レース模様の図書室、再訪|横井まい子|午後の図書室
Text|KIRI to RIBBON
晩春の美しい光と新緑に誘われて、今日も静やかにレースが舞う図書室に来ました。やわらかな日差しが届く午後の図書室はぽかぽかと暖かく、図書室を包む菫色も微睡んでいます。
1年前に出会った三編みの少女たちが、図書室で待っていました。少女たちの時間を邪魔しないように、そっと覗いてみたいと思います。
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菫色のヴェールの奥に、少女たちはいました。
ヴェール越しに見る少女たちの表情は少し大人びたように感じましたが、図書室の中はパタリと時が止まったように、1年前と同じ心地良さを伝えています。
思い思いに過ごす少女たち——図書室のひそやかな時間は、お行儀の良さは求められるものの、堅苦しい授業から離れ、また校庭での開放感とは違う、内なる自由を少女たちにもたらしてくれます。
色彩が霧のように漂う横井まい子さまの稀有なる水彩画は、紙に定着された絵画でありながら、そのことを疑ってみたくなる程、湿度を纏い空気を含んで佇んでいます。
揺らぐ菫色の中に住まう少女たちは、確かな存在でありながら、姿が判然としない妖精のようにも思えます。
幻想の風景は記憶の風景に似ています。横井さまの水彩画にノスタルジーを感じるのは、そのせい。孤高の美しさを湛える一方で、いつかの私たちを想起することを許容する包容力も備えているのです。
「すみれ色を作るのは、何かを調合するような感じで面白いです」と語る横井さま。アトリエの様子に思いを馳せながら、横井さまが調合した菫色を纏う少女たちとひとときを過ごしたいと思います。
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図書室で書物をひらけば、私だけの特別な時間が流れる。暖かな春の午後、あふれる好奇心が蝶々になって、自由に羽ばたいてゆく——
水彩画のタッチで描かれた、油絵《図書室のてふてふ》。横井さまの絢爛な油絵作品を彷彿とさせる色彩が、微睡みの余韻のように淡く優しく重ねられています。スタンド型の白フレームの内側に、すみれ花が咲いています。
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昨年冬に発表、ディケンズ『大いなる遺産』のミス・ハヴィシャムとエステラを描いたひときわ淡やかな常設作品《鏡の中のヴェール》もレース模様の図書室に飾られています。
純真なこころと多感な精神がレースのように綾なす少女たちの、安息の場所である図書室。色彩のヴェールが聖所のカーテンとなり、少女たちはカーテンを通って自由に行き来を楽しんでいます。
普遍の少女たちを描くことで、私たちの記憶を新鮮に留めてくれる横井さまの画業。調合されたひとつひとつが、少女を構成する不変の要素。またいつか、図書室の少女たちに出会えますように・・・
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横井まい子|画家 →HP
少年や少女の姿を通して自然や物語を絵に表したいと思い描いています。
個展 2018年マリアの心臓(銀座)、アサヒギャラリー(甲府)他、グループ展などで作品の発表をしています。
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作家名|横井まい子
作品名|午後の図書室
透明水彩・鉛筆・アイボリーケント
作品サイズ|31.5cm×22.6cm
額込みサイズ|48cm×39cm
制作年|2021年(新作)
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作家名|横井まい子
作品名|図書室のてふてふ
油彩・キャンバス・ベニヤ
作品サイズ|15cm×10cm
額込みサイズ(スタンド型)|17cm×12.5cm×3.4cm
*壁掛けも可能
制作年|2021年(新作)
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作家名|横井まい子
作品名|鏡の中のヴェール
作品の題材|大いなる遺産
透明水彩・鉛筆
・アイボリーケント
作品サイズ| 18.5cm×26cm
額込みサイズ|26cm×32cm
制作年|2020年(常設作品)
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