#20 地獄のリーダー研修:前編
私のこれまでの「仕事」を振り返る上で、忘れられない4日間があった。
携帯ショップの店長になったばかりの2017年1月。
私は地獄のリーダー研修に送り込まれた。
3泊4日、20万円
「店長は全員受けている。ユーコは1人で行ってこい。」
私を可愛がってくれたおじいちゃん社長はそう言った。
「1人だと割引きかないから20万だけど、ユーコになら払う価値があるからな!」そう言って笑う社長に、「まじすか!元取ってきますね!」と飲みの席で軽快に答えた。
過去にその研修に参加した先輩店長に聞いてみると、全員が口を揃えて
「あれはやばい。」
「生きて帰って来いよ。」
と言うから私は何日も前から震えてその日を待った。
ユーコ、入隊の時
海沿いの大きなホテル。
その3泊4日の泊まり込みの研修に、様々な業種の部長・課長クラスー32歳の私は最年少ーの11名が参加。
場所がホテルだったから、ご飯は美味しいらしいし、夜は個室でプライベートも保たれる。受付をしてくれた研修会社の人もニコニコしている。
なーんだ!大丈夫そうじゃん♬なんて余裕すら感じていた私は、研修が始まってわずか10分で号泣することとなる。
みんな揃いのジャンパーを着せられ、前髪はまとめろとスタッフのお姉さんにアメピンでひっつめスタイルにされたユーコ。
ハウスルールのようなものの説明の後、自己紹介タイムを迎えた。
それはただの自己紹介ではなく、
広い会議室のような研修会場で
大声で
名前・会社・役職
自分のリーダーとしての短所を言え!というものだった。
「希望者挙手!」と講師が言うと、何人かの男性が手を挙げたのだけど。
後々聞いたら、職場の先輩に事前に内容を聞いていたから心の準備はできていたとのこと。
わたし聞いてなーーーーい!
そうして始まったパワー系自己紹介だが、「大声で」の部分で全員がやり直しをさせられた。
私は大声はそこそこ出せる。
3人いた女性陣の中でも第一声で群を抜いていた自負はあったが、それでも名前を言い始めると
「小さーーーーーい!」と遮られ、それは20回ほど続いた。
こうなると、どうなるか?
全員泣くのである。
年長の男性も、若めのお兄さんも、全員。
怖いんだかなんだかわからないあの感情は、後にも先にもあの時にしか感じたことが無い。気をつけ!の姿勢でやれ!と言われたが、両方の手が太ももの外側でブルブル震えた。
冷静に振り返れば、極限状態を作り出すことで一種の洗脳のような心理状態にするのかな?「そういう系」の研修動画を見ると、どこでも取り入れている手法である。
そうしてパワー系自己紹介を終えた時、私は化粧もすべて剥がれ落ち、前髪も無いまん丸の顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
仕事の10の鬼ルール
様々なアクティビティ(と呼ぶにはどれもみな過酷だったが)の中で、4日間通して行われたのはこの「仕事の10のルール」の暗唱。
実際のタイトルを出すとどこの研修会社かバレるので、ここではもじった呼び方をするけど。
仕事にはスピードが大事!とかこういう風に同時進行するものや!とか、こういう姿勢で仕事に向き合いなさいよ!とか、内容は至極当たり前のもの。
当たり前だけど、忘れがちだよね、みたいな。
これを最終日に発表させるから、暗唱するようにとの指令だった。
もちろん大声で、ね。
この極限状態において、仲間と言うものは非常に重要であり私たち11人は初日の夜からいくつかのグループに分かれて鬼ルール暗唱の練習をした。
社長からのオーダー
この研修のからくりはこうだ。
研修会社は、参加者の会社の社長や上司から「この子のこういうところを改善させてほしい」と事前に聞いている。
講師は個々の弱みを理解した上で、アクティビティの中にそれに気づいたり克服できるような研修運びをする。
私の「それ」は、
部下に厳しいことが言えない。もっと強くなってほしい。
というものだった。
直接的な言葉では言われていないが講師が私に言うことからそれを察したし、まぁたしかに当時の私はそういう店長だった。