてあげる。
 あのお菓子屋さん、菫色の壁紙の、かわいいパティスリー、あそこにはお菓子の天使が住んでいるの。

 昼間はお人形のふりをしているけれど、こっそり目配せしあっているのを見たわ。
 ほら、お店のテーブルの上にお行儀よく座っているお人形、覚えているでしょう?

 片方は、きっとショートケーキの天使ね。

 だって、ショートケーキがドレスを着ていたらこんなだろうって、想像していた通りだもの。
 ふんわりした生地のスカートに、銀のアラザンみたいなビーズをちりばめて、クリームみたいな白いレースのエプロンを重ねて。

  生クリームと苺を、スカートの裾に飾って、ヘッドドレスはひとくちサイズのかわいいケーキ。

 お澄まし顔のお姫様。

 もうひとりは、たぶんすみれの砂糖漬け。

 夢見る瞳とまるいほっぺをした、小さなお嬢さん。

 雪みたいにお砂糖みたいに白いレースのドレスに、菫いろの花びらが散っていたわ。

 天使の魔法がかかっているから、あそこのお菓子はあんなにおいしいのね。
 それとも逆? おいしいお菓子を作っていたら、天使が生まれたの?
 どうして笑うの?

 それだけじゃないの。

 あのパティスリーから、お菓子の箱を抱えて出てくる幸せそうなお客さんたちの胸にね、天使の手が触れているのが一瞬、見えることがあるのよ。

 それにお菓子を食べると、胸にお菓子の花が咲いたような気持ちになるの。
 外からもそれが見えるかもしれないわ。

 お菓子って魔法なのね。
 ねえ、だからもう一個だけ、プリンを食べちゃだめ?

Miss Moppet Dolls|人形作家 X
2000年ころから人形制作を始める。2013年よりビスクドール(主にアンティークドールのリプロダクション)を学ぶ。不定期にクラフト、ドール関係のグループ展に参加。2018年・2019年Silent Music「祈りの光」展参加。2017年より恋月姫人形教室「銀の翼」所属。

川野芽生|小説家・歌人・文学研究者 →Linktree 
1991年神奈川県生まれ。2018年に連作「Lilith」で第29回歌壇賞、21年に歌集『Lilith』で第65回現代歌人協会賞受賞。24年に第170回芥川賞候補作『Blue』を刊行。他の著書に、短篇小説集『無垢なる花たちのためのユートピア』、掌篇小説集『月面文字翻刻一例』、長篇小説『奇病庭園』、エッセイ集『かわいいピンクの竜になる』、評論集『幻象録』、歌集『人形歌集 羽あるいは骨』『人形歌集II 骨ならびにボネ』がある。2024年7月、第二歌集『星の嵌め殺し』刊行。



作家名|Miss Moppet Dolls
作品名|ショートケーキちゃん

ビスク・シルクスライバー・ビーズ・革・布など
作品サイズ|約15cm
制作年|2024年(新作)
*箱付き

作家名|Miss Moppet Dolls
作品名|violette cristallisee(すみれの砂糖漬け)

ビスク・シルクスライバー・ビーズ・革・布など
作品サイズ|約15cm
制作年|2024年(新作)
*箱付き

作家名|Miss Moppet Dolls
作品名|ビスクハンドブローチ(着彩・乳白釉)

着彩:ビスク・回転ブローチピン
乳白色:磁器・回転ブローチピン
作品サイズ|2×4.5cm 
制作年|2024年(新作)

着彩
乳白釉

作家名|Miss Moppet Dolls
作品名|プリンのブローチ

磁器・回転ブローチピン
作品サイズ|4.5×4.5cm 
制作年|2024年(新作)

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