目 Ⅰ

目 Ⅰ

 私は一番になりたかった。

 あの人の、一番になりたかった。ずっと、ずっと。

 中学、高校と、私は彼の後ろを追っていた。格好いい彼の姿はいつも輝いていた。晴れの日も、雨の日も、雪の日も、輝いて見えた。

 私は二回振られていた。

 三回目、大学に入ったとき、もう一度私は告白した。

 彼は言った。

「好みじゃないんだ。これ以上、俺に付きまとわないでくれ」

 好みじゃない。いったい、私の何が、何処が悪いというのだ。

 こんなにも愛しているのに。私が、この世で一番彼を愛しているというのに。

 私は悩んだ。彼の事を研究した。彼が何を食べ、何を読み、どんな服が好きか、どんな映画が好きか。私は彼を研究した。

 程なくして彼の横には女性がいた。大学で、いつも彼に付きまとっていた女だ。私とは正反対の、髪を茶色く染め、派手な格好をした、美しい女。

 ある夜、女は彼と一緒にホテルに入っていった。私は、彼が出てくるのを待った。ずっと、ずっと待っていた。明け方、彼がホテルから出てきた。

 彼の優しい笑顔。

 彼女の幸せそうな笑顔。

 そうか。

 私は理解した。彼は、見た目だけで判断していたのだ。彼女にあって私にないもの。それは美貌。

 私は悩んだ。

 この顔は生まれ持った物だ。おいそれと変えるわけにはいかない。それに、時間が無い。これ以上、あの女に彼が騙されているのを黙ってはいていられない。

 彼は騙されているのだ。彼女の色香に、彼女の美貌に。

 私は決断した。私は一番彼を愛している。世界中で、一番、誰よりも、彼を愛している。彼がいれば、他に何もいらない。お金も、宝石も、なに一つ。彼さえいればそれでいい。

 私は彼を襲った。

 はさみで彼の両目を突き刺し、目を潰した。途中、暴れたが、すぐに大人しくなった。

 これで、彼はあの女を見ることができない。目が見えなければ、誰が美しいかなんて関係ない。

 私が彼の面倒を見る。朝昼晩、彼に食事をさせ、彼をお風呂に入れて、一緒に寝てあげる。私の愛が、彼を包み込み、救ってあげる。

 これで、彼も分かったはずだ。誰がこの世で、一番自分を愛しているのかを。

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