彩映と心晴(前編)【マイキャラストーリー】
※これはプリマジのマイキャラ「いろは」と「こはる」の過去のお話です。
彩映と心晴(前編)
彩映(いろは)は3歳の時に芸能界に入った。
子供服専門のブランドのキッズモデルの公募に母親が応募しすんなり受かった。母親も彩映も特に驚かなかった、なぜなら彩映は明らかに他の子より可愛い容姿だった。
彩映の幼少期の記憶はいつも母親と一緒だった。最初のモデルの仕事以来、母親は本格的に彩映を芸能人にするべく画策した。彩映もそれが嫌だとか辛いだとかは思わなかった。だって皆が「かわいいね」「えらいね」って褒めてくれるから。
ただ一つ嫌な事があった。それは仕事が取れなかった時の母の落ち込みようだった。彩映は別に仕事があってもなくても気にしない、ただ母の落ち込み方は子供から見ても痛々しい物であった。当時は何故あそこまで落ち込んでるのか解らなかったが後に審査に父の職業や母の容姿が含まれていたことを知った。
もちろんこれは公式に言っていることではない。
しかし子供を採用する場合、それと同じくらい親も審査される物なのだ。それで言うと彩映の家庭はそこそこ裕福であった。外資系で働く父はいつも仕事で帰ってこないが、たまに帰ってくると必ず遊園地やテーマパーク等に連れて行ってくれる。
彩映が2歳くらいの時、父のことを「休みの日に来るおじさん」と言ってしまい、しばらく家族間で笑い話にされた事があった。思えば家族の楽しい思い出はあそこまでだったかもしれない。
結論から話すと、彩映の家は崩壊した。
母は彩映をより多くの仕事に就かせる為に、あらゆる募集の場に彩映を連れて行った。その時かかる交通費や食事代、親子の洋服代もバカにならなかった。最初でこそ父は黙認していたが、彩映が幼稚園に入るくらいの時に「そろそろ辞めないか」と言ってきた。
母は「この子の可能性を潰さないで!」とヒステリックになった。父がお金を出し渋ると母は遠方の実家を頼りにして金を無心した。祖父母からすれば可愛い孫娘を連れてきて「芸能人の可能性がある」なんて言われたら財布の紐が緩んでしまうのも仕方なかったのかもしれない。
しかしこれが結果的に親族の間で話題となり、母を孤立させる決定打となった。それからは何度か小さい仕事を受け続ける生活をし、それなりにメディアにも出演し業界人とのコネクションも出来ていたが、彩映が小学4年生になるタイミングで「一旦辞めよう」という話になった。
理由はいくつかあるが、まずは私立中学への受験勉強が必要になったこと。そしてもう一つは母の健康状態だった。母は数年前から心療内科に通っていたが、今では怪しげな健康療法に手を出している。この水を飲めば毒素が抜けるとか、カーテンを変えたから陰の気を遮断出来るとか、所謂スピリチュアルな方向にのめり込んでしまった。
父はもう母に何も言わなくなっていた、もう家でおとなしくしてくれさえすればどうでも良いという顔だった。ただ娘の将来に悪影響があってはいけないと、きちんと娘と対話をし、良い父親であるよう努めていた。
彩映は学校でも芸能人である事を知られていた。それによる妬み嫉みのような物もあったが、幼少期から大人たちに対して「求められている顔」をする癖が付いており、同級生に対してもそれを発揮した。
そんな頃、同級生の間でプリマジが流行っていた。歌とダンスで織りなすエンターテイメント、それはまるで魔法のようなステージだった。
彩映もアイドルの真似事のような事は何度か仕事としてやってきていたが、それとは桁違いのパフォーマンスだった。そのステージを届けるプリマジスタはどれも若い女の子ばかりだった。
彩映の中である感情が芽生えた、もしかしたら私がプリマジスタになればママは喜んでくれるんじゃないか?そうしたらまた父親とも仲良くなって、あの頃の楽しかった家族に戻るんじゃないか。さっそくプリマジのライブを母に見せてみた。
「そうね…彩映なら出来るんじゃない?」
少し拍子抜けしてしまう反応だった、てっきり昔のように目を輝かせて盛り上がるかと思ってた。
そういえばここ数年そんな母の顔は見た事がなかった、あれ?私ってなんで芸能人やってたんだっけ…?
「まあこれもいいけど、そろそろ私立受験なんだからね、勉強ができないとママみたいになっちゃうわよ」
ママみたい?ママってどんな人だっけ。
目の前にいる母の顔を見つめる、眉間に皺が寄り、不機嫌そうな顔の女性がいた。その時初めて気づいた、ママが明るい顔してたのは私が仕事をしてた時だけだった。
彩映は母親のことを嫌いにはならなかったが、哀れに思ってしまった。
私はママのお人形だったんだね、そして自分には叶わない夢を人形に託してたんだね、かわいそうなママ。
彩映はその日からプリマジスタになる事を決意する。誰の為でもない自分自身の為に。
そんな時ちょうど彩映の住む地域でプリマジスタの公募が始まった。
「デュオプリマジスタ大募集!お友達と一緒にステージに立とう!」
学校の図書室で彩映はフライヤーの眺めていた。公募は2人1組の募集だった。彩映は悩んだ、芸能界の友人はそんなに仲良くないし、対抗意識があるからやり辛い。かと言ってクラスメイトでステージに立てそうな子もそんなにいない…
そんな時ふと窓際に座っている人物に気づく、同じクラスの心晴(こはる)だった。いつもおとなしく影の薄い子だったが、よく図書室にいたらしい。本を読みながら目を輝かせている。彩映は思い切って声をかけた。
「ねえ、プリマジって知ってる?」
後編につづく