推しを食べたオタクの話
はじめまして。ききりと申します。
この記事は mast20アドベントカレンダー参加作品です。
前日と翌日の記事はありません。やたろう君の記事をお楽しみに!
はじめに
さて、mastというのは情報学を学ぶところです。
しかし、高校の時には別のことに取り組んでいたという人は少なくありません。
何を隠そう僕もその一人で、主に生物部にてサンショウウオ(*1)の尻を追いかけていた人間です。
*1 サンショウウオ(山椒魚、鯢、䱱魚)とは、両生綱・有尾目(またはサンショウウオ目)サンショウウオ上科に属する動物の総称である。
特に、ハコネサンショウウオ(*2)という種類。こいつは最高です。
僕の出身地ではレア中のレアといえ、まず男心(コンプ欲・挑戦心)が掻き立てられます。

*2
全長は125~147mm程度で、尾が非常に長い。肋条数は普通14本。鋤骨歯列はきわめて浅いM字型。後肢は5指性で、繁殖期には指端に黒い爪が生じる。背面は褐色で、頭部から尾部にかけて橙~褐色の帯状斑紋をもつ個体が多い。卵嚢は短い紡鐘型。
◎近似種との区別 成体は尾が長く、背中に帯状の斑紋があることで、幼生は四肢の後部にひだがあり、尾のひれの前端が後肢上に位置することで、ほかのサンショウウオ類と区別できる。
僕はこいつを一目見るために道具を買いそろえ、時には遠方まで合宿に赴き、学園祭ではいろいろな人にこのサンショウウオの魅力を伝えるべく熱弁をふるいました。
ここで一般的なオタク(*3)の推しに対する行動と比較してみましょう。
推しを一目見るためにチケットとオタグッズを買いそろえ、遠方への遠征もいとわず、布教するために弁舌をふるう。これがオタク。
*3
オタクとは、特定のテーマやジャンルに強い興味を持ち、そのテーマやジャンルについての深い知識を持つ人のことを指します。 オタクは、多くの場合、アニメや漫画、ゲーム、模型などに対して強い関心を持ち、それらについての深い知識を持っています。 オタクは、自分が興味を持っているテーマやジャンルについての最新情報やニュースを積極的に収集し、自分の深い知識を他の人と共有することが多いです。
オタクは、多くの場合、自分が興味を持っているテーマやジャンルについての情報を積極的に収集し、それらの情報を自分なりに整理して理解するために
つまり僕はオタクで間違いないでしょう。推しはハコネサンショウウオです。本サンショウウオは不本意だろうけど。
そしてこの推し、食べられます(*4)。
*4
可食
読み方:かしょく
食べることができること、食するのに適している物や状態などを意味する表現。
推しに会いに行く旅に出よう
筑波大学があるのは、茨城県つくば市(*5)です。
*5
つくば市(つくばし)は、茨城県の県南地域に位置する市である。業務核都市、国際会議観光都市に指定されている。学術・研究都市としての筑波研究学園都市はつくば市全域を区域とする。
残念ながらこの業務核都市、国際会議観光都市だとか学術・研究都市ではサンショウウオを食べられません。
食用サンショウウオの業務について核都市になれないし、観光に来た外国人はサンショウウオを食べられないし、サンショウウオを食べる研究は……まぁできるかもしれませんね。
ついでにツクバハコネサンショウウオ(*6)という近縁種もいます。
*6
ツクバハコネサンショウウオ(Onychodactylus tsukubaensis)は、有尾目サンショウウオ科ハコネサンショウウオ属に分類される有尾類。
長年、ハコネサンショウウオと同一種とされていたが、2013年、京都大学・教授・松井正文、同・研究者・吉川夏彦により、新種記載された[3]。 特徴は、ハコネサンショウウオ属の他種に比べて尾が短く、幼生の体に銀白色の斑紋が多く、尾の背側にはっきりした黄条があることなど[3]。
じゃあ食べられる場所まで旅行に行きましょう。
(つくば駅から最寄り駅までの経路)
つくば駅
↓ (つくばエクスプレス)
流山おおたかの森
↓ (東武アーバンパークライン)
春日部
↓ (東武伊勢崎線)
東武動物公園
↓ (東武日光線)
南栗橋
↓ (東武日光線)
下今市
↓ (東武鬼怒川線)
新藤原
↓ (野岩鉄道会津鬼怒川線)
会津高原尾瀬口
会津高原尾瀬口駅。かなりレアな野岩鉄道の普通列車を添えて
— ききり (@kiri_chest) June 4, 2022
一応会津鉄道と野岩鉄道の接続駅なはずだけどそんな雰囲気は微塵もないし、接続とかも基本考慮してなさそう pic.twitter.com/y4uf2V5cyA
ちなみに東武特急リバティは鬼怒川温泉駅から先だけなら普通乗車券だけで乗れます。やったね。各駅停車縛りで行ったのでつくばからここまで4時間半くらいだよ。近いね。
で、ここが最寄り駅でここからはバスです。大体1時間20分くらい揺られていると着きます。
一日4往復(もうちょっとあった気もする)くらいのバスに何とか飛び乗っていくと、そこは福島県南会津郡檜枝岐村(*7)です。日本有数の湿地、尾瀬ヶ原(*8)の玄関としても有名です。
*7
檜枝岐村(ひのえまたむら)は、福島県会津地方南西部に位置し、南会津郡に属する村。
日本有数の豪雪地帯で、特別豪雪地帯に指定されている。平家の落人伝説が残る。
*8
尾瀬は日本有数の高層湿原で、尾瀬ヶ原で標高1,400メートル、尾瀬沼で1,660m、平年雪解けは5月中旬、初冠雪は10月末です。
広大な国立公園内は中央に燧ケ岳がそびえ、その南側に尾瀬沼、大江湿原が、西側 には東西6キロ南北2キロの広大な尾瀬ヶ原が広がり至仏山へと続きます。西から北にかけて尾瀬の水を全て集めて落ちる三条の滝、横田代、上田代等の田代群が続き御池に達します。
四季を通じた雄大な自然は人々の心を癒し、活力を与えてくれます。
ド田舎だね
平家の落ち武者伝説がある通り、実際檜枝岐村ではお墓のころとを「廟」と呼ぶなど独特な文化が残っています。これは江戸からの風習だそうですが、檜枝岐歌舞伎という地域伝統舞踊があったり。

