古着の記憶/それは試着室で甦る 001-3/映像脚本
○YMマンション・外
ドアが開き、京子と運転手が出て来て、急いで車に乗り込み、走り去
る。
○同・ミキの部屋・内
洋服のはだけたミキが目を覚まし、事態に気づき、泣き叫ぶ。
○走る車・内
京子「(運転手に)わかってるとは思うけど、誰にも言っちゃダメよ!」
運転手「もちろんです」
京子「とりあえず、どこか外国へ行きなさい」
運転手「はい」
京子「すぐに送金するから、心配しないで」
運転手「ありがとうございます」
○YMマンション・ミキの部屋のベランダ
窓を開け、ミキが出て来る。
ミキ「健一さん…ごめんなさい…」
そう言って、手すりから飛び降りる。
○一条のオフィス・内
一条がパソコンを叩いている。
と、机の上のスマホに着信。
一条「(スマホに出る)はい。…え、警察? …何だって?(立ち上がる)」
○タクシー・内
一条、茫然として座っている。
刑事「(声:以下同)わかっている事実だけをお伝えします。吉沢ミキさん
は、何者かによってレイプされました。そして、その後、自室のベランダ
から飛び降りました。解剖の結果、即死だということです。犯人は、全力
を上げて捜索中です」
一条「目星はついているんですか?」
刑事「それは、お答え出来ません」
一条「そうですか…」
○夜空に浮かぶ
高原京子の笑顔。
○タクシー・内
一条「高原だ! ヤツに違いない!」
タクシー運転手「お客さん、大丈夫ですか?」
一条「急いでください!」
タクシー運転手「え? あ、はい。わかりました」
○と或る公園・夜
辺りには誰もいない。
そこへ、必死の形相の京子が走って来る。
そのすぐ後ろから、三着目のシャツ(裏返し)を着た一条が、ナイフを
手に持ち、追いかけて来る。
すると、京子が何かに躓き、転ぶ。
追いついた一条が、京子に馬乗りになり、ナイフを振り上げ、京子の
胸に突き刺す。
と、断末魔の叫びを上げる京子。
一条、身体を起こし、京子を見下ろす。
一条「(深呼吸をして)誰だ? 誰がやったんだ?」
京子「う…運転手…」
一条「社長、お前のか?」
京子「え…ええ…(咳き込む)」
一条「おい、まだ死ぬな! 運転手は、今どこにいるんだ?」
京子「どこか…外国…」
一条「どこだ!」
京子「わか…ら…ない…(息絶える)」
一条「(京子の身体を揺さぶり)高原! 高原! チクショウ!」
そう言って、ゆっくりと立ち上がり、夜の闇の中へ消えて行く。
○空港・国際線搭乗口
一条、キャリーケースを転がしながら歩いて来て、搭乗口へ入って行
く。
○飛行機・内
一条、自分の席を見つけて座り、虚空を睨みつける。
○滑走路
飛び立って行く飛行機。
○と或る国の森の中・夜
運転手が、必死の形相で走って来る。
すぐ後ろから、一条が追いかけて来る。
その手には、拳銃を持っている。
一条「止まれ! 逃げても無駄だ!」
必死に逃げて行く運転手。
一条、その場に止まり、拳銃を構え、引き金を引く。
運転手が叫び声を上げ、倒れ込む。
一条、運転手の元へ行き、首に指を当てる。
一条「(立ち上がり、空を見上げ)ミキ、仇は取ったぞ! ミキィー!!」
○ドローンカメラが
上昇して行き、森全体を映し出す。
○STRESS・試着室・内
桜木「ウオォォォォ! ふ、ふ、二人も殺した! なんだ、なんなんだこれ
は? (シャツを脱ぎ捨てる)」
◯同・店内
正臣、レジカウンターの中で試着室を見ている。
桜木、勢いよく試着室から出て来る。
桜木「店長! 今のはなんなんですか? あれは現実なんですか?」
正臣「まぁ、端的に言えば、古着の記憶ってヤツです」
桜木「ていうことは、今、俺が見たものは、現実に起きたことなんです
か?」
正臣「そういうことですね」
桜木「そんな古着が、何故ここにあるんですか? 警察の証拠品ですよ
ね?」
正臣「まぁそうなんですが、出所は秘密です」
桜木「警察に提出するべきですよ!」
正臣「いつの事件なのか、わからないじゃないですか?」
桜木「それはそうですけど…」
正臣「それに、こんなこと、警察が取り合うと思いますか? いわゆる怪奇
現象みたいなものですよ」
桜木「そうなのかなぁ…」
正臣「で、どうしますか? お買い上げいただけますか?」
桜木「買うわけないじゃないですか! 悪いですけど、二度と来ませんか
ら!」
正臣「あらら、それは残念」
桜木、店を出て行く。
正臣「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。(深々
とお辞儀をする)」
(終)