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各駅停車

仕事の帰り道。各駅停車。
あの夏、好きだった人に会うために何度も通った駅に止まる。


エッセイであり、創作であり、そんなお話です。供養。



初めての年下の恋人。1つ年下だった彼は、6年制大学に通う学生で、あと1年で卒業だから卒論に、試験勉強に、教習所に、バイトに、遊びに、とっても忙しそうだった。

出会ってすぐ向こうからぐいぐいきて、年下だからなぁなんて思って渋ってたのに、そんな彼に根負けする形で付き合い始めた。


わたしは、恋人に対して壁を作ってしまう癖があって。一緒にいすぎて、相手のことを知りすぎて、わたしの方が好きが大きくならないように、依存しないようにと。

だから、この時もあまり近づきすぎないように、忙しいからと仕事を言い訳にしたりして。でもそもそも社会人と学生だと生活リズムが違いすぎて、お互いが意識しないと全然会えなくて。

全然会えないね、今度ゆっくり旅行にでも行こうかなんて一泊する計画を立てた。旅行の少し前に彼から電話があって、「2日間も一緒にいたらきっととても寂しくなる今までみたいに会えないのがもっと辛くなると思う」なんて言われてしまって。聞けなかったけど、電話口の声が震えてて、もしかして泣いてるのなんて。

そんなにわたしのことすきなのって、そしたら、うん。って。ばかだけど、そのときかわいいなって思っちゃって。男の子のこと、かわいいって思っちゃった時点で負けなんだよね。かっこいいは減点されるけど、かわいいは無限に加点されちゃうから。

自衛できてるつもりでいたけど、きっともうこの時には、年下の彼にぞっこんだったのかもね。本当はね、わたしも少し寂しかったの。だから時間作るからもっと予定あわせて会おうね。って。

それから旅行にも行ったし、平日も土日も時間を作って予定をあわせて会った。お互いそれなりに忙しかったけど、お出かけしたり、一人暮らしの彼の家でのんびり過ごしたりしたね。

何度も通った駅。何度も通った家までの道。何度も鳴らしたチャイム。全部わたしは覚えてるよ。忘れたいのに。

金曜日の夜から家に泊まって。土日バイトや教習所に向かった彼の帰りを、彼の家で家事をしたり、ご飯の準備をしながら待ったりもした。月曜日彼の家から出勤するときどうしても寂しくて仕事行きたくないなぁなんて思う時もあった。


ねぇだいすき。俺も大好きだよ。ずっと一緒にいてくれる? うん。ずっと一緒だよ。このままずっと続けばいいと思ってたよ。わたしはね。怖かったけど。信じてもいいかななんて思ってたりしてね。


◇   ◇   ◇


ごめん。別れよう。

たったこれだけ。電話で。何でって聞いたら、国家試験の勉強に集中したいからなんて言われて、わたしは待ってるよって言ったけど、そのあと続いた言葉は、わたしへの批判で。はいはい。まただよ。集中できないことをわたしのせいにして、わたしが重いって。

会って話したい。無理。何で?だって絶対泣くじゃん。

あぁ、わたし泣かせてももらえないんだね。顔を見てお別れもしてくれないんだね。そんだけだったんだね。

わたしのせいにしたけどさ。本当は気付いてたよ。
連絡頻度が減ってたことも、会う約束断られるようになったことも、話してても上の空のことも、家でしか会ってくれなくなったことも。ベッドの横の箱の中身。前回会った時より減ってたことも。

全部気付いてたよわたし。怖くて何も聞けなかったけど。いっつも気付かないようにって。頑張ってたけど。

頭いいのに、そういうの隠すの本当下手くそだったよね、

   ◇   

わたしの誕生日。わたしの好きなブランドの指輪をプレゼントしてくれて。ねぇこれどこの指につけたらいいの?って聞いたわたしに、そんなの薬指に決まってるでしょって。とっても照れながらつけてくれたよね。

サヨナラの数か月前。どんな気持ちで用意したの、指輪。
最後の電話。言いたいこといっぱいあったし、聞きたいこといっぱいあったけど、それさえ許してくれなかったね。

だって絶対泣くじゃん。馬鹿だね。わたし、あなたのために泣いたりしないよ。


◇   ◇   ◇


それから君は、国家試験に受かって、車の免許を取って、就職して、彼女と同棲して。彼女にもずっと一緒だよって言うんだろうね。でもきっと今度はそれを守るんだろうね。

免許取ったら1番に助手席に乗せてあげる。それで一緒に海に行こう。
なーんにもわたしとの約束守ってくれなかったのにね。


俺の住んでるところ、各駅停車じゃないと止まらないからって。なのにわたしが間違えて急行に乗るたびに、一緒にいる時間が短くなったって不貞腐れて。もう絶対急行乗らないで。各停だけ使ってって。
わたし律儀にそれ守ってたんだよ君の家に行かないときも。君があの駅から彼女と去った後もずっと。

変なことばっかり、くだらないことばっかり覚えてるねわたし。なんでそんなに好きだったのかも、なんでそんなに執着してたのかも、全部もう覚えてないのにね、



あれから転職して、あの頃と同じ路線を通勤で使ってる。
でももう各駅停車には乗らない。何度も降りたあの駅を今日も通り過ぎる。

わたしやっと過去にできたよ、



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