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《episode》vol.6 by Director KAZUYOSHI OKUYAMA

絵画「真実」について

近い将来、総合芸術の映画もAIで作れるという。しかし、本来、人間というのは皆に個性があり、光の当たり方ではその個性が歪だったり異質だったり・・・。だからこそ魅力的なのだが、AIはそのようなこともパターン化してこなすのだろうか。
中村文則さんのコメントに「あらゆる文化が平均化していく中で」という言葉があるように、映画も無難な計算がたつものが主流になっている。だがしかし・・・いや、だからこそ異端の映画を作っておきたいという強い「志向」が自分にはあった。その志向は美術や小道具にも無意識に影響した作りになっている気がする。
階段の踊り場にかけてある大きな絵画。後藤又兵衛の「真実」という表題の原画である。彼もある意味、異端の作家。画一傾向のある日本ではあまり評価されず知られていないが、海外では著名な画家という珍しい作家である。 「We Are The World」のキャンペーンで来日したハリー・ベラフォンテ(※)に日本のマスコミが「一番、会いたい 日本人は誰ですか?」と聞くと「又兵衛」と答えたそうだが、マスコミは「それは誰だ?」と言う反応だったそうだ。彼の絵のコレクター達には他にもエルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラ、また政治家でもヘンリー・キッシンジャーなど錚々たる名前が並ぶ。構図と色彩から訴えかけてくるものが非常にシンプルで明確な作家だ。「真実」も裸婦をモデルにして描いている絵描きが、逆に絵の中に入ってしまい、裸婦に見つめられているという構図をシャガール的鮮やかな色彩で伝えてくる。正に精神科医が患者と向き合うなかでも起りそうな逆転。原作には登場しない精神科医のキャラクター、その自省的性格を象徴するものとしてピッタリの絵画だった。
奇しくも、2025年は「後藤又兵衛 生誕100周年」だそうだ。

後藤又兵衛 作 絵画「真実」50号

■美術協力:薔薇画廊
後藤又兵衛画伯の絵画を所蔵している画廊です。

※ハリー・ベラフォンテ(1927年3月1日~2023年4月25日 享年96歳)
「バナナボート」や「さらばジャマイカ」「聖者の行進」など大ヒット曲で知られるアメリカの歌手。
全世界のトップミュージシャンが歌ったアフリカの飢餓と貧困層を救うためのキャンペーンソング「We Are The World」の発起人としても知られている。

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