ヒルデガルトの小径|巻頭エッセイ|江口理恵|愛と英知の創造力
ミレニアムという新世紀前夜の1990年代前半、不思議な社会現象が起きた。スペインの名もない修道士たちが歌う『グレゴリオ聖歌』のCDが世界的に大ヒットしたのだ。単旋律のシンプルなチャント(詠唱・聖歌)が日本でも「癒しの音楽」として異例の20万枚のセールスを記録した。
時をほぼ同じくして、中世ドイツのヒルデガルトという名の修道女が作曲した音楽を、米国の現代作曲家がビートに乗せて編曲したアルバム『VISION』 も人気を博した。バブルがはじけ、不穏な空気が漂う世紀末にこのよう