哀捨て iN THE DARK 003/映像脚本+詞(コトバ)
當「悪かったよ」
陽「ウゼーよ!って言ってよ。パターンでしょ」
當「今、言えるかよ!」
陽「そうかなぁ!? ま、いっか。じゃあ、最後は私ね」
當「ああ」
陽「それだけ?」
當「え?」
育「その名前のように、ヒカリでこの闇を融かして下さい」
陽「さすがねぇ、ハグ」
渚「女の扱いに慣れ過ぎてない?」
育「え!? フツーですよ」
當「そうかなぁ!? ま、いっか。じゃあ、クレナイヒカリ頼むよ」
陽「真似しないでよ!」
渚「二人とも、ケンカしないの。とにかく、真紅の光を溢れさせてよ!」
陽「わかりました。ガンバってみます!」
○烈の部屋・内
何もない、もぬけの殻。
陽、呆然と立ち尽くしている。
陽「突然、ツヨシが消えたの。昨日まで、いいえ、今朝まで一緒に住んでい
たのに!? 今朝、いつものように一緒に玄関を出て、それぞれの会社に向
かったのに!? 何も言わず、何も言ってくれずに、いなくなってしまった
の」
○と或る町
陽、走り回り、あちこちの店に入っては出て来る。
陽「私は、捜しまわったの。ツヨシと一緒に行った場所とか、ツヨシが行き
そうな店とかを…。でも、どこにもいなかったし、痕跡さえ残っていなか
ったの」
音楽9『愛の夢船』イン。
○ライブハウス・外
陽、走って来て、中へ入って行く。
○同・内・ステージ
陽、マイクを持ち、歌う。
♪
冷たい 冷たい雨が 私の心に降る
あんなに愛してたのに あの人は消えた
時間を戻して あの人を引き止めたい
あの日に戻って やり直したいよ もう一度
愛の夢船に乗せたい あの日のまま
激しい 激しい風が 私の心に吹く
本気で愛してたのに 消えていなくなった
時間を戻して 引き止められるならば
あの日に戻って 話し合いたいよ もう一度
激しい風よ 戻らせて ねぇあの日に
そう…あの人は同じ夢船に
乗り続けたいと言ってくれた
なのに一人で降りてしまった
カゲもカタチも もう見えなくて
前に進めず 沈没しちゃった
○同・客席
育、渚、當が座っている。
育「(小声で)なんか、かわいそう」
當「ああ」
渚「…(頷く)」
♪
偶然 二人で同じ 夢船に乗り込み
いつしか恋が芽生えて 愛を始めてから
見つめ合い 語り合い
触れ合い 感じ合い
抱(いだ)き合い 融け合い
二人愛を深めたけれど
激しい風に吹き飛ばされ 海に落ちた
そう…あの日から違う夢船に
乗ってしまった二人だけれど
もう一度 夢船を浮かべて
二人の愛をやり直したい
だけど…もうあの日には帰れない
あの日々は戻って来ないこと
知っている 解っているけれど
愛の夢船はどこかにある
そして…いつかどこかで逢えると
そう信じていたいだけ
いつか きっと
陽、その場に座り込む。
(當)「クレナイヒカリは、一緒に住んでいた男に、突然、消えられた。何
の前触れもなかった」
(育)「というより、同じ夢船に乗っているとばかり思っていた。それなの
に、何故? その答えを聞きたくて、ヒカリは男を捜しまわった」
(渚)「男と一緒に行った場所。行きつけの店。心当たりのところには、す
べて行ってみた。しかし、痕跡すら残っていなかった」
音楽10『つないだ手』イン。
陽、ゆっくりと立ち上がり、歌い始める。
♪
つないだ手 離してしまったのはあなた
握り返さなかったのは私?
終わってたのかもしれない
終わらせたのかもしれない
二人の愛 あの瞬間(とき)
いつまでも続くと思っていたけれど
當、立ち上がり、ステージに上がり、マイクを持ち、一緒に歌い始め
る。
♪
はじまりの きっかけの告白はあなた
目を伏せてうなずいたのは君
想いを寄せ合っていたから
だからすぐに燃え上がった
二人の愛 あの瞬間
永遠に続くと信じていたけれど
間奏。
○客席
育「アタルさん、参加しちゃいましたねぇ」
渚「ええ。共感するものがあったのね」
育「はい」
○ステージ
陽と當、歌う。
♪
なのにあなたは消えた
君の前から突然に
何も言わないでつないだ手離してしまったのは何故?
握り返さなかったのは何故?
終わりを感じていたのか?
終わらせようとしてたのか?
二人の愛 その瞬間 消えてしまいそうに揺れていた残り火
終わってたのかもしれない
終わらせたのかもしれない
二人の愛 その瞬間
つないだ手 あんなに簡単にほどけた
○暗闇の中
當、陽、育、渚が浮かび上がる。
育「あ、見て下さい! 赤い光が」
上空に、紫、青、桜色の光の間に、紅色の光が灯る。
渚「ホント、輝いたわねぇ」
陽「ハグ、赤じゃなくて紅(クレナイ)よ」
當「クレナイヒカリかぁ。って、名前のまんまじゃん」
陽「悪い!?」
當「別に」
陽「ムカツク!」
當「ウゼーよ!」
SE:ものすごい風の音。
音楽4『哀捨て iN THE DARK⑤』イン。
(育)「すると、またものすごい風が吹いて来ました」
四人、風に吹き上げられる。
♪
哀捨て iN THE DARK
闇の中の 森の中
哀捨て FANTASy
祝福の鐘を鳴らそう!
