さようなら、我がいとしのワゴンR
ワゴンRを手放すことにした。
19歳からのマイカー。学生時分でも「しっかりした大人」であることを見せつけるために、あくまでローンは自分で支払うことにこだわった。
月々17000円の10年払い。今年の9月で完済する予定だったが、いろいろあって今月買い替えることにした。
ワゴンRと過ごした9年半はあっという間だった。
納車2時間後に近所のスーパーで自損事故を起こし、意気消沈状態で販売店へ引き返した。幸い修理保証プランに入っていたからあまり費用はかからなかった。
当時担当してくれた店員さん曰く「厄落としした」そうらしいが…蓋を開けてみると、全然そうじゃなかった。
社会人になって初めて長距離運転をした。目的は新人研修である。
当時いた会社がそこにあったから致し方ないことなのだが、2時間運転するのも案外どうってことないなと思った。当時22歳、若気の至りだった。
半年後、配属先の店長と反りが合わなくなった。
片っ端から否定された挙げ句、必死で担当業務を全うした後に運転した私は泣きたくてどうしようもなかった。
家に着いたら大号泣していた。母は「よくそんな状態で事故らずに帰ってきたね」と言った。本当そうだと思う。でも、家に帰るまでが仕事でもあったから、一気に力が抜けたのかもしれない。
転属先では尊敬できる同僚に恵まれた。
月曜の遅番、心を許せる先輩と夜遅くまで語らい合った。仕事のこと、職場のこと、将来のこと…とにかくいろんな話をした。二人とも次の日は公休だったから、時間の許す限り語り尽くした。会社に勤めてから一番楽しかった瞬間でもある。
エンジンを吹かし続けて数時間すると「そろそろ休憩しませんか?」とナビが言う。しかし運転はしていない。私はナビに「うるせぇ!!」と言って、先輩との会話を続けた。先輩はちょっと引いていた。
転職に失敗して、各企業へ面接をする日々が続いた。
車で行ける範囲は車で行った。失業手当があったものの、働いていないと返済すらままならないもどかしさを知った。
月々17000円、加えて自動車税7200円、おまけに任意保険月々9000円。そこにガソリン代が入ってくる。嫌でもかかる維持費がストレスになって、数回自分でもどうにもならなくなるほどの癇癪を引き起こしてしまった。
それでも「乗り続ける」ことを選び続けた。というか、選びようがなかった。
これまで4回のリコールに見舞われた。
いずれも無料修理してくれたのだが、業者によってサービスの厚さがまちまちだというのを学んだ。
一番最初に入庫したディーラー(買ったところではない)はやたらティッシュをくれたり定期点検の案内をしてくれたりした。3回目に入庫したディーラーは整備士の兄ちゃんが懇切丁寧に説明してくれ、地元の板金業者で迎えた4回目は何事もなく終わった。
リコールを経ても乗り続けたのは何かしらの固執があったのだろう。それは紛れもなく「金欠」の二文字でしかなかった。
正直言うと、二度とスズキ車には乗らないつもりでいる。
4回のリコールもあるが、一番の原因は他にある。
ブレーキの効きが若干悪かった。
スピードが落ちにくいのかどうかは知らないが、たまに深く踏み込んでも止まらないときがあった。
最も焦ったのはバック駐車したとき。しかも後ろに車がある。冷静になってPにしたら止まってくれた。夏の時期に、それもショッピングセンターで起きたので「ヤバいヤバいヤバい…」と口に出していたし、Pでも止まらなかったらと思うと結構ゾッとする。
あとは当時住んでいたアパートの住人の車に接触してしまったことが結構キた。警察に行ったわ保険等級は下がるわでいろいろバタついた。そのおかげで一ヶ月間代車生活を強いられた。
戻ってきた数日後、リアに大量の引っかき傷があり母が激昂した。私は「乗れればいい」とだけ思ったので特段気にしなかったが、板金業者に見てもらったら「錆の原因になるので早く直したほうがいいです」と言われたので直した。23000円、クレジット一括払い。分割にできなかったため、その月の食費は自炊前提の節約生活を強いられた。
ワゴンRと過ごした9年半は喜怒哀楽というよりも悲喜に満ちすぎた出来事が多かったように思う。それくらいプラスとマイナスの振れ幅が大きすぎて、まさしく「マイカー」の冠にふさわしい存在になったということだろう。
黄砂がすごかったので仕事終わりに洗車していたら、至る所に傷や錆が目立つようになっていた。スズキ車は融雪剤による錆の影響を受けやすいので、長く過ごした年月を感じさせた。
土曜日の午前を以って、ワゴンRの運転をやめる。
事故車ということもあるので、待ちゆく先は生まれ変わる他ない。つまりは「廃車」となるのだ。
新しい車が向かう先は、私を幸せにしてくれるのだろうか?
この国で生きもがくために。新しい時代に。新しい私が。
明るい未来を引き寄せるのは、新しさを身につけるしかない。
といっても買ったのは中古車なので新しいもヘッタクレもないのだが、年式的には新しくなる(2013年式→2018年式)ので私の中では「新しい」に入る。
人生で2度目の大きな買い物。実はむちゃくちゃワクワクしている。新たにまた10年ローンを組んだので、次のマイカーがこれから先の生き字引となってくれることを祈るばかりだ。
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