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物書きナレーターの朗読解釈「ごんぎつね(2)」

半年ぶりの「ごんぎつね」朗読解釈記事です。
(1)では全4回に分けて解説してきましたが、今回は共通ワードが含まれているので単発で解釈していきたいと思います。

【朗読音声】

【記事マガジン】

 十日とおかほどたって、ごんが、弥助やすけというお百姓の家の裏を通りかかりますと、そこの、いちじくの木のかげで、弥助の家内かないが、おはぐろをつけていました。鍛冶屋かじや新兵衛しんべえの家のうらを通ると、新兵衛の家内が髪をすいていました。ごんは、「ふふん、村に何かあるんだな」と、思いました。
「何なんだろう、秋祭かな。祭なら、太鼓や笛の音がしそうなものだ。それに第一、お宮にのぼりが立つはずだが」
 こんなことを考えながらやって来ますと、いつのにか、表に赤い井戸のある、兵十の家の前へ来ました。その小さな、こわれかけた家の中には、大勢おおぜいの人があつまっていました。よそいきの着物を着て、腰に手拭てぬぐいをさげたりした女たちが、表のかまどで火をたいています。大きななべの中では、何かぐずぐず煮えていました。
「ああ、葬式だ」と、ごんは思いました。
「兵十の家のだれが死んだんだろう」
 おひるがすぎると、ごんは、村の墓地へ行って、六地蔵ろくじぞうさんのかげにかくれていました。いいお天気で、遠く向うには、お城の屋根瓦やねがわらが光っています。墓地には、ひがんばなが、赤い布きれのようにさきつづいていました。と、村の方から、カーン、カーン、と、かねが鳴って来ました。葬式の出る合図あいずです。
 やがて、白い着物を着た葬列のものたちがやって来るのがちらちら見えはじめました。話声はなしごえも近くなりました。葬列は墓地へはいって来ました。人々が通ったあとには、ひがん花が、ふみおられていました。
 ごんはのびあがって見ました。兵十が、白いかみしもをつけて、位牌いはいをささげています。いつもは、赤いさつま芋いもみたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。
「ははん、死んだのは兵十のおっかあだ」
 ごんはそう思いながら、頭をひっこめました。
 その晩、ごんは、穴の中で考えました。
「兵十のおっ母は、とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで兵十がはりきり・・・・網をもち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎをとって来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせることができなかった。そのままおっ母は、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいとおもいながら、死んだんだろう。ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」

(2)は、兵十に起きた出来事がごんにとって衝撃的な内容であることが描かれています。
自分には関係なくとも、道端に霊柩車を見かけたりするとなんともいえない気持ちになるのと似ているような気がするのは私だけでしょうか。どちらにせよ、ごんの心情は複雑窮まりないものであることは確かです。

注目キーワード:「思いました」「考えました」

先日TBSを退社された堀井美香さんの著書「音読教室」のごんぎつね解説では、以下の文章が記されています。

前段にある①<「ふふん、村になにかあるんだな」>→<「何だろう秋祭りかな」>と、後段の②<「ああ、葬式だ」>→<「兵十の家のだれが死んだんだろう」>は呼応しています。

堀井美香著「音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック(株式会社カンゼン)」p52より引用

(2)のごんの台詞を全て抜き出してみましょう。

①「ふふん、村に何かあるんだな」
②「何なんだろう、秋祭かな。祭なら、太鼓や笛の音がしそうなものだ。それに第一、お宮にのぼりが立つはずだが」
③「ああ、葬式だ」
④「兵十の家のだれが死んだんだろう」
⑤「ははん、死んだのは兵十のおっかあだ」
⑥「兵十のおっ母は、とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで兵十がはりきり・・・・網をもち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎをとって来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせることができなかった。そのままおっ母は、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいとおもいながら、死んだんだろう。ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」

堀井さんが仰る「呼応」とは一体何か?
それは、ごんが一連の状況を理解していく過程なのではないかと私は考えます。

今度は抜き出した台詞の隣にメモを付け加えてみましょう。
※<>…メモ。私なりの印象を書いています。

①「ふふん、村に何かあるんだな」<興味。ワクワク感>
②「何なんだろう、秋祭かな。祭なら、太鼓や笛の音がしそうなものだ。それに第一、お宮にのぼりが立つはずだが」
<疑問①。この時点では楽しいことを想像している>
③「ああ、葬式だ」<人々の姿を見て察した>
④「兵十の家のだれが死んだんだろう」
<疑問②。服装や女の人たちの様子で葬式と決めつけた?>
⑤「ははん、死んだのは兵十のおっかあだ」<疑問が確信に変化>
⑥「兵十のおっ母は、とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで兵十がはりきり・・・・網をもち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎをとって来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせることができなかった。そのままおっ母は、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいとおもいながら、死んだんだろう。ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」<(1)で描かれたことを後悔>

メモの内容を図式化するとこんな感じです。

①興味

②疑問
(祭りの時期でもないのになにか楽しいことでもやるのかな?)

③察知
(人々の姿を見て楽しくないことをすると肌で感じた)

④疑問
(でもなんで葬式をやるって思ったんだろう?)

⑤確信
(兵十の様子を見た)

⑥後悔

こんなところでしょうか。
台詞の前後の地の文を見てみますと、あるキーワードが共通して記されています。
①の前後文を例に見てみましょう。

ごんは、①「ふふん、村に何かあるんだな」と、思いました。

①~⑥までの前後文を見てみますと、ほぼ全てに「思いました」「考えました」が記されているのが分かります。
④に至っては「思いました」が③の台詞とサンドイッチされているので、ごんの理解過程がベルトコンベアのように変化していっているのが如実に表れているようにも見えます。

(1)の朗読では、悲しさ感に引っ張られないようにできるだけマイナスな要素を取っ払うように読むことを心がけました。
地の文の語りを意識しながら文中の情景を実況し、ごんと人間社会の結びつきを推理してみることでオリジナリティ溢れるごんぎつねに仕上げるコツであるとまとめています。
しかし(2)では一変して、悲しさと後悔が入り交じる展開が広がっています。少し離れたところで人間生活を観察することで兵十に起きた出来事に同情し後悔し、ごんの感情が忙しくなったのでしょう。それはまるで、Twitterでテレビドラマを実況しているドラマクラスタのようでもありますね。

当然、読みの部分においても「思いました」「考えました」の読み方にも変化を付けなければいけません。
朗読音声では、キーワードの読み方に変化を付けてみましたが…どう変わっているかまでは分からなかったらすいません。修行不足ですw

その他気をつけたいこと

  • 文中では彼岸花が踏まれている描写があります。その彼岸花はとても綺麗な咲きっぷりで、誰が見ても息を飲む光景です。
    しかし人間は非情なもので、目の前にあった同族の命が失われると他のことは蔑ろにしてしまうという皮肉を表しているようにも感じます。
    「墓地には、ひがんばなが、赤い布きれのようにさきつづいていました」は情感たっぷりに、「人々が通ったあとには、ひがん花が、ふみおられていました。」は悲しさ100%超で「実況」してみてください。

  • 鐘の音(カーン、カーン)の読み方…SE表記と捉えて無機質に読んでみましょう。できることならその描写だけ鐘になったつもりで読んでみるとなおOKです。
    ごんぎつね世界におけるあの鐘を鳴らすのはあなただけです。

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次回は「ごんぎつね(3)」です。
兵十の人物像メインで描かれています。今までいたずらばっかりしていたごんが映画版ジャイアンみたいになります。

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