ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 4|オリヴァー・ツイスト《2》
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『オリヴァー・ツイスト』あらすじ
救貧院で生まれた孤児のオリヴァーは、過酷な環境の中に耐えかねた子どもたちを代表して粥のおかわりを求めたことで監禁され、徒弟に出される。引き取られた葬儀屋でもつらい仕打ちを受けたオリヴァーはロンドンへ向かい、道中で一緒になった少年ドジャーに案内されて風変わりな老人フェイギンと出会う。
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『オリヴァー・ツイスト』の物語を遡ってみていきます。今回訪れるのはオリヴァーのいた救貧院。
そこでは、カリグラファ・佐分利史子さまの手により繊細かつ凛と仕立てられた有名な一言に出会いました。
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佐分利史子 | カリグラファ →HP
伝統的なカリグラフィ文字を基調とした作品を制作している。文字そのものが持つ何らかの力を、題材(詩や文章)が持つ情景や感情に変えられればと考えています。
紙一枚の形で成立することを前提に、額装も作品の延長として自身で制作していますので、あわせてお楽しみいただけると嬉しいです。
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おかわりを求めるオリヴァー
ディケンズの作品の中でも一、二を争う有名な台詞は、オリバーが救貧院で粥のおかわりをもらいに行く時に言う台詞であろう。養育院で満足な食事も与えられずに他の子どもと同じように折檻されながら育ったオリヴァーは、9歳で彼が生まれた救貧院へと戻される。そこでは苛酷な労働が課されたが、変わらず食事は乏しく、水のように薄い粥を小さなボウル一杯与えられるだけだった。
ひもじさに耐え兼ねた子どもたちは、誰かが粥のおかわりをもらいに行くことを決め、その代表をくじで選ぶ。運悪く、そのくじを引いてしまったオリヴァーは、子どもたちにうながされ、ひもじさと惨めさで自棄になりながら、前に進み出て、粥のおかわりを申し出る。
そんなオリヴァーを待っていたのは、丸まると太った賄い係の絶叫と、教区委員の驚愕の表情、そしてこのような恐ろしい子どもは将来きっと縛り首になるだろうという予言であった。たった一杯のおかわりを求めたオリヴァーは、監禁されて厳しい罰を受けると、厄介払いに徒弟に出されることになる。
まだ20代半ばのディケンズが『オリヴァー・ツイスト』で描いたのは、1834年に制定・施行され、当時賛否両論を巻き起こしていた新救貧法を背景とした救貧院の惨状であった。新救貧法によって、貧者を助ける施設である救貧院は、監獄と変わらない恐ろしい場所となった。そして、真っ先にその犠牲となるのは、オリヴァーのような幼い子どもたちであった。オリヴァーがただ生きるために発した言葉は、教区委員たちの強欲で滑稽な姿とコントラストをなす形で、忘れがたい純粋さを放っている。
熊谷めぐみ | 立教大学大学院博士後期課程在籍・ヴィクトリア朝文学 →Blog
子供の頃『名探偵コナン』に夢中になり、その影響でシャーロック・ホームズ作品にたどり着く。そこからヴィクトリア朝に興味を持ち、大学の授業でディケンズの『互いの友』と運命的な出会い。会社員時代を経て、現在大学院でディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。
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作家名|佐分利史子
作品名|みんなの願い
作品の題材|『オリヴァー・ツイスト』
ガッシュ・鉛筆・アルシュ紙
作品サイズ|16.5cm×24.5cm
額込みサイズ|19.0cm×27.0cm×2.4cm
制作年|2020年(新作)
Text|KIRI to RIBBON
子供たち自身の願いと子供たちへの佐分利さまの願いを大文字に託し、ポスター風のモダンな仕上がりにすることで、その一言の普遍性へオマージュを捧げた一作。
紙の上にあわやかな色彩で書かれたカリグラフィは、水のように薄い粥の上で繊細にゆれる子供たちのこころのよう。色彩はあわやかでありながら、大文字の書体でくっきりと主張するコントラスト。紙の上で展開する文字のドラマはそのまま小説の有名な場面につながります。
佐分利さま自身の手により仕上げられたフランス額装は、お粥のお皿を模しているかのよう。洗練のデザインセンスがヴィクトリア朝の救貧院に物申す、静謐でありながら大胆不敵な一作です。
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★佐分利史子さまの他の作品★
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★作品販売★
通販期間が当初の告知より変更になりました
12月7日(月)23時〜販売スタート
★オンライン・ショップにて5%OFFクーポンが利用できます★
本展のオンライン開催方法と作品販売については
以下をご高覧ください
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