Woh… Woh… Woh…
四人、吹き飛ばされる。
○緑のきれいな森の中
ジョイベル、ショウワァ、ミス・フォーチュンが歩いて来て、森の奥
へとどんどん進んで行く。
と、突然木の上から、ドングリリスの女の子が落ちて来る。
S「(ディーバの所へ行きながら)大丈夫?」
J「ケガはないかい?」
M「木登りの上手なドングリリスさんがどうしたの?」
D「キャー! (ジョイベルを見て逃げようとして、転ぶ)」
S「逃げなくていいんだよ。ジョイベルは、君を喰べたりしないから」
M「本当よ。信じていいわ! (ディーバを助け起こす)」
D「ホントかしら? あなたたち、グルなんじゃないの?」
M「なぜ?」
S「どうして?」
D「あなたたち二人を喰べない代わりに、彼の喰べものを探してあげてるん
じゃなの?」
S「そんなことしないよ!」
M「ジョイベルは、友だちよ!」
D「友だち? オオカミと!?」
M「そうよ! 私に名前をくれたのよ」
D「名前を?」
J「まぁ、その話は長くなるから後にしようよ。それより、足は大丈夫な
の?」
S「そうだね。足を見せてごらんよ」
D「大丈夫よ! ほっといて! (慌てて駆け出すが、すぐに転ぶ)」
J「(駆け寄り、助け起こし)僕は、君を喰べたりしないよ。さぁ、足を見
せてごらん」
ディーバ、恐る恐る足を前に出す。
ジョイベル、その足に触れる。
D「痛いッ!」
J「骨は、折れてないみたいだね。でも、歩けないだろ? だから、治るまで僕が背負ってあげるよ」
D「でも…」
S「ジョイベルは、ゼッタイに君を喰べたりしないよ」
M「私たちは、友だちなの。信じて!」
ショウワァとミス・フォーチュン、ディーバを見つめる。
D「わかったわ。一緒に連れて行って下さい」
S「やったぁー!」
M「わかってくれて、ありがとう!」
ショウワァとミス・フォーチュン、手をたたいて喜ぶ。
J「どうして君たちが、そんなに喜んでるの?」
M「だって、友だちが増えたのよ」
S「そうだよ!」
D「友だち? (三人を見回す)」
J「うん! 僕たち四人は、友だちだ!」
全員「おーッ!!」
J「ていうか、君の名前は?」
D「私は、ディーバ」
J「ヨロシク、ディーバ。僕は、ジョイベル」
S「僕は、ショウワァ」
M「私は、ミス・フォーチュン」
D「こちらこそ、ヨロシクね!」
(四人)「こうして、四人の旅が始まりました」
M「ディーバって、歌姫って意味でしょ?」
D「ええ」
S「歌が好きなのかい?」
D「大好き! でも…」
J「(心配そうに)なにかあったの?」
D「うん。ちょっとね」
J「よかったら聞かせてよ」
M「話すだけでも楽になるわよ」
S「そうだよ!」
D「…。(俯く)」
J「言いたくないことなら、無理して言わなくてもいいよ」
M「そうね」
S「そうだよ」
D「みんな、やさしいのね。ありがとう。私ね、リスの合唱団に入ってい
て、今までは、ずっとソロのパートを唄わせてもらってたんだけど、今度
のコンサートでは、別の女の子が歌うことになっちゃったの」
M「その女の子は、歌が上手いの?」
D「ええ、とっても」
S「(すかさず)その女の子は、かわいいの?」
D「ええ、とっても」
J「そんなこと、関係ないだろ!」
S「ごめん、ごめん」
M「でも、どうして木の上から落ちちゃったの?」
D「昨日、そのことを聞いてから、頭の中が真っ白になっちゃって、どこを
どうやって歩いて来たのかもわからないし、どうしてあの木の上にいたの
かもわからないの」
M「そうなんだぁ…」
D「ええ。それで、いつのまにか寝ちゃってたらしくて、気がついたら木の
上から落ちてたの」
音楽11『まっしろに』イン。
○木陰
ディーバ、歌い始める。
ジョイベル、ショウワァ、ミス・フォーチュン、少し離れた場所に座
り、歌を聴く。
♪
鏡に映った 顔は誰?
見知らぬ気配に 驚いて
息を殺して 覗き込む
しばらくすると すぐ気付き
見慣れた そう…私です
哀しみに 心奪われ
一晩中 泣き明かした
予期せぬことに まっしろに
まっしろになって しまったの
鏡の私は 私じゃない!
見たこともない 顔だった
そんな気がした けれど…私ね
思考回路も まっしろで
何も考えられなくて…
まっしろな夜を過ごしたの
まっくろな闇の中なのに
不甲斐なくて 涙込み上げ
溢れ出し 零れ落ちたの
哀しみに 心奪われ
一晩中 泣き明かした
予期せぬことに まっしろに
まっしろになって しまったの
ディーバ、その場に座る。
J「そうとうショックだったんだね」
D「ええ。もうコンサートになんか出たくないわ!」
J「そんな、ダメだよ! ねぇ、ショウワァ」
S「そうだよ! そんなことくらいでやめちゃダメだよ」
D「そんなことですって! 私にとっては、一番大事なことなの!」
S「別に、そんなつもりじゃなかったんだけど…」