徹夜麻雀
もう会社の夏休みは終わった。
盆休みが終われば、あっという間に年末年始が来る感覚になる。
何かしら夏の翳りを感じることもあって、かつては夏休みの恒例行事だった徹夜麻雀を懐かしく思う。
大学生時代が一番頻繁に麻雀に勤しんでいただろうか。
夏休みなど週2は当たり前で、立て込むと前の徹夜麻雀を昼に終えて、その日の夜からまた新たなメンツで囲むのも珍しくなかった。
今思えば本当に元気だし、好きなことに夢中になれた良い時代だった。
幾つか未だに覚えている徹夜麻雀がある。
家が自営業で、田んぼの真ん中にポツンとある一軒家という絶好の場を持つ友人宅での30時間ロングランの闘牌。ちょうど8月も下旬の今頃だったか。
長丁場の闘いは、いつも以上に「ツキを長続きさせたい」と意識が傾く。
「ツキ」は得体が知れない。人に憑いているかと思いきや、場所に憑いていたり、その逆もあって、トータルしてもフラットになることは滅多にない。
「ツキ」を最初に掴んでしまうこと、長丁場になればなるほど、アドバンテージを持ちながらは有利に働く。
競馬も同じ傾向があり、長丁場のレースで末脚だけで勝ち切るのは至難の業になる。
その日の立ち上がりは悪くなかった。
最初の半荘2回の場替えまでで、トップ、2着と上手く滑り出した。
勝ちペースに持っていくためには、爆発的な浮きを何回か持って来れば、気持ちにゆとりができて、さらにゆとりがプラスを呼ぶ…そんな流れを思い描いていた。
場替えがあると、メンツ皆が考えることは同じ。まずはトップ席を狙っている。つまりは場に憑いたツキにあやかろうとする。
その日のツキの巡りは実に気まぐれだった。
4人交互にツキの巡りが平等に来ているようで、大差が出る展開にはならない。トータルで一番上がプラス30、一番下でもマイナス40程度の範囲に収まる、何とも膠着した流れが延々と続いていた。
現に2回連続トップがなくて、妙に丸い場だった。
良いなら良いなりに、悪いなら悪いなりにペースを考えるところだが、良いか悪いか分からない中で、動き方が難しい日だった。
最初はある程度の口数が飛び交う場も、深夜2時を廻る頃には牌の音が刻々と刻まれる場に変わる。
ここからは対局相手だけではなく、自分自身との闘いの様相でもある。
朝6時の時点で少しブレイク時間を取る。皆で吉野家の牛丼をテイクアウトしに出かけた。
その時点でも、まだトップはプラス40を超えていない。稀に見る接戦だった。
こういう徹夜麻雀におけるちょっとしたブレイクはツキの流れが変わる節目でもある。誰にツキがくっ付いて行くのか注視していた。
しかしながら、ツキの波はまさにベタ凪で変わらない。
良く言えば均衡した勝負だし、誰一人決め手を欠いたような状態が続いていた。
闘牌が始まってとうとう29時間が過ぎた。
もはや、皆疲れ切って場自体がオートツモオート捨て牌を繰り返す。
最後の半荘のこともよく憶えていない。トップでもラスでもなく、その戦局を象徴するみたいな感じだった気がする。
最終的に自身はマイナス5でフィニッシュ。あれだけの半荘を重ねてほぼチャラに近い結果に呆然とした。
一番トップがプラス20くらいだったか。彼の時給は100円を切っていた。
大敗を喫することを思えば、何と平和理に終われたことを良かったとするべきだろうが、浮き沈みを求めて行った行為の結果としては何とも言えない。
もうあの時に卓を囲んだ奴らも50歳を超えている。
もう同じ闘いは再現できないだろう。
勝った負けたの思い出よりも不思議に心に遺る夏の迷勝負…と言ったところか。