それで、その独特な文化の一つにサンショウウオを食す文化があるということです。
推しを食べるオタクの話
サンショウウオというのは、しかし漢方薬(*9)として重宝されてきた歴史があります。実際、檜枝岐のサンショウウオ漁はもともと漢方の原料として山の下との交易に用いられていたものと言われています。
*9
古来より疲労回復・滋養強壮・美肌などに効果があるとして親しまれています。
サンショウウオは標高1,000m以上の針葉樹林帯に生息し、水陸両方に棲める生命力がとても高い動物です。
しかし、同時に深い雪にとざされる檜枝岐では貴重なたんぱく源でもあったのでしょう。(サンショウウオ漁は春から行われるけども)
さて、じゃあ実食してみましょう。山人料理(*10)として、てんぷらにされていることも多いのだけれど、残念ながら僕が行ったとき提供してくれる店は開いていませんでした。
*10
山人(やもうど)料理とは、檜枝岐地方に古くからある伝統料理です。 昔、山で働く男の人達が、そば粉・酒・味噌・塩を持って山に上がり、山で採れる食材と合わせたことから”山人料理”と呼ばれるようになりました。 素朴ながらも深みのある味わいは、今でも地元の人達に伝えられており、味もさることながらヘルシーで健康に良いと評されています。

あまり知名度はないですが、尾瀬ヶ原に向う途中に「ミニ尾瀬公園(*11)」なるものが存在します。
*11
尾瀬の自然を一足早く身近に経験できる公園で、檜枝岐村の中心部から2kmほどのところにあります。ミズバショウやニッコウキスゲ、コマクサなど尾瀬や近隣の山々に咲く草花を中心に、100種100万株が植栽されています。バリアフリーで車椅子でも入園も可能です
背中にパソコンがなけりゃ尾瀬行ってたけどあるのでやってきましたミニ尾瀬公園
— ききり (@kiri_chest) June 4, 2022
看板二つあるのがやんかとても田舎の施設 pic.twitter.com/1A9gEcZbL8
立金花に蜂が付いてる pic.twitter.com/qAXDeoMZk4
— ききり (@kiri_chest) June 4, 2022
このミニ尾瀬公園、尾瀬ヶ原に入らなくても尾瀬ヶ原の貴重な植物を拝める施設であるとともに、檜枝岐の文化の紹介施設見たくもなっているのですが、

食すこいつはサンショウウオジェラート pic.twitter.com/6T56SJsJhK
— ききり (@kiri_chest) June 4, 2022
食えます。サンショウウオ(*11)。刺さってます。サンショウウオ。
カフェにはインパクト抜群、映えること間違いなしのスイーツがあります。それは「サンショウウオジェラート」!燻製のサンショウウオがジェラートにぶっ刺さっています。ミニ尾瀬公園を訪れたらぜひお試しを。
コーヒーおいしい。
ちなみに先っぽに刺さってる燻製だけでなく、ジェラートの中にも砕かれたサンショウウオが練りこまれています。
会津産のミルクを使った優しい甘さのジェラートの中に、サンショウウオの苦みがアクセントになっておいしい。燻製された硬さもまたアクセントとして最高で、メリハリの効いた魅力がある。
コーヒーおいしい。
しかし、まさに、燻製されて変わり果てていたとはいえ、造形は僕のあれだけ追い求めていたハコネサンショウウオそのものです。
食べられるということを知識として知っていても実際に食べてみるとやっぱり違いますね。
生きているサンショウウオは表面を粘液を覆っていてあまり食欲の沸くものだとは言えません。(燻製の姿に食欲が沸くかは別の話ですが)
生きたサンショウウオをみて、食べられるという知識だけだったときはどうやって捕まえようとかそういう感情しか沸いてきませんでしたが、今はもう食べたときの触感とか味とか…そういうものが思い出されるところがあります。
推し、美味しかった。
終わりに
食事(しょくじ)とは、基本的には生命維持に必要な栄養素を摂取するために、日々習慣的に何かを食べること[1]、そこから転じて、その時食べるものを指すこともある[1]。「衣食住」の「食」にあたる。
生命維持に必要な栄養素というものは、人体の維持に必要なものだけをさしますが、しかし、同時に人類はそれを少しでも楽しくしようという努力をしてきました。
高いレベルではムースと称して栄養の薄い泡を接種したり、低いレベルでは毒がなくて栄養があってもおいしくないものは食べないとか……。
人々は食事という不可欠のものに対しても選択的に娯楽を求めてきたといえるでしょう。ならば、娯楽もまた食事の一形態として、生命活動に必要な欲求の一つと言い張れるのではないでしょうか。
だとするならば、オタクという人種は推しを「食事」しながら生きていると。
さすがにこれは与太ですが、実際、旅行に出かけ、現地の文化に触れて温泉につかると体力以外の何かが回復する気がします。少なくとも僕にとってこういった余計な行動は必要不可欠なものなのでしょう。
ききり